《一兵士では終わらない異世界ライフ》殺人衝
「へへへっ。いいじゃねぇか。えぇ?」
「や、やめっ」
「ソニアっ!」
男に襲われるソニア姉は恐怖で呂律が回っていない。男からソニア姉を守ろうと、ラエラ母さんが男に縋るが蹴られた。
であるラエラ母さんに、訓練をけた男の蹴りが腹部にジャストミートした。ラエラ母さんは口からを吹くがそれでも諦めず男に縋る。
俺はそんな景をただ冷靜に眺めていた。途端に視點が変わる。戦闘モードに切り替わったのだ。
あぁ……なんだろうか……頭の中がとてもクリアだ。
あのマハティガルという奴が待ち伏せしていたという事実に俺の中で殺すだの殺されるだの考えが々巡っていた。でも、今は何にもじない。殺すとか殺されるとか激しくどうでもいい。
なんだか気分がいい。
俺は地面に手をついて魔力保有領域ゲートから魔力を引き出す。そしてラエラ母さんを足蹴にする男に向かって初級地屬魔【ロックランス】を全力で放った。
相のこともあり消費魔力は抑えられたが全力で放った上に元々魔力がないこともあって魔力が半分近くごっそり持っていかれた。しかし、それでもいい。あの男を殺す・・には十分だ。
男が再度母さんを蹴り飛ばす前に発した【ロックランス】が男の真下から飛び出し、男の顎を貫くと、そのまま口の中を通って脳天まで貫通した。
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プシャーっと、男の脳天からと何か別のが混じって吹き出し、辺り一帯を汚く染め上げる。無様何か男の、汚い顔の串刺し……。飛び出た巖の槍に全てを預けるように、こうして男は絶命した。
「っ!」
ソニア姉もラエラ母さんも、そのあまりの景に絶句してしまっていた。
とりあえずこれで二人は大丈夫だろう。俺はとりあえず狀況確認のために周囲を見渡す。皮の鎧を著た男達は敵だろう……その敵と味方と思われる兵士が所々で戦闘をしていた。逃げてきた民間人達はトーラの町へ引き返している。
そっちの方にも敵はいるんだが……しかし、戦力的にはそちらの方がむしろ、安全かもしれない。
というか引き返すならソニア姉とラエラ母さんを連れていけよ。俺は悪態をつきながら二人をどうするか考える。俺が連れていくしかないか……。
俺は【ロックランス】によって顔を貫かれた男が持っていた剣を拝借すると二人に目を向けた。
「逃げよう母さん。お姉ちゃん」
「あ、そう……ね」
ソニア姉はまだ呆然としていたが、母さんは俺の言葉で直ぐに復活し、ソニア姉を抱えて走り出す。途中で我に返ったソニア姉も自分で走り、俺たちは後退を余儀なくされた。
さっきの場所に戻ってくると敵と味方でりれている。どうしたもんかな……。俺が考えていると背後に敵の気配をじたので剣を振るった。
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八歳児のの丈よりも長い剣を扱うのは難しいが……ギシリス先生の下で剣を磨いてきたんだ。剣は力だけで振るうものじゃないことを、俺は知っている。
いきなり剣を振った俺に二人は驚いていたが直ぐに後ろから迫る敵に気付いた。俺はこちらに襲いかかってくる敵を剣でなぎ払った。皮の鎧に刃が當たり、バキバキという骨が折れる音がした。
ちっ、この剣……なまくらじゃねぇかよ。切れねぇ……しかし、敵を戦闘不能にするには十分だったようで敵は、「あぁ!」とかんで悶絶していた。しかし、このまま生かしておく理由もないので鎧の保護のない首に剣を突き刺して止めをさした。
「ぐ、グレイ……?」
「ん?」
ふと、俺のことをソニア姉が呼んだ気がした。見ると、まるで化けを見るかのように俺を凝視していた。ラエラ母さんは驚いた顔で見ているだけだ。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「どうして……笑ってる……の?」
「え?」
俺は思わず目を丸くした。そして気づいた。自分の頬が吊りあがり笑みを作っていることに。
俺は自分の手を顔にれた。その俺は…間違いなく笑っていた・・・・・。
そして俺は現実に引き戻された。
なにやってんだよ俺は!今、俺は命を奪うことに快楽を覚えていた。當然のように殺していた。呼吸をするようにして、なんの躊躇いもなく敵の首に剣を突き刺していた。
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そして今も……俺は慌てて、敵の首に刺していた剣を抜いた。
「ち、違うんだ!」
俺はソニア姉に向けて弁明するようにんだ。ソニア姉はびくりと肩を震わせた。あぁ……なにが違うんっていうんだ。なにも違わない…俺は何を言ってるんだ?そうだ。とにかく殺さなきゃ。殺して殺して殺す。
いや、違うだろ!?
くっそ!頭の中がグチャグチャだっ!考えが纏まらない。まるで奈落の底で無駄なのに踠いているような覚だ。
別に殺しちゃダメだなんて思わない。綺麗事をいうつもりはない……でもさっきまでの俺は殺すことに……奪うことに快楽をじていた。これじゃあまるで快楽殺人犯だ。いやだ……あんなのと一緒だなんて……ぐぅ。
俺は途端になんとも言えない吐き気に襲われた。今度は口を抑えるのが間に合わずその場にぶち撒けた。
口の中が気持ち悪い……頭が上手く回らない。俺に何が起こって……と、俺が定まらない思考を巡らせていると敵が三人……俺の方へ走ってきている。もちろん剣を構えて……。そいつらからは當然のように敵意をじる。子供だからって容赦しない……そんな風な雰囲気だ。當然だ。
そう……子供だろうと奪うのが當然なんだよな?
なら、俺もお前らから奪ってやるよ……。
俺は地面に転がっていた剣を拾って向かってくる三人のうち、一人に向けて剣をぶん投げた。ブンブンと回転しながら飛ぶ剣は敵の脳天に突き刺さり、敵はそれっきりピクリともかなくなった。殘り二人……俺は空かさず走って、倒れた敵から剣を奪い、二人目の足に向けて振るう。ボキッという気持ちのいい音が聞こえたと思ったら男の斷末魔のようなびが聞こえてきた。今しがた足の骨を折った敵が喚いているようだ。斬れないるのは、剣がなまくらということと敵の足の武裝に直撃したからだろう。背後から三人目の気配をじ、二人目に止めをさすのを一度先送りにする。橫にズレて、三人目が振り下ろしてきた剣を回避し、俺はもう一度剣を振った。鎧のない上半と下半の分かれ目……そこを的確に狙い、俺は三人目を一刀両斷した。上半は空に舞い、下半は暫くしぶきをあげながら地に立ったあとバタリと倒れた。
あぁーがついた。顔が汚れてしまった。汚い……俺は呑気にそんなことを考えながら二人目のところへ戻って首を剣で撥ねた。
「ふぅ……」
俺は一仕事終えた木こりのようなため息を吐いて、ソニア姉とラエラ母さんの方に視線向けた。二人とも無事だ。さっきの一刀両斷とかグロいものを見せてしまったからか二人とも絶句してしまっているが、仕方ない。
後で謝ろう。とにかく今は殺さなきゃ。
ん?なんか今変なことを言った気がする……まあ、どうでもいいか。
俺はソニア姉と母さんのところまで歩いていくとそっと手をばして言った。
「早く逃げようよ。ここにいたら危ないよ?」
俺の手がソニア姉にれようとした瞬間、ソニア姉が大聲でんだ。
「こないで!」
明らかな拒絶だった。俺は思わず手を引っ込めた。ラエラ母さんの方を見ると、厳しい表をしている。なんだよ……なんだっていうんだよ?
だって殺さないと……は?
そこまで考えて俺は再び我に返った。
なにが殺さないとだ!ふざけんな!
「ぐっ」
また吐き気がっ……俺はソニア姉と母さんに背中を向けてぶち撒けた。くそっ!さっきからなんなんだよ!
「うっあ……」
頭が痛い。気持ち悪い。吐き気がする。なんか熱っぽい………。
あまりの狀態異常に俺は戦闘モードから強制的に通常視點に戻された。そんな時に限ってまた、敵が一人こっちにきている気配をじた。咄嗟にこうとしたががかない。
な、なんで……。
敵はもう目の前まで來ていた。そして剣を振り上げている。
「あ……」
俺は死ぬんだと思った……そのときだ。俺は後ろに引っ張られて、ギリギリ敵の攻撃から逃れられた。そして、俺を背後から抱きしめるこの懐かしい覚は……と、思って俺は見上げる。見上げるとそこには俺のよく知るラエラママの顔があった。
「グレイばかりに守ってもらうわけにはいかない!」
ラエラママは俺とソニア姉を守るようにぎゅっと抱きしめた。敵はもちろん攻撃をとめることなくもう一度剣を振り上げた。
今度こそダメかと思ったが、再びその剣が俺たちに當たることはなかった。それよりも目をみはる出來事が目の前で起こった。男の剣は確かに俺たちは當たらなかった。
でもそれは外したからではない。俺たちじゃない誰かに當たったからだ。
銀に輝く鎧が煌めき、己の剣で敵の剣を防いでいた。その人は俺たちを守ってくれたのだ。
俺は無意識にんでいた。
「父さんっ!」
俺はその背中を見ただけで誰か分かった。間違いない。アルフォード父さんだった。俺は母さんの腕の中で咄嗟にんだ。
「うおぉぉ!」
父さんはびながら、両手で握る剣で襲いかかってきた敵を切り捨てた。ザシュっと皮の鎧ごとぶった斬り、敵は倒れた。
「ラエラ、ソニア、グレイ!無事か!?」
慌てて走り寄ってきたアルフォード父さんは、開口一言目に言った。無事を確認するよるものだったが、俺たちよりもむしろ、父さんの方が傷だらけだった。
「大丈夫。でもあなたは……」
「心配するな。俺はこの程度の傷で倒れるほどじゃない」
そうは言うが、傷だらけの父さんを見たのが初めてで、俺の中でただ心臓の鼓がうるさく脈打っているだけだった。
「お、父さん…?」
ソニア姉はもう訳が分からないのか呆然と、父さんを見つめている。そんなところへ、さらに敵がわらわらとやってきたのを父さんは剣を振るって薙ぎはらう。
「おぉぉぉ!」
一振りで三人ほどの首を撥ねた。しかし、呼吸が荒い。かなり疲弊しているのは目に見えて分かった。
「あなた……」
母さんの沈痛な聲に、父さんは反応した。
「ラエラ……守りながらはし厳しい。子供たちを連れて早く逃げろ!」
「なに言ってんだよ!父さんも一緒に逃げようよ!」
俺はラエラママの腕から飛び出してアルフォードパパの足に縋り付いた。もしここに父さんを置いていったらきっと後悔する……そんな気がしてならない。
「グレイ……俺は大丈夫だからお前は母さんを守ってやれ」
「で、でも」
「忘れたのかグレイ。お前にはやるべきことがあるだろう?」
「っ……」
そうだった。俺は父さんととある約束ごとをしていた。あれは一年前……俺が學舎にって一年が経過して七歳になったときだ。俺はいつものように朝から父さんと剣の稽古をしていた。
『グレイも強くなったなぁ……俺もそろそろ抜かれるか?』
『手加減して戦ってるくせに何を言ってるの?』
『いや、本心からだ。お前はきっと俺を追い抜くだろうさ』
『まあ頑張ってみるよ』
俺は戦闘モードの視界の中、アルフォード父さんにフェイントを織りぜた虛をつく一撃を放った。完全なタイミング。防はできない筈だと思った。しかし、父さんはヒョイとそれを躱して、俺の頭を軽く小突くように木剣を振り下ろした。
『あたぁー』
『俺の勝ちだな』
『なんで當たらないんだろう……』
『お前はもっと非にならなきゃな。打ち込む瞬間、無意識だろうが躊躇いがある。それじゃあ無駄も出來るし避けられる』
『非にって言われても……』
『ならグレイは、母さんやソニアが襲われていたらどうする?』
『襲っていた奴はとりあえず殺します!』
『な?手加減なんかしないだろ?そんなじだ』
『簡単に言うなぁ……難しいよー』
『まあ、お前の優しいところは長所なんだがな。グレイはグレイなりに強さを磨くといい。そして俺にもしもの時があったら母さんやソニアのことを守ってやれ』
『もしもの時?』
『あぁ……もしもの時……な?』
それが今だって……そう言うのかよ父さん……。
「ラエラ!」
父さんに呼ばれた母さんは目を真っ赤に腫れさせていた。きっと母さんもここで父さんを置いていったらいけないことをわかっているんだ。敵はドンドン押し寄せてくる。父さんは敵から俺たちを守ろうと戦っている。こういう場面でいつも俺は主人公たちの決斷の遅さに苛立っていた。
でも……実際こういう場面に出くわすと違うもんだな。父さんの意思を尊重したい俺と父さんを失いたくない俺が葛藤している。
どうしてどちらか一つしか選べないんだよ……どうして……。そして、俺は気付いたらラエラママに抱き抱えられていた。それはソニア姉も同じだった。
「母さん!」
「グレイ!言うことを聞きなさい!」
母さんの強い言葉に俺は思わず言いたいことを飲み込んだ。母さんの腕の中で俺はただただ敵と一人で戦う父さんの背中を見つめるしかなかった。
–––☆–––
五日経った……トーラの町の避難民は全員隣町のゲフェオンに避難した。學舎の生徒はとりあえず誰一人として欠けていない。アリステリア様の言った通りだった。しかし、トーラの町は甚大な被害をけた上に敵軍に占拠されてしまった。突然の宣戦布告……軍の首脳部はかなり荒れたらしい。
すでにトーラの町の奪還は不可能とされ、現在はゲフェオンの町で王都からの援軍を待っている狀態だ。早くともあと六日は援軍は來ない……もしその間にゲフェオンの町に進軍されたらトーラの町の二の舞いになるのは明白だ。
ゲフェオンの町の住人達はそれを見越して領主と相談して、イガーラ王國軍とは別に義勇軍を組織することが決まった。そこにはトーラの町の避難民も數名加わっている。
俺はというと……トーラの町で死んだものたちが並べられている葬儀場というところにきていた。葬儀場といっても數が數なのでゲフェオンの町の大きな広場に死が橫たわっているじだ。
俺はソニア姉とラエラ母さんと一緒に父さんの橫たわるところに來ていた。父さんのお腹と肩口には斬られたり刺されたりした後がある。戦った証拠だ。
そう……父さんは死んだ。
俺たちを、避難民を逃すために戦って死んだ。もちろんその為に戦って死んだのは父さんだけじゃないけれど……あのとき敵軍に寢返った貴族の兵士共のせいで戦力が傾いていた。
もしあのとき、充分な戦力さえあれば父さんや、俺たちを逃すために戦ってくれた兵士達が死ぬことはなかったかもしれない。トーラの町も奪われることはなかったのかもしれない。
誰かが泣いている。ふと振り返ると両手で顔を覆って嗚咽をらすソニア姉と母さんがいた。
どうして泣いているんだ?奪われたからだ……何もかも全部……。
「父さん……」
俺は約束を守るよ。そのために…守るために俺は兵士・・なる。父さんみたいな立派な兵士に。
俺は二人を……三人を置いて踵を返し、涙を拭って歩き出した。もう立ち止まってなんていられない。立ち止まったら追い抜けない。
歩け………
歩け。
そう父さんが言っている気がした。
12ハロンのチクショー道【書籍化】
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