《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第135話 約束

ポルネシア東部より三日かけて王都へとたどり著いた俺は、報が錯綜し混する作戦本部兼謁見の間へと足を運ぶ。

「手紙の容は把握した。大義であった」

「はっ!」

お父様からの手紙を読んだポルネシア王は跪く俺を労う。

既に北部からは謎の軍に襲われ、北部に殘っている貴族の何名かが討ち死にしているという報が來ていた。

ただ、その軍のあまりの進軍速度に報の真偽を疑っていたのだ。

「陛下! 一大事ですぞ! 北部諸侯が裏切りなど!」

「このままですと數日後にはこの王都までやってきます! 最悪この王都が戦場となることも!」

「南部は兵に余裕があるはず! 10萬ほど王都に戻すよう鳥を飛ばしては!?」

「落ち著け皆の者! 急事態なのは分かっておる!」

王の一喝によりその場にいた參謀の貴族達が一斉に黙る。それを確認した陛下がゆっくりとこちらをみて口を開く。

「レイン、バドラキアとの戦、ご苦労であった」

「恐れります」

まずは俺のバドラキア軍との戦を労ってくれた。しかしこの一大事に悠長な話をしている俺達に周りの貴族がしざわつく。

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靜かにしているのは宰相を含め、俺の魔法を知っているものだけだ。

「西からはお主のみか?」

「いえ、従者を一名連れてきております。名はスクナ。レベル9の火魔法を扱えます」

そう言った瞬間、周りの貴族達のざわめきがさらに大きくなる。それらを無視して陛下は話を続ける。

「なるほど。二人か」

「はっ! 申し訳ございません。何分西部軍も帝國軍25萬と相対している厳しい狀況。これが一杯でございました」

「よい! 責めているわけではない。むしろ兵を數萬送られてくるよりお主ら二人の方が余程心強いわ!」

「恐れります」

そこまで會話をした時だった。

周りで狀況を見守っていた貴族の一人が席を立ち聲を上げる。

「へ、陛下。これは一どういうことなのですか? 我々にもご説明願いたい」

「そうです。私の聞き間違いでなければレベル9の火魔法が使える、などという言葉が聞こえて參りましたが……?」

この場にいる多くの貴族達も揺しながら視線をこちらに向けてくる。

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「うむ。貴公らにも改めて紹介しておこう。此奴の名はレイン。オリオン公の倅だ」

「そ、それはもちろん存じております。しかし、今のお話は……」

「聞いた通りだ。レインの従者、名は……スクナと言ったか? そやつがレベル9の火魔法を扱える」

「お、おおー! それは誠ですか! ならば……」

改めて斷言され、周りの重鎮達の顔が綻ぶ。

「驚くのはまだ早いぞ。目の前のこやつ、レインは神の領域であるレベル10の魔法を扱える天才だ」

「な、なんですと……レベル10? まさか……」

「まあ攻撃魔法が扱えんのが玉に傷ではあるのだがな。はっはっはっ!」

「えっ……」

全く忙しい人達だ。時間もあまりないので早く次に進んでしい。

「それにしてもレイン。抜かったな?」

笑いをやめた陛下が俺に向き直り、痛いところを突いてくる。

「申し訳ございません。帝國がフォレストガーデンを通る事は裏切り者達には伝えられていなかったようでして」

し困った顔をしながら答える。まあミスと言えばミスだ。とはいえ、フォレストガーデン領を通る方法を帝國軍が見つけてるなんて分かるわけないじゃないか。

完全にノーマークだったよ。

「まあ良い。失態は功で取り返せば良い」

「はっ! そのためにここに參りました故。それで……どれ程の兵をお貸しいただけますでしょうか?」

「ふむ……」

ポルネシア王國には大きく分けて二つの軍団がある。

貴族軍と王國軍である。

貴族軍とは名前の通り各貴族達が自領を守る為に専屬で持つ軍隊。

王國軍は同じようにポルネシア王國最大の領土である王領を守るための軍であり、時には貴族の反があった際にはそれを鎮圧するための軍隊である。

兵數も一番多く、その総數は10萬を超える。

そしてその歴史は長い。なにせポルネシア王國が出來た時から存在するのだから。

だが、度々隣國と戦爭をするオリオン公爵軍とは違い、王國軍は貴族の反か、このような大事でもなければあまり戦爭をしない。

ポルネシア王國において、王國軍の練度は王によると言われている。

王が腐れば文が腐り、同じくらい軍も腐る。王國軍の將は、ポルネシア王國の首都にある士學校の卒業生である事が最低條件ではある。だが、績と人柄で選ばれる時代と、ろくに才能もないのに家柄というコネクションで選ばれる時代がある。

現王は実力主義派の人間であり、コネクションがないとはいわないが、今の王國軍の練度はポルネシア王國でもオリオン公爵軍に次ぐと言われている。

その王國軍であれば十分、軍として立する。

「王國軍の四軍。計4萬でどうだ?」

「はっ! ありがたく!」

ごねても、じゃあもう一萬とはならない為、素直に謝の言葉を述べる。

「軍は既に出陣の準備を終えておる。それと……」

そう言って一枚の紙を渡してくる。

「要らぬとは思うが、私からの命令書だ。これがあれば士気はともかくお主の命令でいてくれるであろう」

「はっ! ありがたく拝借させていただきます」

恭しく命令書をけ取る。

「では、敵も差し迫っております故、私はこれで」

貰うもの貰ったらこんなところにいる必要はない。さっさと退散させて貰おう。

「うむ。我がポルネシア王國を踏み荒らした愚か者どもを殲滅してまいれ!」

「はっ!」

陛下の檄をけ、俺はその場を後にした。

廊下を進み、王城の北門に向かう途中、背後から俺を呼ぶ聲が聞こえてきた。

「レイン様!」

その聲に思わず振り返ると、一人のが従者のを連れて優雅に歩いてくる。

長い艶々の黒髪を綺麗に束ね、一國の王らしく高価な絹でしつらえた服を著ている。

アクセサリーはあまりつけていない。

理由は俺がアクセサリーはあんまり好きくない、みたいなことをうっかり口走ってしまったからだろう。なんかすまんね。

しさにはますます磨きが掛かり、久しぶりに見ると俺は思わず挙不審になってしまう。

今回は數日ぶりなので、平然としているが。

「これはアリアンロッド様。ご機嫌麗しく」

「レイン様もご健勝のようで何よりですわ」

貴族らしく挨拶をする。そしてすぐに顔を上げて笑いあう。

「ふふふ、レインは相変わらずだね。……でも心配していたのは本當だったんだよ? 戦爭に參加したって話を聞いたから」

「ええ、次期オリオン公爵として戦爭は避けては通れぬ道ですから。それに國一大事。非才なではありますが國の勝利に貢獻したいと思いまして」

「非才なって……。レベル10の魔法が扱える人間が非才ならこの世は凡人すらいなくなっちゃうよ」

呆れたようにアリアは否定する。そしてその大きな瞳を揺らし、表に影を落とす。

「ねぇ、また戦爭に行くの?」

「え、ええ。北から帝國軍が來ておりますからこれを迎撃します」

「そう……。君じゃなきゃ無理なんだよね?」

「たぶん。帝國の六魔將がいるでしょうし、多分兵數もこちらが劣ってます。私以外にどうにか出來る方はいないと思います」

「そうなんだ……。そうだよね。なら……」

そう言うとアリアはゆっくり俺に近づき、顔を近づける。

「んっ……」

し驚きながらも俺はきすることなくけ止める。

どのくらいの時間だっただろうか。長くもあり短くもじるそんな時間。ゆっくり顔を離したアリアは頬を赤らめさせながら俺の目をしっかり見てゆっくり言葉を紡ぐ。

「止めないよ。僕は君を止めない。だって……僕は貴方の強さを信じてるから。だから……」

そう言うとまたゆっくり顔を近づけてくる。しかし、今度はし顔をずらし、俺の耳元にを近づけ、一言、二言告げる。

「えっ……!? それはちょっとなぁ……」

「ふふ。未來のお嫁さんからの一生のお願い。レイン」

「うーん、分かりました。考えておきます」

渋る俺に、アリアは念を押してお願い事をする。その姿があまりに可らしく、そして可憐であったため俺は了承する。

「うん、お願いね!」

「ええ」

可憐に手を振るアリアに見送られながら俺は改めて王城の北門へと向かう。迫り來る帝國軍を迎撃するために。

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