《異世界戦國記》第八十三話・加納口の戦い9

「兄上、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

信元と信近は十にも満たない數の兵と共に稲葉山城を南東に向かって駆け下りていた。本來は彼らの父がいる南西に向かうべきだがそちらには多く敵がいると判斷して敵がしでもいない南東部に向かっていたのである。

森とも言える程木が生い茂っているのを利用して隠で逃げ延びる。その姿はまさに落ち武者にふさわしく、彼らがどれだけ危険な狀態にあったかを語っていた。

信元は信近に支えられながら歩いていたが力をそう申し過ぎたのかし足取りがおぼつかなかった。信近はし開けた場所を見つけそこで信元を休ませる。信元は座ると顔を手で覆う。信元の様子から大分憔悴している事は察せられた為誰も聲を上げない。遠くの方では喧騒が聞こえておりまだ敵の夜襲が終わっていないことが分かる。それどころか更に酷くなっているようにも思え敵にとってはただの夜襲ではないという予想が出てくる。どちらにしろ、戦場を出した彼らに出來る事などたかが知れていた。

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「兄上……。大丈夫です! 大兄上はきっと生きています!」

「……ああ、そうだな」

信元は信近の言葉に笑みを比べるがその笑みは暗く、絶しているのが見て取れた。信近は何か気が利いた言葉を言おうとするが何も思いつかずに閉口する。暫くそうしていると雄たけびが信元たちの方に近づいてくる。敵か味方か分からないがこの場に留まるのは危険と判斷できた。

「兄上。ここを離れましょう。このまま南東に向けて進めば敵もいないし問題なく逃げる事が出來ます」

「ああ、分かった」

そう言って信元が立ち上がろうとした時だった。ドッ、という鈍い音が響いたかと思うと信近が前のめりに倒れてきた。信近に覆いかぶさるように倒れて來た信近に何事だ!?と疑問に思うがその後頭部に一本の矢が刺さっているのを見て何が起きたのか分かった。

「っ! 敵襲だ!」

その聲と同時に信元たちに矢が降り注ぐ。今まさに逃げようとしていた南東の方角より。唐突に放たれた矢に水野兵たちは混に陥る。ただでさえなかった兵は一気に半分が矢を全に浴びて絶命した。信元は信近の死が覆いかぶさった為きが取れなかったが盾代わりとなった為無傷で済んだ。

矢の一斉は直ぐに終わったが代わりに木々の間をう様に鎧にを包んだ兵が大量に出てきた。そして、その兵たちの旗印は斎藤家でも織田家でもましてや水野家のものでもなかった。しかし、信元はその旗印がどこの家のものなのかを知っていた。

「丸に二引き……。遠山家か」

遠山家は東濃一帯を支配する國人衆の一人だ。様々な分家を持ち斎藤家やその前に濃を支配していた土岐家ですら手を出す事が難しい大名といっていい存在だった。

それだけに遠山家が斎藤家の為にくとは思えず織田家が稲葉山城を落とし斎藤家を東西に分斷できればこちら側につくだろうと思われていた。しかし、現実はこうして織田家や水野家に敵対するようにいていた。

自分たちを斎藤家の兵だと思っているのではないか?そんな希的観測も思い浮かぶがそれは違うとすぐに否定される。兵の間から一人の男が出來てた。50過ぎという印象をけるその男は積み上げてきた年齢にふさわしい覇気を持った男は信元を見て言った。

「水野の倅だな? その首、貰っていくぞ」

「そう言うお前は誰だ? 遠山家當主なら笑える話だが」

「そうじゃな。好きなだけ笑うと良い。遠山景前じゃ」

景前はそう名乗った為信元の顔から余裕は消えた。遠山景前は様々な分家が存在する遠山宗家の當主である。それが斎藤家側に立ったという事は東濃は斎藤家側で戦う事を決めたという事であった。

実際、景前が連れて來た兵は二千と多かった。これは東濃で早急に出せる兵を全て連れて來たという事だった、僅か數名の信元たちではひとたまりもなく更にはこのまま進ませれば奇襲で混する織田家が決定的な一撃をくらい総崩れになる可能があった。

しかし、信元にはどうする事も出來ない。それが分かっている景前は兵に指示を出した。

「やれ。誰一人として生かすな」

功績を得ようとする兵たちは信元たちに殺到する。弟の死の下から出て來た信元は自分の最後だと覚悟を決め刀を抜く。

その時だった。殺到する遠山の兵に槍が次々と打ち込まれる。唐突の出來事にその場亜が固まる中一人の男が躍り出て來た。それは、

「信元、下がれ。ここは俺が対応しよう」

信元の父、忠政だった。

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