《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第130話 連合軍

ポルネシア王城の謁見の間にて、ポルネシア中の將軍と師団長達が集められていた。その中でも異彩を放っているのはやはり俺だろう。比較的長も高く、もしっかりしている將軍たちの中で一際小さくて、の線も細い。

顔は広く知られているおかげで誰、とはならないが、ポルネシア中の將軍たちが集まる中先頭の列にいるのはし居心地は悪い。

玉座に一番先頭、しかもその真ん中でどっしり構えているお父様にはまだまだ敵わない。

「皆の者、よくぞ集まってくれた。ポルネシア王として禮をいう」

「禮は不要でございます。要件も手短にお願いしたい。事態は一刻の猶予もありませぬ故」

お父様の橫にいたポルネシア南部軍の大將軍、ミロウ・ビスカウント・ド・リーマが不遜な態度をとる。王もそれを注意することなく話を先に進める。

「うむ、その通りだな。では、手短に行こう。既に諸君らも知っての通り、ガルレアン帝國、バドラキア王國、リコリア共和國、そしてナスタリカ皇國の四か國が連合を組み、我がポルネシアに侵略していることは承知であろう」

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リコリア共和國とはポルネシア王國の真下に位置する國であり、ナスタリカ皇國はそのさらに二つ下に位置する國だ。

どちらも長年ポルネシアとはあまり仲が良くない國だった。

「既にバドラキア軍とリコリア共和國は既に國に侵し、前線を好き勝手に荒らしておる。彼奴等には自分たちの犯した蠻行の償いをさせねばならぬ」

「おっしゃる通りかと。それで、その作戦は?」

お父様が王に質問をする。これは形式的なもので、事前の作戦會議にはお父様も俺も作戦會議に參加している。だから、この先に王が話す作戦も當然知っている。

「うむ、では皆に作戦を伝える!」

……。

作戦が伝え終わり、解散となった將軍たちは自分たちの持ち場に戻っていく。

あの中の何人かの將軍は敵に通じており、この戦爭中にポルネシアを裏切る。彼らの予想外だったのは、俺の神眼は裏切り者すら見破ってしまうことだろう。

「まったく……嫌な役目を任されましたね、お父様」

彼らを粛清するのはお父様と俺の役目だったりする。裏切り者たちは、全員敵國と通した証拠がある。

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王勅命の粛清命令書があり、彼らは戦爭中に粛清されることになっているのだから。

お父様は鼻を鳴らし、迷いのない瞳でまっすぐ歩いている。

「仕方あるまい。他に余裕がないからな」

戦後に処刑するという話や、戦前に証拠を突き付けて処刑するという話もあった。

しかし、戦爭中、國の戦力は前線に送られるため、彼らを遊ばせてしまうのはリスクが大きすぎる。戦前に処刑してはこの四ヶ國が作戦を変更してしまう恐れがあり、そうなればポルネシア王國が敗北してしまう恐れがある。

通者と他の四か國には、俺達の掌の上でくるくると踴っていてもらわないと困る。

だから戦力的に一番余裕のあるお父様が粛清をすることになった。

(別に余裕って程の戦力差があるとは思えないんだけどな……)

王や宰相達は俺達を信頼しすぎな気がする。実際西部軍のいくつかの部隊は南部にまわされ、ただでさえ戦力を持っていかれているのだ。まあそれでも勝つんだけど。

「さてと、私は早めに前線に戻って、バドラキアの先陣を落としてまいります」

「うむ。私は西部軍を集めながら前線に向かう」

お父様とは一度ここでお別れだ。

俺は迷いの森の部隊を率いてバドラキア軍を追い返す。

ポルネシア王國の西部軍の大將軍であるお父様は、ポルネシアの王城より西部で集められた貴族達の軍や徴兵された民衆を率いながら前線を目指す。

粛清命令とは違う王の勅命による西部大將軍任命書があるため、ポルネシア西部の貴族達は命令に従って軍を出してくれるのだが、いかんせん進軍速度が遅くなる。

お父様の軍が到著するまでにバドラキア軍の先行部隊を蹴散らすのが俺の役目だ。

「では、お父様。お先に」

軍屬の鳥翼族四名に運んでもらう、空飛ぶかご。乗員數二名なのに、運び手に四人も必要というというめちゃめちゃ効率の悪い乗りだ。だが、當然早い。風向きによるが馬の三倍は早い。

「うむ。健闘を祈るぞ。息子よ」

「ええ」

お父様の激勵にうなずいた俺は、かごに乗り込み前線へと飛ぶ。

……ハドレ侯爵領、ハドレ城門前にて。

「この愚図共が! お前らそんなに數がいて城一つ落とせねぇのかよ!」

ひざまずくボロボロの兵士たちに怒鳴り散らしている小太りの男。

數年前、プリタリアを撃退し、ロンドに蹴散らされたバドラキア王國第一王子グリドだ。

グリドの目の前で跪いているのは、まだ人もしていない、ミルハだった。その面立ちはリュミオン王國、元王のリリーに似ている。それもそのはずであり、彼はリリーの実の姉だ。そして彼が率いているのが元リュミオンの民、その數およそ三萬。

彼らはこの戦で結果を殘せれば、特別待遇をけられると言われて戦爭に半強制的に參加している。

「申し訳、ございません……」

からが出るほどの屈辱を味わいながらも、彼が跪き続けているのは彼の家族がバドラキアに捕えられているという話をされたからだ。

実際はそんなものはいない。彼の家族はリリーとルナ以外は皆殺しにされている。そのリリーもルナもポルネシア王國が保護している。

だがしかし、彼はそんな報は知らずに家族のために戦っていた。

「謝罪はいいから結果だせや! てめぇ、家族を殺されたいのか?」

グリドの言葉にミルハはキッとグリドをにらみつける。

その瞬間、グリドの張り手が飛ぶ。

「なんだその目は!? 失敗したのはてめーだろ!」

リュミオン軍に與えられたのは必要最低限の裝備だけであり、兵士の多くは鎧すら著ていない。當初五萬いたリュミオン兵は、既に二萬人という大きな犠牲を出している。

中でもポルネシアで五本の指に數えられる堅固な城塞、ハドレ城の城主、ハドレ侯爵は防戦の名手。そして城に籠もる軍の數はリュミオン軍と同數の三萬。

破れるわけがない。

しかし、バドラキア軍はこの巨大な城塞を落とさなければ背後を脅かされることになる。

「もういい! お前ら先に行ってオリオン城を落としてこい!」

怒鳴っているものの、グリドの心は冷靜だ。このリュミオン軍ではハドレ城を落とせないことは承知の上だ。さきにリュミオン軍をぶつけたのは、ハドレ城の狀態やハドレ軍の士気や練度を確認するためだ。

予想以上にハドレ軍の士気が高く、練度も高い。彼らの士気の高さの原因はハドレ侯爵と連攜しているオリオン公爵軍が來てくれると信じているからだろう。

つまりオリオン城が陥落すれば、ここの士気を下げられるだろう。あとはし遅れてやってくる帝國に任せればいい。

リュミオン軍を先にぶつけ、弱化したところを、數年前の敗北から練りに練った作戦でオリオン軍を破り、そのままポルネシア王國の王城を包囲し、今回の連合軍の第一功となる。

それがグリドの作戦だった。

數年前の敗北は自信家のグリドの心に未だ癒えぬ棘となり刺さっている。

「てめぇの家族、一族郎黨城門にさらしてやるぞ、オリオンども!」

憤怒を込めた怒りの眼差しをオリオン公爵領に向け、グリドは低くうなった。

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