《一兵士では終わらない異世界ライフ》公爵令嬢からのお願い
「折りって頼みたいことがありますの」
改まった顔をするアリステリア様だが、表は朗らかに笑っている。ここから何を言われるのかと俺は構えて、固唾を飲んだ。そして、アリステリア様のしいで、その言葉が紡がれた。
「闘技大會に出ていただきたいの」
「…ん?」
俺が首をかしげるとアリステリア様は、ふっと笑った後に続けた。
「いきなり言われても仕方ないわよね。説明するわ」
チラリとアイクに目を向けるがアイクは微だにせずジッとこちらを見つめて立っている。
ちっ、さっきから威圧してきやがるな……。
「まずは……そうね。グレーシュ様は闘技大會の優勝賞品がなにかご存知でしょうか?」
「僕はアリステリア様のキスだと聞き及んでいますが……」
正直に言ってみると、アリステリア様は額に手をやって溜息を吐いた。
「やっぱり……」
ガックリと項垂れるアリステリア様。あぁ、やっぱりデマか。ちぇっ、期待して損したぁー。
「その噂……凄く広まっているらしく、もうわたくしでは収拾できなくなっていますの」
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「大変ですねぇ」
「た、他人事みたいですわね……」
実際他人事なんですよ。
「それで、グレーシュ様には闘技大會で優勝していただきたいのです。そうすれば、わたくしのキスは守られるし、優勝したらグレーシュ様も自慢できますでしょ?」
「僕、名聲とかは別に興味ないんですけど」
「では、なにか褒を與えますわ。もうグレーシュ様しか頼れるお方いないのです……」
ふと、俺は首を捻った。俺しかいない……?そんな筈はない。この學舎には最強と呼ばれる剣士がいる筈だ。俺も一度だけ見たことがある。學舎の最高學年だから十六歳….…六歳の俺らとは格段に違う格差を見せられて俺はビビっていた。トーラ學舎最強と言う……ギルダブという男子生徒だ。髪は長めだが、屈強なと相俟ってむしろ威厳をじさせていた。赤い瞳はのようで震え上がった。一目みれば強いと分かる……そういう人だ。
「僕以外にギルダブ先輩など……もっと強い方はいらっしゃるのでは?」
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「あら。まだ學舎に來て半年だというのに知っていますのね。たしかにギルダブ様は名高いですからね」
そんなアリステリア様の目はする乙だった。たしかにギルダブさんくらい強いとモテたりするんだろうな。
まあ、雲の上の人は俺と関わり合いなんて持たなそうだけど。
「では整理しますが……僕は闘技大會に出て優勝してアリステリア様のファーストキスを守ればいいんですね?」
「ふぁ、ファースト!?」
その反応に俺は思わず顔を顰めた。
「え?まさかご経験が……」
「ありませんわ!」
「ですよねぇ」
アリステリア様と俺はそれからし笑って、再び話しを戻す。
「それでおけしていただけまして?」
「えぇ、おけいたします」
「では褒の件ですけれど……」
「必要ありませんよ。強いて言うならアリステリア様の初めてを守ることが僕への褒ってことで」
そう言ってやるとアリステリア様は目を丸くして驚いてから優しく微笑みかけてきた。
「六歳とは思えませんわね。グレーシュ様のような年齢でそんな殺文句を言ってはいけませんわ」
俺は肩を竦めて心外だとで表現した。というか、褒なんてそもそも必要ないのだ。
「僕、元々言われる前から闘技大會には出ようと思っていたので、褒なら優勝賞品でお願いします」
そういうわけだ。言われる前から出場する予定だったのだから、褒を貰うなんて間違っている。俺の意図を察したのか、アリステリア様は心したように頷いた。
と、こんな理由で俺は闘技大會へと出場するこになった。やっぱり面倒なことでしたよ……。
–––アリステリア・ノルス・イガーラ–––
グレーシュが去った後に生徒會室に殘ったのは、アリステリアとその従者アイク。そしてアリステリアを影ながら日々護衛しているソーマだった。
「……ふぅ、どうでした?」
アリステリアは橫で立っている従者にそう訊いた。
「えぇ、とても六歳児とは思えませんね。私の威圧をけても全くじていませんでした」
「そうですか……」
と、その會話に割り込んでくるように影からソーマがヒョイと姿を現した。
「吾輩の存在にも気づいていたようだ」
さも、驚きのようにいうソーマ。アリステリアもアイクも信じられないようなことで顔を顰めた。
「イガーラ王國軍の大師長であるソーマ様の【明化インビジブル】を見抜くことは容易ではないはず……それこそ六歳児では到底不可能なはずでわよね?」
「はい。私ではなくてもできません」
アイクは肩を竦めて言った。大師長とは軍階級の中で將軍の次にある階級……つまり、上級階級だ。ここでこの國の軍階級を確認するが…
上から、
將軍
ーーーーーーー
大師長ー宮廷魔師
中師長ー魔師
小師長
ーーーーーーー
大師兵
中師兵
小師兵
ーーーーーーー
特等兵士長
上等兵士長
兵士長
ーーーーーーー
特等兵士
上等兵士
ーーーーーーー
一等兵士
二等兵士
三等兵士
四等兵士
以上が軍階級である。その頂點に君臨するのが將軍で次が大師長と呼ばれる戦爭の重鎮者達だ。
貴族の中にはお金の力で有無も言わせず軍階級の分秩序に割り込んでくる愚か者がいるがそれが可能なのは大師兵までだ。
小師長以上となると戦爭での功績が必要となる。それは武力であったり知力であったり様々だ。そして大師長とはその戦爭の功労者の中の頂點……なにかの分野で群を抜いたエキスパート達だ。
ソーマは潛や工作員として敵地に侵するのに特化した能力を持つ。その一つとしてソーマが磨いた魔【明化インビジブル】はかなりの練度だ。それを見破ることができるグレーシュという子供が、アリステリアには理解できなかった。しかし、こうして実際に會ってみてアリステリアはじた。
「グレーシュ様の実力は本ですわね。アイクは二十歳……若いですけれど軍階級は既に中師兵の実力。そのアイクの威圧をともせずにわたくしとの會話をやり遂げた。普通ではありませんわね」
だからこそ、とアリステリアは続けた。
「わたくしは彼がしいですわね……」
アリステリアの目的というのは、優秀な戦力の導である。今日、グレーシュにお願いしたことなど建前にしか過ぎない。割と適當に作った噓である。
真の目的は……グレーシュと學舎最強の剣士であるギルダブを戦わせることだ。
その理由としては、噂で聞いたことがある限りのグレーシュ・エフォンスではなく、真の実力を見定めたいというものだ。
アリステリアは軍事を司る王下四家……ノルス家の長であり、將來は結婚させられるか、將軍位を継ぐかのどちらかである。普通は政略結婚に使われる筈の……それにも理由がある。
現在のイガーラ王國軍のは非常に切迫していて、軍のなんたるかを知らず、ただ政治介を目的とした貴族のによって軍部の秩序がおかしな方向に走り始めた。
近々起きるであろう隣國との大戦に備えた各地への防衛軍配備に関しても、自分の可いさに自分のいる街に防衛軍を回そうと回している。そのおで防衛軍の配備にかなり手間取っている……とアリステリアの父であり將軍であるゲハインツが愚癡っているのをアリステリアは毎晩のように聞いていた。
ゲハインツは民のことを重んじる男で、王族に忠誠を誓う由緒正しき武人だ。貴族のあり方を現したその姿に、アリステリアは父親としての尊敬の念を抱いている。そんなゲハインツが愚癡ってしまうほどに軍は荒れている。
そんなわけで、今は下手な貴族と結婚させる訳にもいかない上に、ゲハインツという人がそういった人というのもあって、方アリステリアの好きに出來たりするのだ。
アリステリアは結婚をんでおり、かつ將軍位を継ぐつもりでもある。民を守る父親のような人間にりたいというのが、常日頃からの彼の格言だ。
學舎を卒業する殘り二年で、自の師団を編しようと思っているアリステリアは、こうして候補者と會ったりしていた。が、學舎の生徒でこのような候補者が見つかろうとは思っていなかった。人柄重視で探していたとはいえ、ある程度強いことも必要なのである。それが、六歳児……驚きを隠せないのも無理はない。
「今はしでも戦力を集める必要があります。……彼のようない子を戦爭に連れ出すのは心苦しいですけれど」
「仕方ない……といって済ませられませんがね」
アイクの皮にアリステリアも思うところがあったのだろう。苦い顔をした後に言った。
「大!わたくしは最近の貴族の振る舞いが気にくわないんですのよ!貴族の本來あるべき姿とはお父様のように民を思い、民のために戦うのが貴族です。所領を治めて、民を導く……それが貴族なんです。それなのに無様にも保に走り、あまつさえ守るべき民を見下して傲慢に振る舞うなんて貴族の恥ですわ!」
アイクは暫くアリステリアの愚癡を聞きながら苦笑していた。アリステリアが愚癡って満足したのを確認してソーマが聲を発した。
「しかし……アルフォードが息子を軍にれるのを許可するとは思えんな」
「確かに……」
「え?どうして……なのです?」
アイクは訊いてきたアリステリアに神妙な面持ちで答えた。
「アルフォード大師長って家族に自分の軍での立場だとか所領管理に関して、それに爵位のことまで隠しているようです。それに加えて町での自分の軍人としての……また、伯爵としての活を家族に見られないようにと町外れに住む徹底振り……」
「家族を軍に関わらせないようにしているとしか思えん」
「うっ……そうなると彼を軍に引き込むのは難しいですわね……」
アリステリアは非常に殘念そうに顔を歪めた……が、直ぐに恥じらうようにを自分の腕で抱いて顔を赤らめた。
そんな艶かしい姿に十二歳とはいえしいアリステリアに思わずアイクはドキリとしてしまった。それからアリステリアは震える口を開いた。
「さ、最悪……男の人ならわたくしので」
「やめてくださいお嬢様っ!!」
生徒會室にアイクのび聲が響いたのを誰も知らない。
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