《異世界戦國記》第三十六話・怒れる者と思案する者

「城を落とせなかった、だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

清州城にて信友の怒號が響いた。あまりの聲量に鳥が一斉に飛び立ち城下町の端まで聞こえたという。

そんな聲の持ち主織田信友は顔を真っ赤にして目の前で平伏する坂井大善を睨みつける。

「俺は言ったはずだ!必ず攻略して來いと!それなのにこのたらくはなんだ!」

「も、申し訳ありません。しかし、わずか二千では城攻めも上手く行かず…」

「言い訳などしないでもう一度攻略して來い!」

信友はそう怒鳴ると大善を思いっ切り蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた大善はそのまま後方へと吹き飛ぶ。は取ったようだがそれでも痛みはあり表を歪める。そんな中信友の小姓が慌てた様子で評定の間へとって來た。

「失禮します!先ほど稲葉地城陥落の知らせがりました!」

「なんだとぉ!」

信友は思わず小姓のぐらをつかみ睨みつける。一方の小姓は報告しただけであったが予想以上に信友の機嫌が悪く死を覚悟しながら怯えていた。信友は小姓を投げ捨てると大善の方を向く。

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「大善!俺はこれから稲葉地城奪還のために出陣する。貴様は先方となり命を懸けて取り返せ。いいな?」

「は、ははっ!」

信友の言葉に大善は平伏し評定の間を足早に出ていく。そして大善は途中坂井甚介、織田三位と出會う。

「大善、無事なようだな」

「ああ、蹴られたが大した事は無い。それより稲葉地城の事は聞いたか?」

「ああ、先程聞かされたよ。と言う事はお前が取り返しに行くのか?」

「いや、今回は當主自ら出陣するらしい。俺は先方だ。全く、最初から全力で行けば羽鳥城すら取り返せていたかもしれんのに…」

「今更それを言ってもしょうがない。今は稲葉地城を取り返すのが先決だ。あそこは南部から清州を守っていたからな」

稲葉地城は地理的に清州城の南部に位置しており清州城や信友配下の志賀城を守ってきた。その為ここを取られるのは不味い狀況と言う事であった。

「そもそも信秀の進軍速度が異常だ。今回の侵攻で稲沢城、羽鳥城だけでなく北部の二城まで落としている。既に尾張の半分を領有している狀況だ」

甚介はあり得ない者を見る目で言う。それに織田三位も頷き大善も同意であった。

「兎に角信友もそろそろ滅びる可能がある。我々がそれに付き合う必要もない。最悪義統を使って和睦するのも手だ」

義統とは尾張守護の斯波義統の事で本來は家臣筋の信友によって清州城に幽閉されていた。その為斯波家の家臣団は當主を失い空中分解して義統の家臣と呼べるものはほぼ存在していなかった。

「しかし名ばかりの守護が使えるのか?」

「あれでも一応守護だ。その権威はまだ存在している。最悪信秀に殺させるのも手だ。守護殺しを大々的にび信秀を孤立させ弱化させることもできるだろう」

甚介の言葉に大善と三位は程と頷く。

その後も三人は話し合いを続けある程度案がまとまったことでそれぞれの準備へと向かって行った。

翌日、織田信繫軍千五百に信秀軍千五百合流。信友軍二千五百海津に陣を張る。

後に萱津の戦いと呼ばれる戦が始まろうとしていた。

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