《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第102話 諦めと後悔

「……」

(俺は……)

揺れる臺車の上で、俺は目がさめる。

がふわふわした様な覚と共にしずつ意識が覚醒してくる。

両手両足の覚を確かめる。

両足の指からかし、左手を親指から折り曲げていく。

そして、右手にる。

親指から人差し指、中指、薬指、小指。全ての指がしっかりとある。

全部しっかりあるし、しっかりく。

ちゃんとくっ付いていた。

あの時、最後にお父様は飛んで行った俺の右腕を持ってきて、俺の右肘に當てた。そして、俺はエクスヒールを唱えた。

ちゃんとくっ付いたらしい。

そして、腕を飛ばされた理由は。

俺が負けた理由は。

「くそ……ちくしょう」

負けた。焦ったが故に。慣れないことをしたが故に間違えた。

ウィンガルドの圧倒的な風魔法を見て、無意識のに風の防魔法を放ってしまった。

レベル8の攻撃魔法に魔刀まで付けたその道の玄人相手に、レベル上げの九割以上の部分を支援魔法で上げた俺が同じ土俵に上がったのだ。

しかも、放った防魔法は、レベル6の風魔法。無詠唱の為に使った回數は片手で足りる程。

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敗北は必然。

負けるべくして負けた。

橫を見る。そこには、リサさんとランド隊長がいた。

し汗が出ているが小さくではあるが寢息が聞こえる。

死んではいなかった様だ。

俺が最後、朦朧とする意識の中で放ったエクスヒールは二人にちゃんと屆いていた様だ。

一安心して、俺は神眼で周りを見渡す。そこは來る時に見た記憶がある。

既にポルネシア王國っている。何かゴタゴタがなかったのだとしたら1日も経ってない。

そして、俺の乗っている臺車と並走している故郷へ帰宅途中の兵を見回す。

あんな一方的に陣地の奧まで侵され、將を失い落ち込んでいるのではないかと思っていた。

しかし、そうではなかった。

道を歩く兵のほとんどの顔は國に無事に戻れた事への安堵があったのだ。

(バルドラとバドが死んだのに何故だ?)

しだけ、その態度に思うところがあったがすぐに二人の立場を思い出し理解する。

バルドラが主に指揮していたのは騎兵。つまりはオリオン家から連れてきた直近の部下だ。

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そして、バドは本來は、前線の盾兵を指揮するはずだった。

前回のバドラギア戦は布陣する敵を攻めた形になったし、今回は恐らく、お父様の指示でお父様の橫に単獨で配置されていた。

それ故その殆どが農民である彼等にはあまり馴染みがないのだろう。

神眼を更に飛ばすと道を歩く農民兵とは違い、馬に乗った兵は皆、項垂れ、顔を覆う者たちがいる。

バルドラの部下達だろう。

「……」

俺は無言で起き上がる。

(夢であってしかった)

前世ですら一度だって使った事のない言葉だ。

俺が起き上がった事により周りの兵達が慌ただしくなる。

顔に手をやると仮面が付いていなかった。

ウィンガルドとぶつかった時、取れてしまったらしい。

すると、陣の前の方を歩いていたお父様にすぐ様伝わる。

だが、驚きこちらを見たものの慌てて前を向く。

部下達の手前、けないのだろう。

その間にも衛生兵が俺に聲をかけてくる。

それに対し適當に大丈夫である事を伝え、また寢転がる。

自分のしてしまった過ちに苛まれ、俺は次の街に著くまで眠れなかった。

それからすぐに大きな街が見えてきた。

今日はここで泊まる。俺とリサさん、ランド隊長や怪我人とその他數十名の兵と共にお父様は街にって行く。

他の兵は街の外に天幕を張っている。街からは商品を売るための商人や娼婦が兵達の所に行っているのが見える。

その街を取り仕切る貴族がわざわざお父様を出迎え、何か話しているのがわかる。、

よくぞご無事で、とかだろう。

そして、貴族の館にり、ランド隊長を含めた未だに目を覚まさない重傷の怪我人とは別に、俺の部屋が用意される。

裝飾もそれなり、煌びやかではないが質素でもないと言ったじの部屋だ。

暫くその部屋でボォーッとしているとお父様がドアをノックして返事も聞かずにお父様がってくる。

「レイン!無事だったか!」

心配で仕方なかったのだろう。

ってくるなり俺を抱きしめながらお父様は無事を確認して來る。

「大丈夫です。お父様がすぐに対応してくださいましたから、が出た程度です」

実際はしではない。間欠泉を思わせる程のが出た。

お父様に急に抱き締められるとし焦ってしまう。

暖かった。堰き止めていたものが出てきそうなのを必死に耐える。

そんな俺からお父様は離れ、次の瞬間には真剣な眼差しで俺を見ていた。

「レイン、私はお前を叱らなければならぬ」

考えてみればお父様に叱られるのは初めてかもしれない。

お父様も子どもに対して怒るのは初めてなのだろう。なくとも俺の記憶にはない。

張した様子だ。

「はい。僕もお父様に言いたい事があります」

「……、何故逃げなかった?」

俺の言葉を無視し、お父様は続ける。

「お父様を守る為です」

俺は當たり前だろ、と言わんばかりの態度で言い返す。

「私は逃げろ、と命令した筈だ」

「それはランド隊長へだった筈です。僕はそんな命令されてません」

あの時確かにお父様はランド隊長の名を呼んだ。

「レイン、それは屁理屈だ」

「はい。分かってます」

もちろん分かっている。

「レイン、私はな、お前にならすべてを託してもいいと思っている。まだいが間違いなくあと五、六年は大きな戦爭はない。戦爭を出來る勢の國がない。それだけの時間があればお前は私を超えた貴族となる」

「そんなもの、要りませんよ」

あえてこの言葉を選ぶ。

オリオン家を継ぐ事。それは今の俺の目標、いや、決まった未來のようなものである。

だが、俺にはその家を継ぐよりも重要ながある。

俺のその言葉にお父様は冷靜だった顔に管を走らせる。

「レイン、今の言葉を取り消すんだ。私が怒らないうちに」

俺はしっかりとお父様の目をみて、再度斷言する。

「取り消しません!」

「レイン!」

その時、初めてお父様の怒りの顔を見た。俺は勇気を振り絞り、お父様に真っ向から反論する。

「では何故!何故戦う前から諦めたのですか!?最初から諦めてしまっては勝てるものも勝てなくなってしまいます!」

そうぶ、俺に対しお父様は更に大きい聲で言い返す。

「諦めたのではない!託したのだ!お前に!ポルネシアのこれからを!今戦ってお前を死なせるよりもお前だけでも逃した方が良い判斷したのだ!」

「お父様が死ぬより以上に悪い判斷はありません!死なない最善を考える。そして二人で家に帰る。それが最善の判斷でしょう!?その為の僕でしょう!」

俺のその言葉にお父様は顔を赤くしてび返す。

「自惚れるなレイン!今のお前に出來る事は、限られているのだ!今のお前に問題の全てをなんとかする力はない!」

(知っている!そんな事は分かりきっている!それでも、それでも……)

「でもなんとかなりました!」

「死ぬかもしれなかっただろう!事実、危うくポルネシアが滅ぶところだった!いいか?これはしも誇張などしておらん!土地のかな地域を獨占しているポルネシアに、將來、帝國や近隣諸國が連合を組んで攻めて來れば、何とか出來るのは國でお前しかいなかった!そのお前をこんな所で失う所だった!分かっているのか?お前の重要を?」

「知りませんよ!僕はお父様やお母様よりも重要なものなど知りません!國?そんなものよりも僕は家族を取ります!」

その言葉にお父様は更に顔を真っ赤にする。

「愚か者!このポルネシアはオリオンが古くから仕え、そして支えてきた國だ!俺の命よりもよほど重要だ!」

「それはお父様のお考えです!僕は昔よりも今をとります!」

「ならば何故、奴を殺さなかった!お前の腕なら奴の頭を撃ち抜けた筈だ!」

うっかり、といったじでお父様は核心をついてくる。

俺はその言葉に顔の表をみるみると弱らせていく。

「分かってます!分かってる……。そんなことわがっでるよぉ……」

そう。俺が悪い。俺の右腕が切り落とされ、リサさんが切られ、重傷を負ったのは全て俺のせいだ。

「ずいまぜん……。僕は、僕はあの時、わざと矢を外しました」

あの時った矢は、俺の人生で最高の一撃だった。矢が肩に當たったのは外れたのではない。

外したのだ。

人をこの手で殺める恐怖に俺は打ち勝てなかった。

「すまん」

お父様は、うっかり出てしまったその言葉を頭を下げ、詫びる。

そして、ポツポツと心を自白しだした。

「お前を連れて來なければ連れてきた兵の死者は倍以上になっていただろう。戻ってこれた兵の數は千いくかどうか、と、言ったところか。ウィンガルドは私を狙ってきた。逃げれる筈もない。恐らく死んでいただろうな。それでもな、レイン」

そこで頭を上げ、お父様は俺を見て言う。

「私はお前を連れてきた事を後悔しているよ。まともな戦闘訓練を積んでいないお前をこんなところに呼んでしまった事をだ。後ろからこっそり付いてこられるくらいなら一緒に連れて行った方が斷然マシだと……。何故わかるか、わかるか?」

そこで一拍おき、更に言葉を続ける。

「お前が私の息子だからだ。私がお前ならば私は後ろからついて行った。お前もそういうところがある。それをわかっていた筈だった。そして、連れて行く以上は十全にお前を活用すべきだった。心配だったのだ。敵の目がお前の方に行く事が。すまぬ。戦場で中途半端な判斷は死を招くと誰よりもわかっていたはずだ。愚かな父を許してくれ」

あの場で防魔法を使えばウィンガルドは間違いなく俺を探す方を優先した。

その事を言っているのだろう。

「僕、も、殺すって決めたのに……」

しゃっくりじりに話す俺にお父様は優しく抱きしめながら首を橫にふる。

「すまん。つい出てしまったのだ。奴が生きていたが故にいい方向に転んだ、というのもある。名が知れ渡っているとはいえ、小國の者に帝國が、単での戦闘で最強と謳っている者のクビをとってしまえば、帝國はその威信にかけて、無理してでも軍をかしてくる。もうポルネシアにも戦爭をする戦力はないのだ」

大國には大國の誇りがある。小國に言いようにやられ、そのまま終わらすなんて出來ない、という事だ。

「それと、一番大事な事を言うのが遅れてすまんな」

お父様は俺を更に抱きしめてこう言った。

「助けてくれありがとう。生きて家族の顔がまた見れる事が堪らなく嬉しい」

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