《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第124話 やりすぎた現実

で悲鳴が上がった三日後の晝、俺は舞踏會の會場へと急いでいた。

昨年は諸事により行けなかった為、二年ぶりの舞踏會である。

因みに、プロウス君と第二夫人は勝手に先に行ってしまい、レイシアは今回は欠席である。

正直、開始前から門の前で待っていたい気持ちで一杯だったのだが、殘念ながら俺はこれでも公爵家である。

慣例通り、時間よりし遅れて行くのがマナーである。

プリムは既にきているのだろうか。

來ているはずだ。

「お父様、僕の服はバッチリ決まっているでしょうか?」

「……今日四回目だからな、その質問」

「そうでしたっけ?」

お父様は呆れ顔をしながら俺をジトリと見てくる。

しかし、心配なのだ。

何せ俺は前世ではお灑落とは無縁の生活をしてきたのだから。

この世界に來て長らく貴族の坊ちゃんとしてそこそこの教養はにつけてきてはいるものの、が平凡な人間にはよく分からないのが実際のところだ。

お父様の視線を無視して、俺は自分の服をつまみ、何か変なところはないか探す。

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すると、お父様は深い溜息を吐きながら、

「はぁ……お前は公爵家なんだぞ?心配などせずとも向こうからが寄ってくる」

「いえ、僕が求めているのはプリムさんからの視線だけです。他の方の視線はちょっと……」

「お前のたまにある人見知りの基準が私にはよく分からんのだが……。公爵家なんだからしっかりを張りなさい、などと言う決まり文句をお前に言う必要はないだろう?」

「はい」

「ならいい」

既にこのになって八年。未だに昔の人見知りと対人恐怖癥は抜けない。

だが、短い年月の中でしづつ治ってきているのは確かだ。

今更、子どもに怯えたりはしない。

爽やかな笑顔で対応してみせよう。

そんなことよりも重要なことがある。

「ところでお父様、この服……」

「著くまで黙ってなさい!」

一年ぶりに怒られてしまった數十分後、二年前と同じ道筋を辿り、豪華な扉の前まで來る。

「準備はいいか?」

「はい、いつでも大丈夫です」

「では、行くとしようか」

お父様がそう言うと、門の前にいた守衛が扉を開ける。

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その瞬間、俺の耳に響いてくる喧騒が、既に多くの貴族が集まっていることを証明してくれる。

俺とお父様は堂々とを張りながら中にって行くと、早速俺たちを見つけた貴族が聲をかけて來る。

「おお、オリオン公爵!」

「久しいなベロン伯爵。元気にやっているか?」

「ええ、おかげさまで。そちらのお子さんは確か……」

「ええ、長男のレインだ。レイン、挨拶しなさい」

「はい、お父様!」

お父様に背中を押され、俺は前に出て挨拶をする。

「お初にお目にかかります。レイン・ドュク・ド・オリオンと申します」

「これはこれは、立派な息子さんをお持ちで羨ましい!」

「ははは」

ベロン伯爵のお世辭をお父様は上品に笑い、軽やかに流す。

「では、失禮する」

そう挨拶をして、俺たちはまた歩き出す。

だが……。

「おお、オリオン公爵!ご健勝そうで何よりです」

すぐに他の貴族に捕まってしまい、俺たちはきが出來なくなってしまう。

流石はポルネシア最大の財と軍備を持つオリオン公爵家とあって、とにかく周りの貴族たちは話しかけて來る。

そしてついでとばかりに俺に話を振って來るのだ。

しかもそのどれもが娘を紹介して來るので、正直辟易していた。

俺はプリムと話に來たのだ。

それ以外のの子には興味はない。

しかし、無下に扱うわけにはいかないので、一人一人に対し、丁寧な対応をしていく。

そして一番困るのがこれだ。

「お久しぶりです、レイン様。私のことは覚えておいででしょうか?」

二人の男の子が話しかけて來る。

いや知らんがな。誰やねんお前、などとは當然言えないため、俺の方も、

「あれ?これはリネル侯爵の三男の……」

「おお!覚えてもらえてましたか!そうです!三年前にご挨拶させていただいた……」

三年前って……。覚えているわけねぇだろ。

慌てて神眼で確認したわ。

「では、僕の橫にいる彼のことは……」

「もちろんですよ、アーブルト男爵家の次男、ソーイ・バロン・ド・アーブルト殿」

「す、すごい……」

ソーイ君は唖然とした表で固まってしまう。聞いといてそりゃないだろう。

もちろん覚えてなかったがな。

神眼で確認した。

そう言えば……ぐらいのあやふやな記憶しかない。

あの時は、あの後プリムにあったからな。それ以外の記憶は吹っ飛んでしまっている。

そして今も俺の頭の中はプリムである。

「では、僕はし用事がありますので失禮させていただきます」

「はい」

「え、ええ。またよろしくお願いします」

リネル侯爵の三男坊はし大人びた返事をし、アーブルト男爵次男坊はまだまだ子供みたいだ。

「さてと……」

俺は襟をしっかりと引っ張り、背筋をばし、出來うる限り最高の佇まいを意識しながら會場を歩いていく。

俺が目指す場所は決まっている。

俺よりもしだけ低い背丈にし地味なパーティー用のドレス。

だが、そんなことは気にならないほどしい甘栗の長い髪。その爽やかな合いは見るもの全てに癒しを與えてくれるだろう。

父親の手をぎゅっと握るその後ろ姿は可憐な一の花の如し。

俺は気合をれ、その後ろ姿に聲を掛ける。

「失禮、そこのお嬢さん」

「え?」

そう聲を掛けると、そのは後ろを振り返る。

「あっ……」

「お久しぶりです、プリムさん」

もちろんそこにいたのはプリムである。相変わらず可らしい顔立ちである。

「お、、おひゃし……うう……」

噛んでしまったようだ。

い。

しかし、俺は笑うことなく、優しい微笑みを向ける。

「ゆっくりで構いませんよ、プリムさん。今日もお綺麗ですね」

「あっ……」

俺の一言にプリムは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

それを見た俺の心はこれ以上ない程舞い上がっていた。

ふぅーーーー!

やってやったぜ、という気持ちで一杯だった。恥ずかしいというは完全に捨て切っている。

今の俺は漫畫の主人公である。

「如何なさいました、プリムさん。もっと私にその可らしいお顔を見せてしいです」

「……」

プリムはさらに俯いてしまう。

だが、彼の髪から出ている耳は真っ赤に染まっており、俺の狙い通りである。

そこではたと気付く。

あれ、もしかしてこれって、必死に笑いをこらえているのだろうか、と。

そんなはずはない。プリムはそんな嫌なの子ではないはずだ。

昔の漫畫の言葉をそっくりそのまま言ったんだぞ。笑われるわけがない。

だが、あれはイケメンがやるから効果があるのだ。

俺は果たしてイケメンなのだろうか。お父様はイケメンだ。お母様はだ。その間に生まれた俺がイケメンじゃないわけがないはずだ。

どうなんだろう。周りはみんな褒めてくれるが、それはオリオン家だからだろう。

お世辭を言っているだけなのかもしれない。

昔の俺基準で言えばカッコ可い顔をしているとは思う。

だが、得てして自己評価と他者評価は違っているものだ。

やべぇ、調子に乗り過ぎたかも。

もうし、軽く、「やぁ、プリムさん、お久しぶりです」くらいにしとけばよかった。

今更悩んでも後の祭りである。

一度心配になるとそればっかりが気になってしまう。

完全なる負のスパイラルである。

そんな俺に救いの手を差しべてくれたのは、橫にいたハーバー士爵だった。

「ほらプリム、レイン君が挨拶してくれたんだ。照れてないで挨拶しなさい」

そう優しく聲を掛ける。

あ、やべぇ。俺は父親の前でなんて恥ずいセリフをつらつらと言ってたんだ。

馬鹿野郎にも程があるだろ。

魔法に時間を戻すのとかなかったかな。最悪記憶を消すだけでもいいんだけど。

「あっ……あのレイン様……」

「はい?」

ああ、なんでことをしてしまったんだ。気合をれ過ぎてしまった。

もし彼が笑いをこらえているような顔をしていたら俺はどうすればいいんだ。

臭すぎましたねすいません、とか言えば誤魔化せるだろうか。

俺の願いが通じたのか、プリムの表にあったのは照れだった。

よっしゃ、とびそうになるのを抑え、俺は努めて冷靜にプリムに微笑を向ける。

「あ、あう……」

「ふふ、相変わらず可らしい方ですね、プリムさんは」

ここまで來たら、俺は限界を超えてみせる。

トラックで轢かれそうになっていた子高生たちを助けたように。

死にかけた最後の魔法でレベルが9になったように。

俺は奇跡を起こしてみせる。

そう強く誓った次の瞬間、周りが一際大きく騒めく。

そして、更に大音聲の合奏が響く。

何処かで聞いたことがある演奏だ。

そして階段からゆっくりと降りてきたのは、

「ポルネシア王國第2王アリアンロッド・アンプルール・ポルネシア王殿下のおな〜り〜!」

「なんだとっ!?」

そんな予定は聞いていない。ゆっくりと階段を降りて來るアリアンロッドを見て、波の幕開けの予をひしひしとじていた。

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