《異世界戦國記》第三十二話・父

の酒を飲みほした忠政は飲んだ分の金子を後日屆けると言って刈谷城へと戻っていった。まあ、確かに宴用に集めていたのに一晩絶たずに無くなったからな。いくらなんでも飲みすぎだと言いたい。

そんな事があったが織水同盟は無事に結ばれ俺は本格的に城取りを行うために準備を始めた。元々信友軍に備えていたこともあり兵の準備はスムーズに行われ後は時期を見て行うだけであったがここで問題が発生した。

父、信定が危篤となったのである。

母上が死んでから緒不安定となり一日中部屋に籠りっきりとなっていた父だがここ最近は寢込むようになっていた。人間五十年のこの時代から考えると四十を超える父はまだ働けると思うがそろそろ限界なのかもしれない。

そんなわけで俺や信康、信、信次それに叔父上秀敏も集まってきている。敏宗叔父上も伊賀との渉が上手く行き戻ってきている途中らしいが間に合うかどうかは分からない。

俺たちが部屋にった時には父は寢ていた。皺で覆われた顔、現役のころより痩せこけた、そして四十臺には決して見えないほど老衰している。見た目だけで言えば八十にも見える。暫く父を囲んでいるとふと父が目を覚まして俺の方を見た。

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「…信秀…」

「父上」

「…信康に信…信次も…それに秀敏まで…」

「「「父上!」」」

「兄上…」

余りの痛々しさに弟たちと叔父上は聲をらす。そんな俺たちを父は力なくだが笑った。

「儂と、いぬゐの大切な子供にそれと同じくらい大切な、弟よ…、立派になったのぉ」

「父上、そんな弱弱しい事を言わないでください」

俺は無意識のうちにそう言っていた。そんな俺を父は見る。…生まれたばかりのころはあまりのこわもてに泣いてしまったがそんな面影はもう何処にもない。…それなのに、何で涙が止まらないんだろうな…。

「ほらほら、弾正忠家の當主ともあろうものがこの程度で泣いてどうするのだ…」

「…」

「ふ、儂が家督を継いだ時はもっと勇ましかったぞ…」

そう言うと父は懐かしむように一人語りを始めた。

「あの頃は兄上が討ち死にして急遽當主となってな…。本當は兄を支えるつもりだったがそんな事を、言う事は出來なくなっていた。…そこからは無我夢中だった。弾正忠家を大きく、することに躍起になっておったのぉ」

父は途中息に詰まりながらも離し続ける。

「そんな時じゃった。いぬゐと出會ったのは…。政略結婚ではあったが儂はいぬゐを見て一目惚れしてしまっていた。そこからはいぬゐが隣で儂を支えてくれたおかげで余裕が出來た。そして、信秀。そなたが生まれたのじゃ」

そう言って笑う父は今まで見た父の笑顔の中でも一番印象に殘る笑顔であった。

「そこからはおぬしらを守るために頑張ったがいぬゐには先に旅立たれてしまった。…だが、もうすぐ向かうことが出來る」

「「「っ!?」」」

「兄上!」

「父上!」

思わぬ父の言葉に弟は凍り付き俺と秀敏は思わず聲を上げてしまう。そんな様子を父は可笑しそうに笑う。

「ハハハっ、冗談じゃ。…信秀よ」

父の言葉に安堵の息をつくと真剣な表でこちらを見てくる。俺はそれにこたえる。

「弾正忠家は現在今までにないほどの勢力を持って居る。こういう時にこそ家中の気を引き締めよ。これを怠れば待っているのは破滅への道だ」

「…はい」

「…ふ、し喋りすぎたの。すまんがひと眠りさせてくれ。弟や他の息子たちへの言葉はその時に言おう」

父はそう言うと靜かに眠りへとついた。

そして、目を覚ますことなく翌朝靜かに息を引き取った。その際顔は笑みを浮かべていたという。

織田信定、年四十二。勝幡城の一室で死去。

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