《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第86話 直前で

様方を救出し、三日が経った。

最初の一戦から敵軍に會う事なく自國への帰路についている。

正直不気味な位何も無い。

俺も帰り道は、神眼を使っておらずリリーとルナの話をずっと聞いていた。

神眼は現在、三百メートルまでしか見えない。

この戦爭で分かったのだが、明らかに距離が足りない。

せめて一キロメートルはないと全く使いにならない。

お父様が索敵をにしている以上、三百メートルではお話にならない。

そう俺が考え事をしていると隣のリリーが聲を掛けてきた。

「ねぇーリドル、まだかな?」

馬車だと目立し、遠くからでもすぐに位置がわかってしまうので馬に乗って移している。リリーは俺と同じ馬に乗っており、ルナはリサさんと同じ馬に乗っている。

本當はルナとリリーとリサさんで一つの馬に乗らせるつもりだったのだ。

だが、「リドル!一人で馬に乗っちゃダメ!危ないでしょ!」というリリーの言葉でこんな編になっている。

俺がターニャさんと乗るという案は一応あるのだが、俺は勘弁してしい。

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(ターニャさん……。帰ったらこの二人、いや三人の仲を取り持たないと)

そう思いながら口を開く。

「明日にはポルネシア王國に著きますからそれまでの辛抱ですよ」

「むぅ〜」

(ふてくされましても……)

俺もいい加減馬での移に慣れてきた所だ。

馬の橫には弓が立て掛けてあり、一応俺も武を持っている。

使いどころは結局無かったが。

俺のその言葉を聞くとまたルナとお話を開始する。

それから暫く移し、午後の食事休憩になった。

リリーとルナが俺からし離れたのを見計らってリサさんに話しかける。

(というかこのリサさんとターニャさん……雰囲気が似ている。顔が同じだったら俺はきっと見分けられないだろう。侍とはこういうなのだろうか?前世イメージだと主人の前では真面目に、それ以外では普通の、みたいなイメージがあるのだが。リサさんに限ってはこれで素だからな)

一度考え出すと次から次へとどうでもいい事が浮かんでくる。

(いかんいかん!今は戦時中!真面目な話をしなければ)

浮かんでくるどうでもいい事を追い出し、気持ちを切り替え、口を開く。

「最初の一戦以降敵が出てきませんね……。正直し不気味なのですが」

ここまで何も無いと気持ちが緩んでしまうのは否めない。

何かある=人が死ぬという事なのだから何も無いに越した事はもちろん無いのだが……。

ここまで何も無いと(もしかして相手が力を蓄えて一気にやって來るのでは?)と深読みしてしまう。

「そうですね。このまま何もなければそれに越した事はありませんが、そうはいかないかと。何かあると思っておくべきでしょう」

「リサさんもやはりそう思いますか……」

俺がわかるって事はお父様もわかっているのだろう。

そう考えていた時だった。

「急報!!」

そう言いながらお父様が各地に送っている斥候と思われる男が馬を走らせてきた。そして、お父様の前に行くと跪き報告する。

「申し上げます!北西五十キロメルほどの場所に帝國軍四萬がこちらに向かって進行してきております!」

「何だと?」

その言葉に辺りは騒然とする。

「今頃?」だとか「四萬?」と言った聲があちこちから聞こえる。

「率いているのは誰だ?」

最初にお父様がそう聞く。

それを率いているのが帝國の準英雄級かどうかがまず重要なのだ。

「ハイド・バーキンです!」

(誰?)

知らない名前だ。帝國の準英雄級の名前は聞いている。

帝國の準英雄級の名前はウィンガルド・ドュチェス・ウインドだったはずだ。お父様は知っているみたいだ。恐らく、別の將の名前だろう。

そう俺が結論付けた時、お父様が更に質問を重ねる。

「帝國の準英雄級は同行しておったか?」

「いえ、確実ではありませんが、見たところそのような影はありませんでした」

付いてきているなら隠す必要はないはずだ。

誰が軍を率いて來ようと任務が終わった以上、俺らポルネシア軍は逃げるしか道がない。

ここで戦うのは無駄な犠牲だ。

お父様が立ち上がりそこにいる全員に聞こえる聲で指示を出す。

「皆に伝えよ!休息は終わりだ!急げ」

「「「ハッ!」」」

それから急に慌しくなり、瞬く間に準備を終え、行軍を再開するその直前。

「急報!!」

先程の斥候の者よりも數倍慌てた様子で、顔には汗がびっしょりと付いている。

そして、お父様の前まで急いで行く。

「今度は何事だ?」

「報告!南30キロメル先にて帝國軍五萬がこちらに向かって進軍中!

率いている將は帝國の準英雄級魔導師ウィンガルド・ドュチェス・ウインドです!」

その言葉に最初に反応したのはバルドラだ。

「何だと!?貴様!本當にちゃんと確認したのか?」

その斥候に詰め寄りぐらを摑む。

「バルドラ!やめろ!!」

それを止めたのはお父様の怒聲だった。

「私がお前を先陣の特攻隊長としてその武力を信頼しているように、この者達もこのオリオンが長い時間をかけて育ててきた信頼のおける者達だ。それを忘れるな!」

そう怒鳴るとバルドラはハッとした顔になる。

「失禮しました!」

そう言ってバルドラはその斥候の者にも謝り、それを確認した後お父様は下がらせる。

それから、「そうか……」と一言だけ呟く。

そんなお父様にシャウネが話し掛ける。

「おかしいですわね。どう急いでも間に合うわけがない筈ですわ。私達が報告をけた時から逆算して例え帝國にった瞬間反転したとしても間に合わないと結論付けた筈ですわ。後ろの軍ならわかりますが……」

それを聞いてもお父様はじずに冷靜に答える。

「ウィンガルドは、風の魔法を主に使う。付いてこれるギリギリの者達だけで夜通し走れば回りこむ事は可能だ」

「それは……クッ!」

可能、と思ったのだろう。

俺も初めて見たが彼は爪を噛む癖があるらしい。親指を噛み押し黙る。

帰る直前に強敵が出現したのだ。シャウネじゃなくてもイライラするのはわかる。

「待ちけるしかなかろう。確か10キロメル程先に軍を展開できる広い平原があったな。では、全軍にそう伝えよ!奴らよりも先にそこに行き、萬全の防制を整えるのだ!」

「「「ハッ!!」」」

全軍が早足で移を開始する。

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