《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第133話 ハドレ侯爵

二分乃命《ジ・アビス》。

水、闇魔法レベル10で唱えることができる複合魔導。

その効果は、それまでにかかっていた全てのバフ、デバフを無効化し、レベルを半分にした後、下がったステータスを更に半分にするというもの。

HP、MPやSTR、VITはもちろんのこと、レベルや魔法レベルさえも半分にする究極のデバフ魔法である。

丘の下で構えていたバドラキアの兵士達は皆一様に倒れ、何が起こったのか分からずにもがいている。

突然ステータスが半分になったのだ。鎧など重くて持てないし、もいうことを聞かない。

そんな中でも何とかけるのは軽裝備の魔法使いくらいだろう。だが、ただでさえないHPを下げられた挙句に半分にされたのだから気分は相當悪いはずだ。

何故なら、俺自がそうだから。

そう。この魔法のデメリットは、詠唱の詔《みことのり》にもある様に、詠唱者のステータスも半分にしてしまうことだ。一時的なものとはいえ、は重くなるわ、なくなったMPを更に減らされて気持ち悪いわ、HPは減るわで唱える方も大変なのだ。

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普段、高いレベルとデバフを無効化する魔力吸収を持つ俺の唯一の隙と言ってもいい。

何故この魔法のデバフが魔力吸収で吸収されないのかは俺にもよく分からない。普通のバフ、デバフならレベル10の魔法でもちゃんと吸収されるのにも関わらず、この魔法を含め、いくつかのデメリットがある魔法は何故か吸収されない。

ただ、それらの魔法に共通しているのは、詔《みことのり》に捧げますとか奉納しますとかの文言がある時だ。

きっとそこに何かがあるのだろう。

思わず思考の底にりそうになったが、背後から聞こえて來た突撃の合図を聞いて我に帰る。

そうだった。油斷するのはまだ早い。この件については帰ってからゆっくり考えるとしよう。

突撃命令を下したスクナを筆頭に、俺が製作に攜わった戦車隊が突撃を開始する。

もっとも、一番早く敵陣を攻撃したのは戦車上から放たれた、スクナの攻撃魔法、炎巨人《ムスペッル》。

豪炎をに纏わせた長五メートルほどの巨人が猛ダッシュで突撃し、未だ盾すら構えられていないバドラキア軍を吹き飛ばしている。

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近くにいただけでもそのを焼かれるほどの炎。事実、れていないはずの兵も顔を抑えて暴れている。

次にバドラキア軍を襲ったのは、全を闇のオーラで覆ったミリー・シュタルタルである。

あの闇のオーラはれた相手のVIT、STRを大きく下げる魔法で、ただでさえ減らされている彼らのステータスはきっともう0にまで下がっていることだろう。

ミリーは、そんなバドラキア軍相手に容赦なく巨大な大剣を振り回して蹴散らしている。

何かんでいるが、ここからだとよく聞こえない。きっと散りゆくバドラキアの兵達を憐んでいるのだろう。たぶん。

旗が沢山並んでいるところにいるのがバドラキアの本陣だろう。指揮クラスは後々渉材料になりそうなので、捕まえる様に言ってある。何とかもがいて逃げようとしているが、肝心の馬が地面に倒れ伏しているので逃げるのは不可能だ。

ミリーが気付かないうちに、スクナが本陣に行って彼らを捕らえてくれることを祈ろう。

それとハドレ城の近くで杖を支えに何とか立ち上がり、周りを指揮しているのが、バドラキアの天才アイゼリック・カウント・ド・アロンだろう。

何でも無詠唱に闇魔法、火魔法まで使えるらしい。相當な使い手だ。彼も捕縛対象だ。だからミリーが近づかないうちに馬を回して彼を捕縛する様に命じる。

ハドレ城の城壁の上でも、こちらの戦車隊が掲げるポルネシアの國旗とオリオンの紋章旗を見たハドレ軍が息を吹き返し、城壁上のバドラキア軍を押し返している。

城壁の上のバドラキア兵はデバフされていないのでし苦労するだろうが、壁の上だけ見れば圧倒的にハドレ軍の方が多い。士気が最高まで高まっている彼らが負けることは考えられない。

戦車隊が躙し、と臓が舞う戦場を見下ろしながら俺は次の指示を送る。

騎馬と歩兵を用いて敵を囲み、降伏させるのだ。

僅か一時間。それがバドラキア軍約十萬の兵達が壊滅したのにかかった時間だ。

その二時間後……。

ハドレ城前には降伏したバドラキア兵達が武と裝備を押収され、縄で後ろ手に括らされ並ばされている。

その數約六萬。

想像以上に生き殘った。戦車の數が足りなかったせいで、半分くらいで勢いを無くしてしまったのが原因だ。

その後騎馬と歩兵を突撃させても良かったのだが、それだと殺しすぎてしまうし、捕らえた方が後々渉材料に使えると思ってのことだ。

俺の兵とリュミオン兵、ハドレ兵で協力してバドラキア兵を整理している中、俺とスクナ達は城り、人に會っていた。

ドレーク・マーキュアイズ・ド・ハドレ。

このハドレ城の主人であり、ハドレ侯爵家の當主その人だ。橫には第一夫人のリセドラ様や第二、第三夫人とその娘、息子達が並んでいる。

「やあやあレイン君、久しぶり。壯健かな?」

數ヶ月ぶりに會ったドレーク様はあいも変わらず若々しい。まあお父様と同年代なのだから30前半なのだから、まだまだ健康そのものだ。

「お久しぶりです、ドレーク様。日頃からお世話になり……」

い。もっと気軽に話してくれてもいいんだよ? 私と君の仲じゃないか」

何度も會ってるし親同士は仲が良いが、俺とドレーク様は仲とかいうほどのものはないはずだが。

「はぁ……、私とドレーク様の仲、ですか。それは……」

「君は大事な娘の婿。つまり私は君の父親同然と言っていい。そうだろ?」

「え、ええ、そう、なのでしょうか?」

そう。ドレーク様の橫に並んでいる娘の中で一番年上の、俺と同年代の可らしい顔のの子は俺の許嫁。名前はプリシエラ。

俺が産まれる前から二人、いや四人の間で決まっていたことだ。

「あれ、まさかとは思うけど……プリシエラとの結婚、破談させるつもりじゃないだろうね?」

困っている俺を見て、先程までとは打って変わり眉を顰めて怖い顔で聞いてくる。

「いえそのようなことは。私には勿ないくらい可らしく素敵なです故、大変嬉しく思っております」

これは普通に本心だ。お淑やかで可らしく、プリムやアリアとは違った華やかさを持つだ。喜んで婿になるさ。

「そうかそうか、それは良かった。良かったな、プリシエラ!」

「はい、お父様。うふふ、レイン様、私もレイン様の様な素敵な男の許嫁になれてとても幸せにじております」

「ありがとうございます、プリシエラさん」

頬を赤くして口を手で隠しながら話すプリシエラには、奧ゆかしい和をじる。髪は茶髪だけれど、それもまたいい。

「さて、ところでレイン君。一つ聞きたいのだけれど、先程放たれた闇……あとは水もってるのかな? あれは君が放ったのかい?」

「流石はドレーク様。ご慧眼恐れります。確かにあの闇と水の複合魔導は私が放ちました」

「ほう! まさか一人でかい?」

「はい。私の保有MPで賄いました」

そう言うと、ドレーク様は顔を綻ばせ、子どものように手を叩きながら喜ぶ。

「聞いたかいリセドラ! 私の家族達よ! 英雄、いや神話級の天才がこの國に生まれたぞ! プリシエラ! 彼はお前の婿だぞ!」

「ドレーク、興しゅぎっ!」

「はいお父様! 私も聞きましたわ」

リセドラ様は一見落ち著いてみえても、頬を見れば赤くなっており興しているのがわかるし、プリシエラも顔を赤くしてこちらを見てくる。

他の夫人や子ども達も興してざわめき立っている。

「いえ、神話級などとんでもない。まだ未者でございます故」

「あれだけの魔法を一人で放って謙遜なんてするもんじゃないよ! いやぁ素晴らしい! プリタリア様程ではないが私も魔法が大好きでね。今度また何か見せてくれないかい?」

「はい。ご機會があれば」

無難に回答していく。

「ドレーク、そろそろ……」

「ああ、そうだったね。レイン君は明日來るロンド、オリオン西部將軍が來るまでここに滯在するんだよね?」

「はい。そのつもりです」

起點を利かせてくれたリセドラ様が、ドレーク様を急かしたことで話を元に戻していく。

「じゃあしの間だけどもてなすよ!」

「ありがとうございます。ただその前に、まだ魔力の余ってる魔法使いを集めていただけませんか?」

「ふむ? 何故だい?」

「魔力吸収でMPを回復して怪我人を治そうかと思います」

「なるほど! さすがはレイン君だね。すぐに集めさせよう!」

すぐにドレーク様が部下に指示を出して魔法使いを集めさせた。

「では、すみません。しお手洗いに行かせてもらいたいと思います」

「分かった! 城門前に集めておくから來てくれ!」

「はい」

そう言って俺はし早歩きでトイレに向かう。れそうなのではない。そろそろ時間だからだ。

トイレの手洗い場にやってきた俺は、備え付けの巨大な鏡を見る。

そして……。

「グフッ! ガハッ! ゴホゴホ!」

洗面臺に吐する。

これがこの魔法最大のデメリット。効果が切れるとSTRやVIT、レベルなどが元の値に戻る。そしてHPやMPも一緒に戻るのだが、戻るのはHPやMPの最大値のみで、減った分の可変の數値は元には戻らないのだ。

元に戻った俺のHP殘量は、最大値のおよそ四分の一以下にまで下がっている。

「オールヒール! オールヒール!」

流石に心許なくなってきたMPをかき集めてオールヒールを自分に使う事でHPを回復していく。そして、すぐにHPを全回復にする。

「ふぃー、全く。相変わらず欠陥だらけの能力ですね……」

そっとため息を吐きながら俺は城門へと歩いて行った。

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