《一兵士では終わらない異世界ライフ》平原の覇者
–––グレーシュ・エフォンス–––
俺は目立たないように看護用のエプロン服とか著て、怪我人看護のために忙しなく働いていた。あっちいけば重癥者。こっちいけば重癥者。右も左も怪我人で溢れている。ざっと五千人ほどらしい……確か、自軍の総兵數は八萬か九萬だったか……そう考えるとない被害なのだろうか?戦爭の経験なんて、平和の國の出である俺にあるはずもなく、どんなに考えても分かるわけがない。
暫くせっせと働いていると、俺のよく知る気配をじた。もう俺の索敵スキルってすげぇな……ただし、理由が前世で他人からの視線に恐怖していたために敏になったからっていうからけないもんだ。多分だけどね。
じた気配の方に視線を向けると、看護者の白いエプロンのような服を著たラエラ……俺の母さんが何人もの同じ服を著たを従えて怪我人が右往左往する道を縦斷していた。
「それでは皆さん。治療の方をお願いします」
ラエラ母さんが言うと、付いていた人達が一斉に散って、怪我人に治療魔を施し始めた。
「〈癒しの水よ・我が願いを聞きれ給え・求めるは絶対の癒し・治せ〉【スーパーヒール】」
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俺は思わず絶句してしまった。ラエラ母さんを含め、それぞれがその魔を詠唱し、唱えると、淡く優しいが怪我人に降り注ぎ、みるみるに怪我が治っていくのだ。
俺が知っている治療魔は応急処置程度で止や痛み止めくらいの効果しかないはずだが……今のが高位の治療魔なのだろう。
ラエラ母さんは、怪我人の治療を終えると呆然と立っている俺のところへ歩いてきた。
「グレイ……無事でよかった」
「う、うん」
俺を優しく抱きしめてくれる母さん。気恥ずかしさと治療魔に対しての驚きでなんか変な気分だ。
「ねぇ、母さん。さっきの魔はなんなの?僕が習った治療魔と違うんだけど……」
「グレイが習ったのは誰でも使える初級の治療魔だからだよ。私達が使っているのは神や僧呂にしか使えない高位の治療魔なの」
なるほど……曰く、神や僧呂というのは神に誓いを立てることで火と水の元素の魔しか使えない代わりに、の元素の高位の治療魔が使えるようになるのだという。というのは、まあ以前にしたと思うけど……しかし、こうして直に見ると凄まじい。ただ、高位なだけあって、詠唱が長い……一節こどの間も広いし、発音も難しいだろう。
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「とにかく、お母さんはまだ、治療して回るから……あ、あとソニアがかなり怒っていたから帰って頭下げてきたら?」
「うっ、うん……分かったよ」
半ば無理矢理にソニア姉の反対を押し切って、義勇軍にったんだもんな……しかも、あんまり俺って帰らないし。
とりあえず謝って許してもらお……。
後は、治療魔師の人達と母さんに任せていいというので俺は現在仮の我が家となっているテントの方に帰った。
仮家へ帰ると、激おこファイナルリアリティなんたらプンプン◯な、ソニア姉がいた。テントに俺が恐る恐る、「た、ただいま〜」なんてっていったらめちゃくちゃ睨まれた。
ふえぇぇ……。
「正座」
「はい……」
俺は大人しく正座することにする。今のソニア姉に逆らったら碌なことにならん。
「もう……あたしがどれだけ心配したか……」
「うん……ごめん」
それからソニア姉の不満が発した。こってりと一時間くらいお説教されました……きっと、父さんが亡くなって不安が溜まっていたのだろう。
ここは甘んじてその不安を俺が全部けますかね……。
ラエラ母さんが帰ってきたのは、さらにその三時間後。ようやくソニア姉に解放された俺の足は痺れを通り越して麻痺っていた。だれか麻痺を治す薬を……。
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その後は、母さんが作った夕食を久しぶりに食べた。お袋の味萬歳!!
そして寢る前……俺たち家族は仮家のテントの隅に立て掛けた一本の剣に向かって手を合わせた。アルフォード父さんの形見の剣だ。
手を合わせるなんて仏教みたいだな。でも、イガーラ王國の國教は神聖教だからね?
仏教じゃないよ?
–––☆–––
翌日……三人で朝食をとった後、俺はゲフェオンの町から離れ、その街道外れの平原で俺は剣と弓と魔を使って、魔を躙していた。
ぶっちゃけ魔からしたら殺してくる俺なんか悪魔にしか見えないだろう。だが、悪いな……お前の亡骸である魔石で俺は強くならなくちゃいけねぇんだよ。
「すまんねっ!」
せめてお前らを俺の踏み臺にしてやるぜ!オラオラオラオラオラオラッ!!
そうして魔を狩りまくって、俺は魔石を手にれては魔力を増幅させていった。こんなに大量の魔石を手にれているのに、まだまだ魔力は上がるようだ。
これが普通なのか?それとも俺の魔力保有領域ゲートが底無しなのか?
うーん……こうも簡単に魔力が増えるとなるとみんながみんな、沢山魔力を持っていることになっちまわねぇか?
魔力保有領域ゲートの包量にもよるんだろうけど、俺が特別馬鹿みたいな包量じゃなければ説明できないな……。
まあ、ともかく魔力が沢山あればあるだけ、魔とかが使い易くなるってもんだ。
こうして俺は、バッタバッタと魔を屠り続けていき、やがて大きな魔が俺の目の前に現れた。今までの奴とは違い、最初から俺にめちゃくちゃ敵意を向けてきている。
これは……。
巨大な軀と翼……そして四本の足に鷲のような頭は……、
『我が名は気高きグリフォンのグリア。平原の主である。我が同胞を殺する貴様にもう好き勝手はさせん』
うっ……俺が半ば悪者だから何も言い返せねぇ……。
「俺はグレーシュ・エフォンスだ。一応名乗っておく……お前の同胞を殺しまくっていることに関しては俺が全面的に悪いことは認める……が、俺も止めるわけにはいかない」
『ふんっ……人族は己が力の糧にするために同胞を殺す。愚かな行為よ』
確かに……。
「否定はしない。強くなるためにお前らを俺は殺す」
『させん!』
グリフォンのグリアは、そう言ってその巨大な翼をはためかす。それだけで突風が巻き起こり俺はその場で踏ん張る。
その瞬間、戦闘モードへと意識が移行して視點が切り替わる。ふと、魔力が上がったからか索敵スキルが向上している気がする……。
グリフォンの気配がはっきりと目視できる。何故か分からないが、次にグリフォンがしてくる攻撃が分かる気がする……。
グリフォンは高く飛び上がると、強靭なその爪で降ってきた。凄い突風……なんだろう、目の前に恐ろしい爪が迫っているというのに頭がクリアだ。いつかの時みたいな……。
俺は、【ブースト】を使うために魔力保有領域ゲートを開き、魔力を練り上げる。
「〈……切り開け〉【ブースト】」
降ってくる兇悪な爪が俺を襲う直前に詠唱の終了した【ブースト】が発し、全を覆う。スレスレでグリフォンの爪攻撃を躱し、腰に隠し持っているナイフを抜き放ち、グリフォンの足に突き刺し、しがみ付いた。
『ぐあっ!貴様ぁ!離れろ!』
グリフォンはびを上げて上空を高速移し始め、俺を振り下ろそうとしている。しかし、【ブースト】の補助をけた俺の力は常人を逸しており、グリフォンの揺さぶりにもビクともしなかった。
そして……、
「くらえっ!〈炎よ ぜろ〉【ファイア】!」
ナイフに魔力を流し、グリフォンので炎の魔を炸裂させる。
『ぐおぉ!』
グリフォンは堪らず落下する。このままでは落下に巻き込まれると思い、俺はしがみ付くのをやめて、グリフォンから飛び降りて空に躍り出る。
『ぐぅ!馬鹿が!』
地面に激突するかと思いきや、グリフォンは空中で勢を立て直すと、宙で何も出來ずにいる俺に向かって飛んで來やがった。
やべぇ!俺は慌てて弓をとり矢を引く。
「弓技……【バリス】!」
あの魔導兵マキナアルマすらも打ち抜いた俺の弓技……【バリス】が、ズガーンという轟音を立てて、高速回転し、電撃を纏って、矢がグリフォンの急所を狙って飛んだ。しかし、急いで放ったために、力が臨界に達していなかった。それでも確実に、命中するところ……空中で勢の悪いこの狀況で、このショット……正直、自分を褒めてやりたかったが、次の瞬間にそんな気も失せた。
『ぬんっ!』
グリフォンが何かしたと思ったらグリフォンの急所を貫く寸前で、矢が弾かれた。
「噓だろっ!?」
何しやがった!そうしているにも、高速で俺に向かってくるグリフォン。俺は咄嗟に初級風屬魔の【エアボア】を詠唱して、空中回避し、グリフォンの突撃を逃れた。
グリフォンは避けられても気にせず方向転換して、俺に再度突撃してきた。
羽あるとかマジチート……。
今度は迎え撃つために剣を抜く。そして、グリフォンと衝突する瞬間に剣技を使うために魔力保有領域ゲートを開いた。
あの時は出來なかったが、使うための原理も分かるし、【ブースト】狀態の今の俺なら使える!
「【斬鉄剣】!」
俺の発した剣技とグリフォンの頑丈ながぶつかる。まるで金屬と相対しているかのごとく、いと俺の剣の間で火花が散る。
俺はグリフォンに地面へと向かって押され始める。このままでは地面に激突する!
俺は一か八かで、を捻り、グリフォンの攻撃をけ流した。グリフォンは止まらない勢いにのって、思いっきり地面に衝突した。凄い衝撃が一帯に走ったが、グリフォンはごく自然に起き上がった……タフだな。よし……と、今度は魔を使うために魔力保有領域ゲートを開き、詠唱を始めた。【ブースト】と並ぶ、俺のもう一つの固有魔っ!正確にはエドワード先生直伝の固有魔だけどなっ!
「〈我が腕・敵を滅さん・砕け・滅びろ〉【イビル】」
開いた魔力保有領域ゲートから魔力を引き出し、大量の魔力を消費して、宙を落下している俺の右腕に巨大な巖の拳が生されていく。
生された巖石は、鋼鉄を超える高度を持つ超合金……もう巖石じゃねぇ……。エドワード先生直伝のこの地屬の固有魔は本來、目標の頭上に生して、その質量でもって押しつぶす鬼畜な魔だそうだが……俺はそれを改良し、【ブースト】狀態の自分の腕に生するようにしたのだ。
【ブースト】狀態のパワーと、【イビル】質量……そして重力加速度……。
くらえ……グリフォン!エドワード先生のを俺が改良して作った固有魔!
「【イビルブロウ】だ!」
今、名付けた!
グリフォンは俺の巨大な拳に対抗するかのように、飛び上がり、急上昇しながら、再びその質なを煌めかせて、突っ込んできた。
俺の【イビルブロウ】と、グリフォンの突進が激突すると、超合金の拳がグリフォンのを砕き、そのまま地面へと自由落下し、押し潰した。
『ぐぁっ!』
グリフォンは悲鳴をあげる。悪魔の巨大な拳がグリフォンを頭から潰し地面へ叩きつけたのだ。【イビルブロウ】は、その名に恥じない悪魔の一撃だった。
辺りに舞う土埃が晴れると、グリフォンはまだ生きていた。しかし、自慢の羽もボロボロで、も割れていた。しかも、どうやら飛ぶことができなくなっているらしい。
終わりか……。
『ふんっ……我の負けだ。強き人族よ』
グリフォンのグリアは、そう言って負けを認めて大人しくなった。どうしよう……なんか殺し辛い……。
『強き人族よ。我の最期の頼みを聞いてはくれまいか?』
「なんだ?」
『我が死んだとき、その我の力の源は、強き人族の力となろう……それでもう、同胞を殺さないでしいのだ』
「わかった……お前ほどの力だ。それが得られれば俺もきっと、それ以上強くなることはないだろう」
『本當だな?約束を違えたとき……我はお前を呪ってやる』
「あぁ……約束する」
俺はなんだか居た堪れない気分になりながらも、グリフォンに止めをさした。そして出てきたのは、とんでもないほどの魔力を宿したグリフォンの魔石。
それを得た瞬間、俺の中で何かが満たされる覚がした……。
「ふぅ……」
俺は微妙な気分になり、その日は帰った。きっと俺はもう魔は殺さない。グリアとの約束だからな。正確に言うと殺す必要がなくなったんだけどな……。
ともかく、魔に本當に悪いことをしたと思いました。魔にも生活があるんだよな……よく考えたら。
正義面して、魔を殺す奴らとか、そこんとこ考えられねぇのかな……まあ、俺もそこは同じかな。
俺は改めて命というものを考えさせられた。守りたいものがあるのはみんな同じなんだよな。グリアは同胞を殺さないでしいと言っていたな……。
その約束……必ず守ろう。
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