《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第100話 戦後処理

風の魔法で速さを上げて、ポルネシア軍の様子を探らせていた先遣隊が帰ってきた。

どうやらウィンガルドが勝手に戦いを始めたらしい。本來ならポルネシア軍を前後の帝國軍で挾み撃ちにする予定だった。

「まあ彼の事なら大丈夫でしょうが、急ぐに越した事はないでしょう」

とは言っても既に帝國兵は全速力で走っている。

先周りしてポルネシア軍の道を塞いだウィンガルドに追いつく為、晝夜を通してほぼ休憩なしで走っている。

正直こんな狀態で戦えるか不安だ。

前回、ポルネシアの準英雄級に深手を負わせたというバドラギアの王子が率いる軍があっという間に壊走させられた話は聞いた。

今回のポルネシア軍は正規の兵より、倍は強いらしい。帝國の鋭とは言え、疲れ切ったこの兵達が太刀打ちできるかはし怪しいところだ。

かと言って萬の軍に匹敵するウィンガルドにもしもがあってはならない。

それ故、仕方なく全速力で走っているのだ。

この男の名は、ウージェス。

リュミオン攻略軍の副、ウィンガルドのお守り役を任じられた者だ。

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三十前半にして、レベル7の魔法才能を持つ天才だ。頭の方も良く回り、周りがよく見えている事から今回の任務を任された。

格の荒いウィンガルドを止めるのにはこういった人が適任だと本國が判斷したからだ。

そして、とうとうポルネシア軍の後方に辿り著き、ウージェスは驚愕を隠し切れなかった。

「未だ戦闘中だと!?」

ウィンガルドが戦を始めて一時間は経過したはずだ。それなのに未だにポルネシア軍が瓦解しておらず、見たところ大將が討ち取られた軍によく見られる統率のない有象無象の軍ではなかった。

それは即ち、オリオンは未だに健在である事を意味する。

(なら……ならウィンガルド様はどうなったのだ!?)

警戒して突撃しなかったのならそれでよし。突撃してなお戦闘中ならそれでよし。

だが、もし萬が一、オリオンが生きており、ウィンガルドが討ち取られる様な事態に陥っているのなら、最悪だ。

(本國がオリオンをどれだけ危険視しているか知りませんが……)

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そもそも不確定要素は數々あったのだ。しかし、上に意見する時間はなかった。ウィンガルドと違って、ウージェスは生粋の軍人だ。

上層部にやれ、と言われればやらなければならない。だが、ウィンガルドは違う。斷ろうと思えば、斷れるのだ。

それ故だろう。斷ろうと思えば斷れるが、家族の事を思うと斷れない狀況にイライラして先行してしまった。

「止めるべきでした……。今、ポルネシア兵を見て確信しました。彼等は間違いなく魔法でを強化している」

ウージェスは誰に語りかけるわけでもなくそう呟いた。

(オリオンの十萬軍の力?いえ、なら今までその力が広まっていないのはあり得ない。だとするならばそれを可能にする魔導兵か……。信じられない事ではありますが、それを可能にする魔導兵がいるという事。後者なら、最悪だ)

魔導兵とは、世界に數あるダンジョンから見つかるアーティファクトである。魔剣なども一応分類上はこれである。

どちらであろうとポルネシアは帝國への対抗手段を得た事になる。

だが、魔導兵と魔導兵で違う部分がある。

魔導兵の場合、魔力を込める必要があり、込めるための時間がかかる。しかも魔力を込めながらの移は困難を極める。更には、これだけの魔法を繰り返し使える兵だとするならば、かなりの大きさの魔導兵だろう。その報は集めるのは容易いだろう。

だが、魔導兵だった場合は魔力をためる為の時間が兵とは大幅に違う。

魔力のリロード時間は一日未満。更には移が可能。

しかも大きさももちろん人サイズである。

(そして何より出來ることに限りがない!)

用途が決まっている魔導兵と違って、その魔法の多彩さは脅威的である。

レインは攻撃魔法が使えない。しかしそれを知らないウージェスは、その可能に背筋を凍らせる。

(いや!だとしたら何故未だに帝國軍は戦闘を行えているのでしょうか?これだけの魔力を持つ者が攻撃をしない理由がない。だとするならばやはり兵か……)

レインの「我が矛は最弱なり、我が盾は最強なり」はロンドも知らなかったスキル故に、ウージェスはそう結論付けた。

(こんな考察をしている場合ではなかった!)

「狀況確認はどうなっているのですか!?ウィンガルド様は今、何処に?」

「しょ、々お待ちを!」

我慢出來ずに、鷹の眼というスキルを持つ者にそう問う。

鷹の眼とは、レインのスキル、神眼の下位互換である。

もちろん、相手のステータスは見れないし、効果範囲も狹い。更に當然壁抜けも出來ない。

その代わり、戦場を俯瞰的に見ることが出來、レインの神眼と違って効果範囲外も見ることが出來るのだ。

その男はレインが神眼を飛ばす様に、“眼”を上に飛ばし、狀況の確認を急ぐ。

「なっ!!」

そして発見した。レインの風の防魔法によってを撒き散らしながら吹き飛ぶウィンガルドを。

「何かあったのですか?!報告を!?」

顔を真っ青にして絶句するその男の言葉にウージェスは焦る。

「ほ、報告します!ウィ、ウィンガルド様が肩に深手を負われて吹き飛ばされております!の量からかなりの重癥かと思われます!」

「なっ……!」

想定される最悪に近い狀況だ。

(まさか、ウィンガルド様を倒せる程の魔導師がいるのか!?だとするならば……勝てない。もし勝ててもこちらもタダでは済まないでしょう)

そう考えるウージェスに更に報告をする。

「ウィンガルド様、地面に激突。…ウィンガルド様が……倒れたままきません!」

「生存は!?」

「息は……しております!生きております!ですが周りをポルネシア兵に囲まれており今にも殺されそうな狀態です」

その報告にウージェスは、倒れそうになる程の酩酊を味わう。

(殺されは恐らくしないでしょう。帝國の戦力の報はしでもしいでしょうから。ウィンガルド様が帝國を裏切るとは思いませんが、魔法などを使われては……)

全滅覚悟でポルネシア軍に突撃を敢行するか。もしくはポルネシア軍の帰還を保証する代わりにウィンガルドの返還を要求するか。

前者の場合だと、こちらもタダでは済まない。ウィンガルドはほぼ間違いなく失う。その挙句、帝國はレベル7の魔法使いを失う可能がある。

後者の場合だと、帝國に帰った後の責任追及は免れない。

帝國が小國のポルネシア相手に譲歩を持ちかけた、と言う事実が広まってしまうのは避けられないだろう。

(……仕方ありませんね)

ウージェスは中でそう呟く。

そして、そのまま大太鼓の前で合図を待つ兵士に出す。

「撤退」の合図を。

取れるか分からない博打より確実を取ったのだ。

その音を聞いたウィンガルドの旗下の帝國兵は、みるみると後方に下がっていく。

予想外の展開に驚き、きの鈍かった帝國兵はかなりの犠牲者を出していた。

一方で、確かにウィンガルドの強さには驚いた。しかし、ポルネシア兵はある程度は予想の範囲だった。

ウィンガルドの弱點。いや弱點とも呼べないようなものではあるのだが、彼は単騎で敵將を倒し、最小の被害で戦闘を終わらせる戦い方をする。

もっと簡単に言えば、百パーセントの円グラフがある。ウィンガルドに殺されたポルネシア軍は、その僅か1パーセントから2パーセントの範囲を殺されたに過ぎない。

確かにロンド直轄の四將がこの戦で戦うことが出來なかったのは痛い。

しかし、この軍がその五人だけでいているはずがなく、各所にいた將達は無事だった。更にはロンドの十萬軍と亀甲陣により、帝國兵を陣の中で分斷、各個撃破していた。

それでもポルネシア軍側は五千人以上の兵を失った。

それから、ウージェス自がポルネシア側に赴き、渉をしに行く。

ウージェスの予想通り、ロンドはウィンガルドを治療した。

「次に繋げなければならぬ!」

気絶したレインをに抱えながら怒りの形相で、歯噛みしながらそうぶロンドに反対できる者がいなかった。

そして、とうとうロンドとウージェスは対面した。

ロンドは、パッと見だと使者と會う時の真面目な表に見える。

しかし対面しているウージェスには分かる。

「やるならかかってこい、全員皆殺しにしてやる」

その瞳はそう語っている。

一瞬、怯みそうになりながらも耐え、挨拶をする。

「お初にお目にかかります。ガルレアン帝國軍副將、ウージェス・カウンティス・ヴァーロンと申します」

 ウージェスは先に挨拶をする。

それに応える様にロンドも口を開く。

「ポルネシア軍元帥、ロンド・デュク・ド・オリオンだ」

どう見ても穏やかな雰囲気ではないので早々に要求を出す事にする。

「では、早速本題にらせてもらいます。こちらの要求は帝國の準英雄級魔法使いウィンガルドの返還。それに対しこちらからは、帝國兵はこのポルネシア軍がポルネシア王國に帰還するまで手を出さない事をお約束致します」

早速、要求を出す。

「……それで構わない」

アッサリと自分の要求が通った事に心ウージェスは驚く。

顔は一ミリもかしていないという自信があるが、まさかこの要求が通ると思っていなかった。

「さようですか……。でしたら早速……」

そう言い、立ち上がるウージェスをロンドは待ったをかける。

「その代わり、ウィンガルドの返還はポルネシア國で行う」

「それは……、もしウィンガルド様に何かあれば、その時は」

「分かっておる。私も貴族だ、約束は守ろう」

そうロンドが言い、渉はアッサリと幕を閉じた。

最後に念の為、魔法の使用許可を貰う。

(あまりにも簡単に要求をれるとは……)

そして、ウィンガルドの元へと案される。

その姿を間近で見たウージェスは絶句する。

がべっとり付いている。死んでいないのはステータス移で最後にHPを上げたからだ。そして重傷を負わされたと思われる右肩は包帯で固定されている。

息は荒く、汗が止めどなく出ており、いつ死んでもおかしくない狀態だ。

「魔法を使用しても宜しいでしょうか?」

「構いません。しかし、萬が一別の魔法を唱えていると判斷した場合は……」

「分かってます」

後ろからついてきた兵士にそう聞く。許可は一応貰っている。

ウージェスは、帝國でも珍しいレベル7聖魔法を扱える。

そのレベル7聖魔法「ライフライン/生命維持」。

命を繋ぐ魔法。

の流出などでHPが減るのを防ぐ魔法だ。

魔法を唱え終わり、ウィンガルドの呼吸が一定に戻ったのを見て、安心する。

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