《異世界戦國記》第七十四話・加納口の戦い1

戦端を切ったのは意外にも斎藤家からだった。

「行くぞ! 我らの力を見せつけるのだ!」

「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

野弘就率いる約七百の軍勢が門を出て攻撃を仕掛けてきたのである。これに対応するのは佐久間信晴率いる千五百の兵だが自分たちが攻める側だと思っていた前線の兵は軽い混狀態になった。侍大將などが混から立て直そうとするがそれより早く弘就の軍勢が襲い掛かった。

門よりそれなりに離れた場所で戦となり混する佐久間勢が押し込まれていく。やがて兵數で勝っていたはずの佐久間勢はしづつ後退していく。佐久間信晴自が槍を持ち前線で戦う事で辛うじて瓦解を防いでいるがこのままではそれも時間の問題となっていた。

このように、斎藤家が優勢で始まった攻城戦だが他の場所は日野弘就のようにはいかなかった。林道安の擔當する門は日野弘就や岸信周と同じように高政への忠誠心が厚い不破治が擔當しているが劣勢であり道安が門やその周辺を制圧下に置き始めていた。

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柴田権六と水野勢が共同で擔當する南側の門は両者ともに兵數が多い激戦區となり互いの矢が雨のように降り注いでいく。柴田権六は自分の武勇は使わずに後方で指揮に徹している。攻め時を見極め冷靜に指示を出していき段々と門周辺を確保し破城槌を打ち込み始める。

しかし、一か所だけ他と比べて上手く行っていない場所があった。織田三位率いる斯波軍百と織田家六百の連合軍である。

「くっ! 怯むな! なんとしても門を突破するのだ!」

織田三位の焦ったような聲も兵たちの悲鳴でかき消される。連合軍と対峙する加藤景泰は兵力差がそこまで大きくないことを利用して有利に防衛線を行っていた。既に三十近い死者を出しておりその半分は功績を上げろと言われ焦った三位が繰り出した斯波家の兵だった。

「三位殿! 一旦兵を引きましょう! このままでは無駄に死者を出すだけです!」

「馬鹿な!? ここで引くなど出來る訳がないだろう!?」

織田側の兵を率いる橋本一はしもと いっぱの言葉に三位は怒鳴るように答える。織田信友の重臣だったという事で斯波義統の下で肩の狹い思いをしてきた織田三位。今回も兵を率いた経験がある者が三位しかいなかったという理由で総大將となっているがもし功績を上げられなければどうなるか分からなかった。故に、三位は兵が犠牲になろうとも確かな功績を必要としていた。

「兵には引き続き攻撃させろ! 矢など気にせず門を突破させるのだ!」

「だ、だが……」

「うるさい! 私の言う事を聞け! 私は尾張守護、斯波義統様の代わりにここにいるのだ! つまり私の言葉は義統様の言葉という事だ!」

「……」

「分かったのならさっさと行け!」

三位の怒聲に呆れたような視線を向ける一。彼の目には三位はただの愚者にしか見えなかった。同時に彼を総大將にする義統への不信も高まりつつあった。今にも刀を抜きそうな三位に背を向けた一は自軍の下に戻る。そこでは兵の指揮を執っていた平田祐秀ひらた すけひでがいた。祐秀は一に気付くとそちらに顔を向けた。

「お、三位殿はどうだった?」

「ダメだな。焦っているのか無茶苦茶な指示しか出來ていない。あれでは全滅しても攻撃を続けそうだ」

「ほぉ、それは大変だな」

「他人事みたいに……」

「実際そうだしな。そちらは三位殿のお守りを任されているのだからな」

信秀は事前に橋本一に三位が死なないように見ているように命令をけていた。仮にも斯波家の軍勢の総大將の為死なすわけにはいかなかった。

「あれならさっさと死んでくれた方が……、いや。そうか、そう言う事か」

「お? 何か気付いたのか?」

「ああ、あの愚者を黙らす方法を思いついた」

はそう言うと悪い笑みを浮かべるのだった。

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