《一兵士では終わらない異世界ライフ》林の前線
–––グレーシュ・エフォンス–––
資支給班……この役割は怪我をしたものの看護や食料の配給などなど……支援を行うのが役割だ。義勇軍のほとんどが、この支援の役回りだがクロロやナルクの方の戦闘部隊は前線で戦っている。
たしか俺とは違って北部の方だったはずだ。俺は西部のザスカー林地帯でこの役割を果たしている。
俺はというと、今はせっせと看護のために使う水を運んでいる。せっせっ!
地味な役回りだがこれはかなり重要な役回りでもある。もしも、処置が遅れれば死んでしまうかもしれないし、消毒するための水が無ければ壊死してしまう。
治療魔はあるが、それは飽く迄も応急措置。表面上な傷を塞ぐくらいだ。高位になる綺麗さっぱり治せるらしいけど……。
俺は林地帯へ、やってくると看護を行う人達のところへ水を屆ける。
「持ってきました!」
「ありがとう!そこに!」
俺は指示通りのところへ、水のった桶をおく。それから俺は額を汗を拭って周りを確認してみる。
俺と同じように資を運ぶもの、怪我人を運ぶもの、看護するもの。
一いつまで続くんだ……これは。
俺がそんなことを思った時、事態は急変した。
–––ザスカー林地帯戦闘區域–––
イガーラ王國軍ヨーレンツ中師長の師団から、この林地帯へ送り込まれたのはおよそ五千の兵士。対して敵の數は二千とない……ここでの指揮を任された大師兵の男はそのなさに違和を覚えていた。
「伝令です。敵軍後方……林の向こう側に大きな影が現れたと」
「大きな影…だと?」
伝達兵の報告にあった大きな影……大師兵の男は深く考えるが、心當たりは出ない。オーラル皇國でそのような大きな影の出るような話は聞いたことが、なくともこの大師兵の男にはなかった。
だが注意を向けなければならない案件ではある。男はその大きな影についての報を集めるように伝達兵に指示をし、それを偵察兵に伝えに行かせた。
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暫くするとズガーンというような音とともに林の木々が折れる音がした。大師兵の男はその音に慌てて狀況を確認しにいくと、自軍の兵士が何人も倒れ伏し、一の木々が無殘にも薙ぎ倒されている景が目にり驚愕に顔を染めた。
「あははははっ!さすが魔導機械マキナアルマですねぇ!まるで相手になりませんねぇ」
大師兵の男は聲がした方に目を向けるとそこには四本の足でその巨大な軀を支える全が機械でできているような、巨大な何かがそこにはあった。
そしてそれの上で、それをっているであろう男は敵軍の將……マハティガルが笑い転げていた。
「あーはっはっはっは!さぁ!全軍突撃ですよぉ!一人も生かさず殺してくださぁい!」
イガーラ王國軍の林に引かれた前線は一の魔導機械マキナアルマによって崩壊した。
–––グレーシュ・エフォンス–––
前線が崩壊したという知らせが來て事態は一変した。自軍には後退命令がなされ、看護していたものや怪我人たちも全員逃げようと必死だ。俺もその中で逃げようとしている。
怪我人に手を貸しているのだが、狀況は見る限り芳しくない。怪我人を抱えて逃げているのこの狀況……幸い林は複雑ないために地形に慣れていない敵軍の進行は遅い……追いつかれることはないだろう。
林地帯の自軍は全軍後退している。踏ん張っても前線が押されるのは目に見えているからだ。伝達兵の話だと大きな影が現れて前線が押されているということだった。
その影とやらのせいで戦死者が増えているのだという。
ここで無駄死にさせるよりも、一度下がらせるという行をとった指揮の判斷は正しい。
「きゃ」
「っ!」
悲鳴が聞こえたと思い、振り返ると服裝からして怪我をした兵士を看護する人であろうが、大柄で鎧を著た男を背負っている……が、どうやら足を林の木々のっこにとられてしまい躓いたようだ。
「大丈夫ですか!?」
俺が駆けつけると聲を聞いたの表が一瞬明るくなるが、子供と見ると厳しい表に変えた。確かに、この狀況で子供ができることなんてない。
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大柄な兵士のを背負っていくなんて出來ないだろう。だからこそその表……。
「早く逃げなさい……私なら大丈夫だから」
「ダメですよ。その人もいるんですから」
「いいから!」
ここで俺に助けを求めるよりも、自分の命を捨てることを選ぶか……なんというか本當に歯いことばかりだ。
俺は守られてはがりで全然守ってない。けない……。
この人達を救うにはどうする……考えろ。このまま逃げても殺られる。考えろ……みんな助かる方法……敵軍はその大きな影とやらで士気が上がってる……なら、それを倒せれば?
一気に敵の戦力も士気も削ぎ落とせるんじゃないか?でもどうやって……?相手は千の兵士。自軍は後退している。とても助けを呼べるようなことはできない。
じゃあ、やっぱりこの人達を見捨てるか?論外だ。アルフォードなら……父さんなら絶対に見捨てない。
この戦いを終わらせて、みんなを助ける方法……俺がその大きな影とやらを倒せばいい。
「ここで待っていてください。必ず助けますから」
俺は用心のために持っていたの丈に合わせた自分用の剣を攜えて、敵軍が犇めく林へっていった。後ろから看護の人の聲が聞こえるが、俺はいかなくちゃいけない。
もう守られるのはゴメンだ。今度は俺が守る番だよ……そうだろ、父さん。
–––☆–––
林は林というだけあって草木が多い。もし敵が隠れていたりしたら、気がつかないかもしれない。敵軍がくるのも、もうし掛かるだろう。
俺はそれを見越して服裝を周りの風景に溶け込ませるために草とかを自分にくっつけたり、そして戦場となる地形を頭に叩き込む。FPSというジャンルのゲームの基本はマップの地形を覚えることだ。
そうして初めてゲームができると思った方がいい。
それから數時間……準備は整った。野戦用の完全裝備だ。まさかリアルでこんな格好するとは思わなかった。けれど、これが敵の目を欺くのに一番有効なのを俺は知っていた。
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特に兜なんかで視界が遮られている敵共は、俺に気付くことはできない。さらに言えば隠スキルを発してしまえば大抵のやつは俺に気付かない。
つまり敵の不意をつける。
俺の索敵範囲に敵の気配をじる。明らかな敵意を持った奴らが、まずは數十やってきた。斥候かなにかか?どちらにせよ、まずはこいつらを倒さなくてはと思い、草木に隠れて奴らの様子を見る。
まず、狙い目は一番後ろの奴だ……奴を誰にも気付かれずに葬る……俺は意識を切り替えて、戦闘モードに移行する。一人稱の視點が三人稱の視點に移り変わったのを確認してから木に登り、上から気付かれないように木の枝に足を引っ掛けてぶら下がり、ターゲットに剣をぶっさす。
「っ……」
敵はそれで沈黙。倒れて音が出ないように俺は逆さになりながら男の首を摑んでそのを支えた。が、さすがに重くて俺は木から落ちてしまった。
ドサッという音が鳴ってしまって、背中に冷や汗を掻いたが、どうやら敵は既にいってしまったらしい……危ない危ない……子供ので無理をするもんじゃないな。
他の奴らが消えたのをもう一度確認して、殺した敵の持ちを確認すると弓と矢筒なんか持ってやがった。ラッキー……しかも銀製の短剣なんかも持っていたのでそれも拝借する。
やっぱ暗殺するならナイフと弓だろ。
それから俺はその二つを使って、その斥候と思わしき數十人を葬る。ナイフで首を斬ったり、弓矢で頭を貫いたりと……そうして奴らが人數が減っていることに気がついたのは殘り四人となる頃だ。
間抜けだ。もっと早くに気づけ。まあ、気づいたところで逃がしはしないがな……。
慌てふためく四人に向かって、俺は弓技を発させる。だが、俺が今から使う弓技は學舎で習ったものじゃない。
この三週間で俺は魔力向上以外に弓の技……つまり、弓技について試行錯誤していた。
そして俺が編み出した弓技……その一つは……、
「【フェイクアロー】……」
靜かに言い放った弓技の名前に合わせて、俺は矢を放つ。矢は白いを帯び、やがてその矢は途中でぶれた・・・。消えたともいえる。
次の瞬間には矢が四本となり、それぞれが的確に四人の敵の頭を抜いた。完全なヘッドショット。敵死亡確認……。
俺は場所を移した。すると、再び敵の気配。戦闘モードの俺の目に映るのはテレビ畫面のような視點。そこには様々な報が表示されており、そこには、もちろんマッピングした地形もある。
その地形上に、俺がじ取った敵の気配が正確な位置として表示される……本當にゲームのような覚。でも忘れてはいけない……これは本當に人が死ぬ現実だということを。
それでも俺は止めない。止められない。守るために人を殺さなくてはいけないというなら、問答無用で剣を振ろう。そしてそれで、復讐が生まれるなら返り討ちにしてやる……。戦ってやる。守るため……俺はそのために矢を引く。
俺が放った矢が再び敵の頭を抜く。絶対的命中率。それにしても數が多いなぁ……。
俺はそう考えて罠を張ることにした。地屬の魔で落としを作る。林は視界が奪われるので敵はまんまと落としに落ちる。
そして俺はすかさず地屬魔で巖を作って落とす。
今の俺は魔力向上によって多種多彩な魔が扱えるようになっている。小手先の技だけでもレパートリーは富だ。
こうして俺は敵の數をある程度減らしながら、場所を移していき、やがて林部がしだけ開けた場所へやってきた。
妙だな……樹木が沢山倒れているし、この林にこんなに空けた場所があったのだろうか……俺は警戒しながら、草木の影から開けた方を覗くと敵兵がおよそ六人と……、
「っ!」
俺は思わずその場で凍り付いてしまった。開けた林部の中央に、それはあった。機械のような巨大な軀とそれを支える四本の足……。
「機械……兵?」
半ば前世の記憶がある俺は、こういうのを見たことがある。SFものだ。しかし、ここはファンタジーのはずだが……なんでもありかよ。と、俺はその機械兵の縦席と思わしき出した部分に座る一人の男に注目する……敵將マハティガルだ。
「あーはっはっはっはーやはり魔導機械マキナアルマの力は圧倒的ですねぇ……」
とかなんとか言って、マハティガルは高笑いしている。あれ……魔導機械マキナアルマっていうのか。
さて……あれをどうやって破壊するか。木々が薙ぎ倒されていたり、そこら中に味方の死があるのが見えた。見た目もあれだと、相當堅いだろう……普通に弓を使っても弾かれるな。【斬鉄剣】を使ったら斬れるだろうが、一撃じゃ終わらないだろう。
出來れば一撃で葬りたい……なら、アレ・・を使うか。
俺は草木の影に隠れたまま、魔の詠唱を始める。これを使うと、髪ののも変わるし、俺を中心に突風が巻き起こるため、隠れていても直ぐにバレるが……まあ、詠唱している間は隠れていた方がいいだろう。
「〈鋼鉄の障壁…………」
詠唱を始めた俺は、魔力保有領域ゲートを開いて、魔力を練り上げていく。そして、最後にんだ。
「…………切り開け〉【ブースト】」
俺のを魔力のが包み込み、を保護し、きを補助する。子供の俺が……超人になれる俺の切り札……【ブースト】。
髪のは案の定、金髪に変し、辺り一帯にどうしてか突風が巻き起こる。そのせいで、敵がこちらに気が付いたようだ。
「誰だ!」
言われなくても、出て行ってやるよ……俺は足に力を込めて草木の影から一気に飛び出した。
蹴った地面が抉れ、俺は高く跳躍する。そんな俺を、マハティガルも、そして敵兵數名が見上げた。
俺は空中で、矢筒から五本の矢を出して弓を構えると、それらを順番に敵兵に向かって放った。
高さ、數十メートル、加えて空中……そんな狀況下で俺は五人の敵兵の頭を矢で抜いて殺した。
「なっ……貴様っ!」
マハティガルは突然現れた俺に、一瞬だけ同様を示したが、直ぐに対応して魔導機械マキナアルマとかいうロボットをかしてきた。
魔導機械マキナアルマの裝甲が開いたかと思うと、そこからミサイルにも似たものが高速で四発ほど飛び出してきた。もう、この際ミサイルと呼んでしまうが……空中にいた俺はそのミサイルを視界にしっかりと捉えておく。
マハティガルの方は、さすがに空中にいては避けられないと踏んで薄い笑みを浮かべているのが分かった。
俺は向かってくるミサイルに対して、特に構えることなく淡々と対応を始めた。
一発目……け流すようにして信管にれないように側面にれて空中でミサイルの方向を変えてやり、二発目と衝突させた。
発によって巻き起こった風で、宙を飛んだ俺は三発目を避けて、最後の四発目をスケートボードに乗るような覚で避けた。
「なっ!」
マハティガルは驚いたような表をしていた。
そういえば……こいつはあの時待ち伏せていた隊の……。
俺はマハティガルに対しての一切のけを捨てて、もう一つの切り札を使うために、眼下のマハティガルに向けて弓を構える。
落下しながら、俺は水魔を駆使してそれをレンズのようして遠くが見えるようにする。そして、もう一つの弓技を発させる。
「【バリス】っ!」
言い放ったと同時に、弦を離す。今までと違い、矢がズガーンという稲妻にも似た音を立てて超高速で目標に向かって飛んでいく。
この弓技は、風の元素やら火の元素やら雷の元素を詰め込んで作った、もう一つの固有弓技……。
回転がかかり、鏃が黒く燃え、矢が稲妻を纏い轟音をたててマハティガルに向かって飛んでいく。その音に気がついたマハティガルだったが既に遅い。
次の瞬間にはマハティガルのを頭の天辺から貫き、さらには魔導機械マキナアルマとやらもぶち抜いたのだ。
「へ?」
これに驚いたのはむしろ俺だ。まさかこんなにあっさり?
マハティガルは言わぬ死となりドサリと魔導機械マキナアルマから落ちた。そして魔導機械マキナアルマは奇妙な音を立てて沈黙……。
最後に生き殘った一人の兵士はなにが起こったか分からずに、ただ呆然とマハティガルの亡骸を見ていた。
こいつは殺さない。マハティガルが殺られたことを他の兵士に伝えて貰わなくちゃならないからな……。
その後、指揮を失った林部の敵兵は全軍撤退を始めた。
よかった……。
–––☆–––
俺は敵兵が撤退していくのを確認した後にあの看護の人のところへ戻った。【ブースト】狀態だったため、超ダッシュで、來た道を三分の一くらい時間を短して帰ることが出來た。
看護の人は、俺が戻って來たのを見ると驚いた顔をしていたが直ぐに俺に向かって言った。
「すみませんが、この人を運ぶのを手伝っていただけないでしょうか」
「え、あ、はい」
なんか反応が凄くあっさりしているのに俺は違和をじながらも、怪我をした兵士を介護のと一緒に安全地帯へ運ぶのを手伝う。
うーん……金髪だし、自分で言うのもなんだけど格好も変な筈なんだけど……まあ、いっか。
兵士は、「すまねぇ……」と掠れた聲で言いながら、俺たちの肩に捕まった。俺は微妙に背が足りてないけど……出來るだけ力になってあげた。
やがて、ゲフェオンの町へ戻ってくると道端が怪我人で埋め盡くされていた。ここで処置を行っているようだ。
「ありがとうございます。ここまでで結構ですよ」
「あ、はい」
俺は言われたので後はこのに任せようと思う。それにしても偉くあっさりしてたなぁ……まあ、俺一人で、まさか敵軍を撤退させられるとは自分でも思ってなかったし、話したところで信じてもらえないだろうからな。
この件は俺の心のにめておくことにしよう。
それにしても町についた辺りから妙に視線が俺に集まっている気がするんだよなぁ……と思ったら、俺の格好が野戦用裝備のままだったからだった。
きやすい用に薄いタイツに近い服の上に草とか生やしたような格好……そりゃあ注目されるわ。むしろ変人だ。
なんか周りの人達のヒソヒソ話も聞こえるし……。
「なにあの人……ベジタリンアン?」
その考えはなくねぇか?俺は途端に恥ずかしくなって一通りのない路地にって草とか払っておいた。ついでに、【ブースト】も切った。
すると、が今まで軽だった分、重くなった。
あぁ……忘れいた。
【ブースト】はとんでもなく強力な、俺の固有魔だが……やはり固有魔特有の弱點というか、欠點がある。
発に時間がかかるし、使用後はこのような倦怠に見舞われる。ナニした後の、賢者モードの比じゃないからね!
制にも結構な集中力が必要なため、冷靜な狀況下でしか使えないのが難點だ。
しかし、消費魔力は最初に使った分だけでいいし、それを差し引いてもなお余る戦闘力だと思う。まあ、肝心な時に使えなきゃ、意味ねぇけど……。
ふと……俺の中である仮定が生まれた。もしもあの時……いや、やめておこう……。今はただ、前だけ見続けろ。
–––ゲフェオン伯領北部–––
平野地での戦闘の指揮をとっているのはヨーレンツだ。前線は數では敵の方が圧倒しているが、イガーラ王國の兵士は質が違う。
特にギルダブを筆頭とした義勇軍の戦闘部隊がヨーレンツにとって心強い味方となっている。どちらも一騎當千の力をもつ此度の前線の要……この雙璧が崩れない限りは前線が押されることはまずない。
ヨーレンツはそう確信していた。事実、要の雙璧によって前線は拮抗している。むしろ、こちらが押しているといってもいいくらいだ。
このままならば、押し切れると考えたヨーレンツの元に一つの報告がなされた。
それは林に魔導機械マキナアルマが現れ、前線が崩壊……全軍後退したというものだった。ヨーレンツは自分の淺はかさに歯噛みした。
元々、林の敵軍の數がないことに違和はあった。しかし、それは平野地に戦力を割いているだけだと思っていた……そんな甘い考えを持ってしまった。
林の指揮を任せた大師兵の男はヨーレンツに頭を下げているがむしろ、下げなければならないのはヨーレンツの方だ。
魔導機械マキナアルマというのは魔力を送り込むことによってく巨大な兵だ。バニッシュベルト帝王國で作られたものであり、いくつかの國ではそれを模倣した試作機が実戦投されているという。
模倣だろうが、ヨーレンツが頭を抱える事案なことには変わりない。魔導機械マキナアルマを破壊するには中師団レベル……つまり全軍でもって戦わなくては破壊できないのだ。
しかし、そんなことをすれば平野地が手薄になり、こちらの負けは確定する。まさか、ここでそんなものを出してくるとは……ヨーレンツが対策を考えるも全て実行不可、もしくは実現できないようなものばかりだ。
ギルダブや義勇軍の戦闘部隊を送ることを考える。もしかすると、破壊できるかもしれないが、破壊できずに殺られてしまったら要を失うことになる……。
「………」
苦しい選択を迫られ、ヨーレンツは徐々に苛立ちを覚え始めた。そんな中、新たな伝達兵がくるものだから思わずヨーレンツは聲を荒げてしまった。
「なんだ!」
「ひっ」
ヨーレンツは伝達兵の怯えた顔を見て頭が冷めてバツが悪そうに、「すまない……報告を頼む」と言った。
伝達兵は恐る恐るという風に報告をする。
「ほ、ご報告申し上げます……林に現れた魔導機械マキナアルマ並びに敵將マハティガルの死亡を確認……林部の敵兵が撤退を始めました」
「は?」
思わずヨーレンツは間抜けな顔をしてしまった。その場にいた大師兵の男も訳がわからないという顔をしている。一番訳がわからないのは伝達兵の方なのだが……。
「どういうことだ?」
「いえ……ただ何者かに討ち取られたということしか……」
ヨーレンツの問いに伝達兵はただそうとしか答えられない。
その後、敵軍はマハティガルと魔導機械マキナアルマを失ったことで撤退を始めたという。
–––ゲフェオンの町領主邸–––
コンコンという扉を叩く音にアリステリアは、「りなさい」と告げた。一言言ってってきたのはアリステリアの侍であるアンナ・カルレイヤである。
アンナはカルレイヤ男爵家の娘で元は後宮の近衛侍であった。近衛侍とは侍がある程度剣を嗜んだものという認識を持っていれば、差し支えない。
そんなアンナは元來より仕える、公爵家のノルス公爵家に仕え、こうしてアリステリアの侍として付いている。
年齢はアリステリアよりも二つほど上だ。
「お疲れ様アンナ。大丈夫……でしたか?」
「はい、お嬢様」
「それでアンナが戻ってきたということは……林の方は……」
厳しい表をしたアリステリアにアンナは苦笑して、林で起こった出來事を出來る限り詳細に告げた。
「そんなことが……となるとマハティガルを討ち取ったのは……」
「はい。恐らくグレーシュ殿かと……」
それを聞いてアリステリアはしい顔に笑みを浮かべた。
「やはり……ギルダブ様に並ぶ我が國の貴重な戦力として何としても彼を軍に引き込まなくてはなりませんわね」
「お嬢様。それではまるで、ギルダブ様を軍に引き込むためにご結婚なされたのかのように聞こえます」
「え!?そ、そんなつもりはなくってよ?」
「冗談です」
この侍は侍にあるまじき言をとるが……これは一重にアリステリアの人柄の良さなのだろう。
「もう!」
アリステリアは不貞腐れ、ぷりぷりと怒った。それが微笑ましく、アンナはクスリと笑った。それを見たアリステリアがさらに怒るものだからキリがない。
アンナが林にいたのは、怪我人の看護の人手が足りなかったためだった。アリステリアが人手不足を聞いて、自分の優秀な侍を駆り出させたことが、今回の件をアリステリアの耳にれることが出來た一つの大きな要因だった。
アンナはぷりぷりと怒る自分の主人の機嫌をとるために紅茶を淹れようと、一度アリステリアの部屋を退室した。
「それにしても……」
アンナはふいに変な格好をした年のことを思い出していた。全にぴっちりとした服をきて、さらにはに草を生やしたような変な格好……しかも、林へる前は黒髪だった髪が金髪に変わっていたのだ。驚かない訳がなかったが、彼はそれをおくびにも出さなかった。
それはともかく……あのときは思わず驚いてしまったが、よく考えればあれは、林で戦うのにかなり適した姿だと言える。
近衛侍であるアンナは戦闘に関して、半ば知識があるためにグレーシュの格好を理解することが出來たのだ。
だからこそ、あまり突っ込まなかったし、なによりも年のところどころにの後があった。敵兵が撤退し始めたのはこの年のおかげだと、アンナは気付くことが出來たのだ。
あのときは何とか平靜を保てたが、それはもう常人離れしたようなことではないだろうか?
それこそアリステリアの旦那となるギルダブに匹敵するような……。
「一……あのお方は何者なのでしょうか」
なお、この件に関しては匿事項とされる。グレーシュの力を知った貴族達に取り込まれでもしたら目も當てられないからだ。と、アリステリアに厳命されたアンナは、もちろん黙って頷いた。
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