《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》間話 帝國北部制圧軍にて

帝國北部制圧軍にてーー。

帝國軍総司令部にて、真っ黒なフードコートを著てた気な集団。その中でも特におどろおどろしい魔力を垂れ流した男、フレッグスは目の前で起こった奇跡を見て聲を振り絞る。

「さ、聖域方陣サンクチュアリ……だと……?」

一瞬で浄化されかぬ骸となる自分のゾンビは眺めながら、使われた魔法を推測する。

呟く様な微かな聲を周りのフードコートを著た者達は聞き逃さなかった。

「師よ、今なんと……?」

「聖域方陣サンクチュアリ? しかし、あれは大量のMPを消費する魔法。あんな広範囲になど使えるわけがありません」

「ポルネシア王國にレベル8の、それも魔法を使えるなどという報はっておりません」

口々に否定する弟子達を見て歯をむき出し手にして笑う。

「いいや間違いない。一度見たことがある」

「……師よ、それはつまり、あれだけ広範囲に聖域方陣サンクチュアリを発できる者がいるということですか……?」

「ああ、しかも恐らくたった一人でなぁ!」

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フードの中から見える歯をむき出しにしてフレッグスは笑う。

「くっくっく! レイン、レインだったか……?」

「ああ、間違いない」

フレッグスの獨り言の様な呟きに返すものがいた。

先程レインを強襲し、失敗したウィンガルドである。

「で、やれたのか?」

「いや、直前で気付かれて護衛に防がれた」

「へぇ、お前の刃を防げるのがポルネシアにいんのか。くっくっく」

「代わりに千人將三人と歩兵大隊長の首を二つ取ってきた。これで攻めやすくなっただろ」

その服は返りすらついていないが、行き掛けの駄賃とばかりにポルネシアの將兵を何人か斬ってきていた。

「しょっぺぇ戦果だな、おい」

「……」

「なっ! いくらフレッグス様といえど聞き捨てなりません! 敵將の首を取ってきただけでも……」

「おい」

押し黙るウィンガルドの代わりにウィンガルドの側近が反論するが、フレッグスの一睨みに威圧される。

「てめぇ、誰に口聞いてんだ? あぁ?」

「やめろ」

即発になりかけた帝國軍の総司令部だったが、突撃命令をけた騎馬の異変に、いや、再び放たれた膨大な魔力に中斷される。

「は?」

「……」

フレッグスは思わず口を開けたままけなくなり、ウィンガルドも目を見開く。

「おいおいおいおい! おい!? この魔力、まさかたった一人でこれをやってんのか!? しかもあれだけの聖域方陣サンクチュアリを唱えた後にか? はっはっはっはっ! すげぇ! これはすげぇ!」

「魔法兵! 今すぐ、堅土ドライグラウンドを使え! レベル5以上の火土魔法を使える者全員でだ!」

「は、はっ!!」

笑するフレッグスと違い、ウィンガルドはすぐさま対抗策を指示する。

「はっはっはっやめとけやめとけ。あの雑魚魔法使いどもじゃ束になったところでどうにもなんねぇよ。帝國六魔將でもどうかってレベルなんだからなぁ」

「笑う暇があるなら対抗策を考えろ!」

そうウィンガルドに怒鳴られるが、フレッグスは笑うだけだった。

「他の魔法使いは上空に防魔法を張れ!」

「くそ! 縄だ! 縄で引っ張りだせ!」

現場の指揮がさらに指示を出す。その間もポルネシア側からは大量の矢と魔法が飛んできており騎馬隊に降り注いでいる。

その景を見ながらウィンガルドは考えていた。

(これはなんだ? 何故レインは攻撃魔法を放たない? あの時も……)

自分が吹き飛ばされた3年前の景は未だに瞼の裏に焼き付いている。

(攻撃魔法が低下するスキルでも持ってるのか? 先程の炎槍フレアランスの威力も大したことなかったが)

距離が遠かったため、誰が炎槍フレアランスを放ったのかウィンガルド達は見えていなかった。

そんな思考の中にりかけたその時だった。更なる巨大な魔法の気配をじ、前を見る。

「これは……堅土ドライグラウンド? まずい! 魔法兵! かける魔法を変えろ! 泥沼マッドフィールド、いや……、騎馬隊の前に防壁を作れ! 早く……」

そこまで言った時だった。

ポルネシア王國側から発的な喚聲が上がり、突撃が始まる。

「まずい、フレッグス! 今すぐ虛空理論マジックラビリンスを使え!」

レベル8闇攻撃魔法虛空理論マジックラビリンス。

広範囲の対象を狂させる魔法であり、一度この魔法に掛かると治癒をかけられるまで自分と他人を傷付け続けるフレッグスの最強の魔法。

「斷る」

だがしかし、必死な形相で命令するウィンガルドに対するフレッグスの言葉は拒絶であった。

「てめぇ! いい加減にしろ!」

フレッグスのフードコートのぐらを摑み、ウィンガルドは怒鳴る。この距離で戦えばウィンガルドが勝つ。だが、フレッグスはニヤニヤした顔を変えない。

「ふざける? ふざけてんのテメェだろ。この狀況であんな化け相手に手のを曬す? あの雑魚どもを救うために? ありえねぇよ」

「……それはつまり負けて撤退してもいいってことか?」

フレッグスの言うことは確かに正しい部分もある。

レインがこちらよりも遙かに強力な魔導使いであることは確実だ。

そんな相手に手のを曬すのは自殺行為だ。

だが、このままでは貴重な騎兵一萬を初日に失うことになる。五萬のうちの一萬。損耗率は二割を超える。しかもこの軍の中核をす騎兵。それはそのまま、この北部制圧軍の敗北を意味する。

それはフレッグスも分かっているはずだ。しかし、フレッグスはニヤけた顔をさらに兇悪に歪ませる。

「撤退? するわけねぇだろ」

「は? 何言ってんだ?」

一瞬、ウィンガルドの頭によぎったのはこのままレインを釘付けにする作戦だ。レインが西の帝國軍本軍と戦っているポルネシア西部軍に合流しない様に戦うことだ。

レインのMPの総量は分からないが無限ではない。自分とフレッグスがいれば時間稼ぎくらいは出來るはずだ。

だがそんなウィンガルドの予想は裏切られる言葉がフレッグスからでる。

「四萬で戦爭続行に決まってんだろ」

フレッグスは鼻で笑う様に続行を指示する。

「何言ってんだ。お前だって軍略かじってんならわかんだろ。二割も、しかも騎兵が消えたら戦爭にならねぇ。お前のゾンビ兵も當てにならねぇと來てやがる。手の施しようが……」

「くっくっくっ」

薄気味悪い笑い聲をあげるフレッグスに、ウィンガルドは訝しむ。

「やられたのは雑魚共だろ。くっくっくっ」

「お前、まさか……」

「それだけの価値があるからな」

背後で聞こえてくる帝國軍の悲鳴とは対照的に、フレッグスの狂気的な笑い聲が帝國北部制圧軍の司令部に響くのだった。

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