《異世界戦國記》第八十話・加納口の戦い6

水野忠政の嫡男、水野信元は父から預かった千二百の兵を率いて本丸に繋がる南門の前に陣地を構えていた。彼は父の様な武勇はないが嫡男としてふさわしい力量は備えており家臣たちからの支持も高かった。

そんな彼は本陣にて明日の戦の準備を行っていた。彼の補佐を擔當する家臣たちも集まり知恵を出し合っている。

「信元様。明日も柴田殿と足並みをそろえるのがよろしいかと思います。それに左右には土田殿やヤング地殿が居ります。なくとも昨日や今日よりは楽かと思います」

「うむ。分かった。細かい所は任せた」

「はっ! お任せください!」

「この調子なら稲葉山城も明日、明後日には落とせるだろう。だが、斎藤家の抵抗はいよいよ激しくなる。皆流れ矢に気を付けるように」

「勿論です! 信元様が立派に水野家を引き継ぐまで死ねませんので」

「その通りだ。信元様は殿に勝るとも劣らない実力の持ち主だ。信元様を活躍をこれからも見たいのでね」

信元が家臣たちの言葉に頷くと一人の男が聲をかけてきた。

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「そうだぞ。お前には水野家嫡男として活躍してもらわないといけないからな」

「兄上……」

信元に聲をかけたのは水野近守だった。信元の兄だが本人が家を継ぐことを嫌い信元に嫡男の座を譲ったという経緯があった。近守本人は父に似て武勇に優れた人だが大將としての力量は持っていないと自覚しておりその為、弟に譲り自らは槍働きをする事としたのである。當初こそ反対する家臣も多かったが信元が実力を発揮していくと次第にその聲は小さくなっていった。

「この戦は信近の初陣でもあるんだ。ぜひとも水野家の功績をたくさん上げて弟に花を持たせてやりたい」

「大兄上、私は別に……」

近守の言葉に謙遜するように水野信近が言う。今年12になったばかりの彼は武勇よりも公家文化に興味を持っていた。その為初陣を終えた後はそう言った方面の教養を本格的にに著ける予定であった。その為、本人は怪我無く終える事をんでいたがそれではいけないと反対していたのが近守だった。

「よし! 明日は俺と信近が前に出よう。雑兵でもいいから矢で止めれば初陣としては上出來だろう」

「ええ!? 私が前に出るのですか!?」

「安心しろ! 俺が常に傍にいて守ってやるよ。初陣で討ち死になんてさせねぇよ」

「ふ、不安です……」

信近は兄の言葉に本當に不安そうにつぶやく。そのやり取りを見ていた信元と家臣たちは笑みを浮かべて見守っていた。

その時だった。稲葉山城の本丸の方が騒がしくなる。當初は喧嘩か?と訝しむもそれと同時に雄たけびのような聲がいくつも聞こえて來た事で違うと分かり何が起こっているのか分かり信元はとっさにんだ。

「っ! 敵の夜襲だ! 全員敵の攻撃に備えろ!」

「「「は、はっ!」」」

家臣たちは慌てて本陣を出ていくが彼らがいた時には遅かった。斎藤家約二千五百というほぼ全兵が一斉に夜襲を仕掛けてきたのである。

佐久間信晴には岸信周が、水野信元には加藤影泰が、土田政久には不破治が襲い掛かった。唐突の奇襲に全員が即座に対応できなかった。一番対応が早かった水野信元でさえ前衛は壊滅し中衛を突破し後衛にまで迫られていた。佐久間信晴に至っては晝間の勝利を祝っていた為一番反応が遅れ総崩れへと至った。

その様子は稲葉山城にらずに外に陣を張っていた織田信秀、織田信康には手に取るように見えていた。その為、佐久間信晴を抜いてこちらに來る事を想定して防衛を行っていた。

「あとしすれば日の出だ。それまでは戦も覚悟しないといけないな……」

「殿! 大変です!」

信秀が歯を食いしばり、悔し気に呟くと同時に周囲の監視を行っていた前田利昌が戻ってきた。その顔はとても焦っており何かが起きた事を語っていた。

「頼蕓か!?」

「それよりも厄介です。加治田城の佐藤忠能が來ました!」

「佐藤忠能!? あいつは確か利政の下にいなかったか?」

「どうやら佐藤忠能だけ行き兵をかに集めていたようです。稲葉山城の兵と共に我らを挾み撃ちにするために」

「くっ!」

ここに來て信秀の報収集能力の低さがを蝕み始めた。信秀は急速に変化する戦況に対応を迫られるのだった。

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