《一兵士では終わらない異世界ライフ》わす悪魔

–––オーラル皇國軍対策會議–––

ゲフェオン領主邸では引き続き、トーラの町の奪還に向けての作戦會議が行われていた。出席者の中に、今回はグレーシュはいない。

「調査の結果だが……トーラの町には現在十二萬近くのオーラル皇國軍が駐屯しているらしい」

ヨーレンツの言葉に出席者達の表は曇った。

通常、攻城戦で必要な兵力は敵兵力の三倍。オーラル皇國軍一十二萬に対して、ヨーレンツ率いるイガーラ王國軍中師団の數と義勇軍を合わせても三倍というよりも悪く、十二萬にすら屆いていない。

今回のゲフェオン防衛で対等に渡り合えたのは、オーラル皇國軍が侵攻側だったのと、ギルダブやナルク率いるクロロ達義勇軍の戦闘部隊の活躍が大きかったのが要因であった。

そして林部に現れた魔導機械マキナアルマがわ運良く何者かによって破壊されたということ……これがなかったら防衛線は総崩れ、ゲフェオンの町も躙されていたかもしれない。

「まだ魔導機械マキナアルマに関しての報はっていないのですかな?」

「あぁ……調査させているが分からん」

ウルスラーの問いにヨーレンツは答えることが出來ず、肩を竦めた。

この場でたった一人だけ事を知っているアリステリアは、自分の後ろに立つ侍アンナに目配りすると、何か察したアンナは會議室から退室した。

「どうした?」

「いえ、なんでもありませんわ」

ヨーレンツが訝しげに言ったので、アリステリアは慌てて取り繕う。自分の婚約者のそんな挙に、ヨーレンツの隣に立つギルダブは疑問符を浮かべた。

「なんにしろだ……トーラの町の奪還っつーのは現実的じゃねぇな」

沈痛な面持ちで言ったナルクに、誰も反論することが出來ない。兵力が足らない。

「しかし、このままオーラルの者共に好き勝手させるわけにはいかないですな」

「じょあ、なんか作策でもあんのかよ。領主様?」

「それは……今、検討中でしょう?」

「その通りだ。そのための會議だ」

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ウルスラーとヨーレンツの二人から言われて、ナルクは肩を竦め、それから自嘲気味に口を開いた。

「幸いにも敵の撤退が早かったおかげで被害はないんだよなぁ……」

敵將マハティガルの死が、敵を撤退させたおかげで、死傷者もなく、怪我人もかなりなかった。

「いま、治療魔士師の方々が治療に當たってくれていますわ」

アリステリアの報告で一同はしだけ安堵の息をらした。怪我をした人々を癒すことができる者がいるというのは、とても心強い。

それから會議はトーラの町の奪還についての作戦會議へと、本格的に変わった。

暫くして、會議が終わったところでアリステリアは義勇軍の代表であるナルクをちょいちょいと、手招きして呼び寄せた。

「なんだい、公爵令嬢殿」

「アリステリアでいいですわよ。それよりも……込みった話がありまして。この後、會議室に殘ってくださる?」

「ん?かまわねぇが……」

と、ナルクはチラリと後ろに控えている仲間に目配りする。アリステリアは察して言った。

同席していただいて構いませんわ」

こうして會議の終わった會議室にはアリステリアとその護衛の二人…そしてナルクやクロロ……それにワードンマとアルメイサの義勇軍の上層部が殘った。

–––グレーシュ・エフォンス–––

グリフォンを倒した俺は、ゲフェオンの町に戻ってきた。人々の表は不安のだ。そりゃあそうか……戦時中だもんな。

俺だって、呑気なことをしちゃいられないよな。義勇軍の後方支援だって大事な仕事……一生懸命頑張って、出來る限りの支援をさせてもらおう。

俺がそんな風に決意しているところに、あの林であった看護のの人が、唐突に俺の目の前に現れた。

「失禮致します。グレーシュ・エフォンス様。私はアンナ・カルレイヤと申します」

「は、はぁ……」

いきなり現れたものだから、し気圧され気味に、俺は頷いた。

アンナというは、そんな俺を特に気にすることなく続けた。

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「アリステリアお嬢様がお呼びです」

「え……アリステリア様が?」

なんだろう……二年前の闘技大會のときのような嫌なじがするんだけど……。

若干の不安を覚えたが、しかし公爵令嬢のお呼びを一平民の俺が、無下に出來る訳がない。仕方ない……。

俺は付いてくるように促すアンナに付いて、領主邸を目指して歩き出す。

そうしてテレテレとお互い無言のまま數分歩き、ゲフェオンの領主邸に著くと、直ぐにあの対策會議室へ通された。

「ん?

と、會議室にった俺は首をかしげた。それは中にいた人を見ての反応だ。

よく知っているナルクやクロロが居り、加えてアリステリア様やアンナ、アイクがいるわけだが、そこに見慣れない二人がいたのだ。

片や、大柄で厳ついオッさん……片や、綺麗な……絵図らだけ見たらと野獣だ。

俺が頭上にハテナを浮かべていたからか、クロロが気を遣って紹介してくれた。

「あ、グレイくん。こちらは私の冒険者の同僚で……アルメイサ・メアリールさんとワードンマ・ジッカさんです」

クロロの紹介に合わせて、大柄なオッさん……ワードンマが俺の前に一歩出て笑った。

「よろしくのぉ。クロロから聞いとるぞ、グレイ」

「あ、はい……よろしくお願いします」

口調が年寄り臭く、聲もガラガラと年季がっていた。対して、ワードンマの後に出てきたは薄く笑って言った。

「よろしくするわね?グレイちゃん」

「あ、よろしくお願いします」

普通……そうに見えるが、なんだこの獲が狩人に目を付けられたかのような覚!

「気を付けてください。アルメイサさんはドSです」

「え」

「や〜ん、クロロちゃん。そんなこといっちゃダメよ?怖がっちゃうじゃない」

ふえぇぇ……怖いよぉ……。この人の目、怖いよぉ……。

「節のない奴じゃ」

「あら?娼婦で(自主規制)まくってる年寄りには言われたくないわね?」

「誰が年寄りじゃ!」

アルメイサとワードンマが何やら言い爭いを始めたのだが、いつものことなのかクロロとナルクはやれやれと肩を竦めて傍らで眺めているだけだ。

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もうホント……やれやれ。

「話……初めてもいいのでしょうか」

アリステリア様が遠い目をして俺に問い掛けてきた。

あの二人にお訊き下さい。まる。

–––オーラル皇國皇都オーラルヌス皇宮殿–––

時は遡ってイガーラ王國とオーラル皇國の宣戦布告無き戦いの前……場所は、オーラル皇國の皇都オーラルヌス。その國の王である、皇王が住む皇宮殿の眼下には、巨大な城下町が広がっていた。

その皇宮殿にて、パタパタと走る一人のの足音が響き渡った。。皇宮殿に仕える者たちは、その足音を聞くと、和やかに微笑んだ。

皇宮殿を走るの名は、カミーラ・オーラル第三皇……歳はまだ六つとい。カミーラはとても可らしいで、パタパタと皇宮殿を走る彼らしさに、使用人達はどこか微笑ましげだ。

「きゃーーーー!」

「こらこら、カミーラ。皇宮殿の中は走ってはいけないと言っているだろう?」

「きゃーーーーー!」

「ちゃんと聞きなさい!」

というのは、オーラル皇國を治める皇王ユンゲル・オーラルだ。きゃっきゃっと楽しそうにびあげながら走って逃げ回るカミーラを、ユンゲルは自分で走るなと言っておきながら走って追いかけていた。

説得力の欠片もない……。

と、その景を微笑ましく見つめていた使用人達は各々そんな想を浮かべていた。

そんな使用人達の微笑ましい雰囲気に気づき、ユンゲルは怒鳴り散らした。

「見てないで助けてくれよ!お前ら全員クビにするぞ!?」

まーったはじまったよ、というのは使用人達の心の聲だ。オーラル皇國の皇王は、口ではそんなことを言っているが、本當に自分達を解雇したりなんかしないのだ。

民からは甘々王なんて呼ばれて親しまれている。王がそんなんでいいのかとも思うが、これがオーラル皇國の王なのだから仕方ない。

あげくの果てに、王様の三様は城である皇宮殿で走り回る始末……それを追いかける彼は間抜けな王にも程があるのだが……不思議と彼の下には人が付いてくる。

政もバッチリ取り仕切っており、軍事に関しても將軍と並んでよく相談していたりする。民のことを重んじる歴代の皇王の中でもユンゲルはけない男ではあるが、その意思はしっかりと継いでいた。

まあ、やはり娘を追いかける父親の姿は王にはとても結びつかないが……。

「きゃーーーー!」

「もう!パパの言うこと聞きな––––––!」

皇王のび聲が皇宮殿に響き渡り、反で語尾の方はよく聞こえなかった……。

皇王のそんな悲鳴に反応して、一人のしいが皇宮殿の広い廊下に現れ、カミーラの走る線上に立った。

カミーラはそれで一瞬避けようとしたが、立っているの顔を見てむしろ、そのに飛びついた。

「お母様ぁー!」

「あっ、ちょっと」

いきなり抱き著かれて、カミーラにお母様と呼ばれたは思わず餅をついてしまった。

「うふふーん〜おっかあ様〜」

「もう……甘えん坊なんだから」

やれやれといったじだが、は優しくカミーラを抱き上げた。このの名前はカミュリア・オーラル皇妃。つまり、ユンゲルの妻である。綺麗な緑の髪を持ち、カミーラも、そのけ継いでいた。

「はぁ……なんでカミュリアの言うことは聞くんだろうな?」

「貴方がしっかりしてないからでは?」

「えー俺頑張ってるのにー」

ぶーたれる夫にカミュリアは呆れた顔で肩を竦めた。

「あぁ、それはそうと……ユリアを知らないか?朝から見てないんだが……」

ユンゲルが困ったように訊くと、カミュリアは訝しげに首を傾げた。

「ユリア?私も見ていませんけれど……」

ユリア・オーラル第二皇。ユンゲルとカミュリアの間に生まれた二人目の娘で、カミーラの姉だ。年齢は九つとなる。

「おっかしいなぁ……」

ユンゲルがユリアを探そうと廊下を歩くと……それは唐突にやってきた。

「ご機嫌よう……ユンゲル皇王」

ユンゲルの他に誰もいない、靜寂に包まれた空間を切り裂くようにして響いたしい聲音に、ユンゲルは一瞬だけ反応が遅れたが、それでも彼の危機察知納涼は並外れていて、咄嗟に護用の短剣を懐から取り出して振り返り、んだ。

「何者だ」

先ほどまで、とても家族と幸せそうにしていた男が腹の底から夥しい殺気を放ちながら、謎の侵者に向けて言った。

「うふふ。そんなに怖い顔をしないでしいですわぁ〜?」

甘い聲が思わずユンゲルの脳を揺さぶったが、ユンゲルは何とか耐えて、窓ガラスから差すによって出來た影の中にいるを見據えた。

とても若いのように見えるが、男をする甘い聲や口調が練の娼婦のようにじられる。

やがて、その姿がへ曝け出されると、ユンゲルは息を飲んだ。

しい肢で、バランスのいいプロポーション……たわわなが強調されるような大膽な服裝をしており、髪は明るいピンクで、肩口にかかる程度までびていた。髪と同じ雙眸は妖しくり、男をわす魅力的な作りの顔が、不敵な笑みを浮かべていた。そんな完璧な容姿をもった彼だが、二つほど特徴的なものがあった。それは、頭から生えている灣曲した二本の角と、妖族長耳エルフ種のような長い耳だった。

ユンゲルは思わず見惚れてしまったが、直ぐに頭を振って自分を律すると、そのを見據えながら思考を巡らせた。

(なぜだ……?このを見ているだけで引き込まれる……俺はカミュリア一筋だし、他のに目移りなんて、どんなにしくともしたことはない……。この……頭のといい……魔族か?)

魔族……この世界にいる知的生命の一つであり、人族、獣人族、妖族などと普通に共存している種族だ。

見た目は様々で、殆どが異形の姿をしており、目の前にいるもまた、耳やら角やら、そしておから生えているウニョウニョと蛇のように蠢く尾が魔族であるとユンゲルが確信した証拠であった。

そして魔族であるならば、自分が目の前にいるに魅了されてしまう原因が分かる。魔族魔サキュバス種と呼ばれる、男を自分の虜にし、その生を吸い盡くす者たちがいるという。

ユンゲルは初めて実を見た訳だが、話には聞いていたために、そう判斷することが出來た。

「もう一度訊く…何者だ?」

だからこそ、ユンゲルはさらに警戒を強めて問い掛けると、は肩を竦めて答えた。

「私は……ゼフィアン」

「ゼフィアン……だと?」

ユンゲルは、ゼフィアンと名乗ったの名前を復唱して、頭の中にある名簿と照合し始め、ふと……一人だけその名前に當てはまる者がいた。照合し終えたユンゲルは絶句し、目を見開いて言った。

「ゼフィアン……ゼフィアン・ザ・アスモデウス一世か!」

ユンゲルが大聲でびあげると、ゼフィアンは口の端をニッと吊り上げて、その綺麗な手を前に出し、グッと握りしめるという不可解な作をした。

ユンゲルから幾分か離れたところでのその作に何の意味があるのか……と、なんとゼフィアンの作に合わせてユンゲルの口元が見えない何かに塞がれて、聲を出すことが出來なくなってしまった。

「…………っ!」

しうるさいわねぇ……」

他の者に見つかりたくないのか、ゼフィアンはユンゲルが大聲を出せないように口元を何らかの方法で塞いだようだ。その方法というのが、この世界で數人ほどしかいない魔の達人が使えるという達人級マスター闇屬【念力サイコキネシス】である。

この魔は、離れたところにあるかしてたりすることができ、ゼフィアンが今し方やったようなことが出來る。

世界に數人時間使えない達人級の魔を扱える彼が、もちろん普通の人である筈がない。

……ゼフィアン・ザ・アスモデウス一世は所謂、『魔王』と呼ばれる者であり、イガーラ王國、オーラル皇國などがあるスーリアント大陸と呼ばれる大陸を海でいだ先にあるアスカ大陸のアスモ領という場所を、かつて統治していた。

アスカ大陸とは、そのようにして何名かの魔王達がそれぞれの領地を統治しており、スーリアント大陸とはまた違った文化制を広げていた。

そんな魔王の一人……ゼフィアン・ザ・アスモデウス一世は魔の達人の一人でもあることで有名だ。二重の意味で有名な彼を、まさかユンゲルが知らない筈もなかった。

はたして、それほどの人が何のためにここへ來たのか……ユンゲルはとある噂を思い出していた。

その噂というのは、魔サキュバスの魔王が國の王様を魅了し、その國を意のままにって、適當な國と戦爭させているという……もちろん、専らの噂で、ユンゲルは流していたのだが……。

(ま、まさか……本當に?)

だとしても、戦爭をさせる目的はなんだ?一なんのために?と、ユンゲルが様々なことに思考を巡らせているところに、ゼフィアンは、まるでその思考を読んだかのように答えた。

「私の目的は忌級アカシック魔【ゼロキュレス】の発……うふふ。そのために、億の命が必要なのよねぇ〜?だから、こうして……」

言いながらゼフィアンはユンゲルに近づき、れないギリギリのところまで顔を寄せて、耳元で囁いた。

「各國の首脳を籠絡して戦爭させてるのよぉ〜?ね?お願い……」

甘い甘い聲音……その悪魔の囁きにユンゲルは完全に墮ちてしまった。

「うふふ……うふふふふ」

ゼフィアンの薄気味悪い笑い聲……それを部屋の扉の隙間から見ていたユリア第二皇は、九歳という若さながらも狀況を正確に把握し、いま自分に出來ることを考えた。

「は、早く……早く誰かに知らせなくっちゃ……」

……それから、暫くしてカミュリア皇妃やカーミラ第三皇、ユリア第二皇は護衛の騎士達とともに皇宮殿から速やかに逃げ去った。その後、オーラル皇國軍が、皇王ユンゲルの命令で全軍が挙兵し、イガーラ王國の端……トーラの町の近くにある砦を陥落させ、トーラの町へとそのまま進軍していった。

–––グレーシュ・エフォンス–––

皇宮殿制圧……オーラル皇國の事実上の崩壊……その話を聞いたこの場の全員が凍り付いた。まさか、いま戦っている敵國のがそのようなハチャメチャな狀況などと誰が予想がつくだろうか。いや、誰もつくことはできない。

ナルクは頭痛でもするのか、頭を抑えて頭を振って言った。

「……変だと思ってたんだよなぁ。オーラル皇國の皇王っつったら甘々王で有名だからな。そんな皇王が宣戦布告も無しに戦い吹っかけてくるとは思えなかったんだよなぁ」

ナルクはボヤくように言いつつ、頭を掻きむしった。それから、ワードンマが険しい表で、アリステリア様とテーブルを挾んだ向かい側で立って、腕を組みながらも、椅子に座るアリステリ様に尋ねた。

「しかし……一、これほどまでの詳しい報をどこから得たのじゃ?」

ワードンマの指摘は確かにそうだ。どうして、一公爵令嬢にしか過ぎない彼が、これほどまで詳しい実を……それに彼だけが知っているのか。

指摘されたアリステリア様は困ったような笑みを浮かべてから、小さく口を開いた。

「わたくしはお友達・・・が多いんですの」

「いや、そういうことをじゃないのじゃが……」

「わたくし……お友達……多い……ですのよ?」

意味が分からん……多分、この場にいる全員がそう思ったのかもしれない。しかし、アリステリア様が言外に、「訊くな」と言っていることは確かなことだと全員分かったようで、俺も口を噤んだ。

が、はたと考えてみる。一どうやってアリステリア様はこんな報を得たんだ?まさか、本當にお友達が多いとか、糞リア充みたいな理由な訳がない……うん、アリステリア様はリア充だけれどもー。

ウンウンと逡巡してみるが、結局答えは見つからず……話の流れが次に移り出した。

「じゃあ、私からもいいかしら?」

アルメイサが顎に手をやって、何か考えながらアリステリア様に言うと、アリステリア様はゆっくりと頷いた。アルメイサはそれを確認してから、一拍空けて口を開く。

「……どうして、その報をあの會議室で言わなかったのかしら?」

む……俺は先ほどの會議に出席していないため知らないなぁ。言わなかったのか、アリステリア様は。

となると、アルメイサの疑問も當然だ。俺も気になって、アリステリア様が答えるのを待っていると、アリステリア様は切り出した。

「トーラの町に侵攻してきた敵軍の発見が遅れた理由は、見張りの兵に間者が混じっていたという話です」

「見張りの……兵に?」

ナルクが復唱して聞き返すと、アリステリア様は頷いて続けた。

「そうです。買収でもされたのかと思っていましたが、この報を手にれた際に分かったのです。見張り兵は誰もが男……」

「あ……ゼフィアンは魔サキュバスですから、魅了で虜にしたんですね」

クロロが気づいて言うと、アリステリア様はもう一度頷いた。なるほど、ゼフィアンというエッチィお姉様が見張りをメロメロにし、間者として使ったわけか。

「トーラの町の前にあったオーラル皇國との境にある砦も陥落し、生存者はゼロです」

「全員殺されたってのか……?」

ナルクはそんな馬鹿なという風に訊いたが、アリステリア様はやはり頷くだけで、ナルクは絶句した。

「……降伏した兵士や捕虜もいないっていうの?」

アルメイサも信じられないようで、アリステリア様に問い掛けた。それに答えるようにしてアリステリア様は口を利かせた。

「分かりません……逃げ出した兵士達も恐らくゼフィアンの力で虜になって殺されてしまったでしょう」

「む……むぅ」

ワードンマが難しそうに唸ると、他のメンツも同じように唸り聲を上げて考えて込んだ。

ふむ……と、ここで初めて俺は口を開いた。

「えっと……チラッと話に出てきたゼフィアンの目的……忌級アカシック魔【ゼロキュレス】って、なんなんですか?」

ふと、俺はここにいる全員に訊いたのだが、全員が首を竦めた。おい、なんで誰も知らねぇんだよ……。

「わたくしも聞いた時に疑問に思っていたのですが……忌級アカシックなどという階級は全六階級にはありませんし」

アリステリア様が言って、全員でウンウン唸っていると、ふとアルメイサ一人だけが得意げに口を開いた。

忌級アカシックは魔協會が作ったもう一つの階級よ。全六階級の中から危険であるとされて、この世界から抹消された最兇の魔のことよ」

協會……それは、俺もエドワード先生から聞いたことがある名前だ。世界の魔に関しての研究をしている機関であり、魔師達を統制するところでもある。平たく言えば、魔の専門機関だ。

「そういえば、主は魔師じゃったのぉ」

「そうよ。でも、魔師とは言っても忌級アカシックに関して知っているの者はないわ……」

「ど、どうしてですか?」

クロロが恐る恐る訊くと、アルメイサは表を歪ませて答えた。

「……それだけ危険だからよ。中でも、【ゼロキュレス】っていうのは忌級アカシック魔で一番有名な魔なのだけれど……元は夢幻級ファンタジーの魔で、その詳しい容を知っているの者はないわ」

そう、夢幻級ファンタジーの魔というのは名前だけであって、その実……何も分かっていない。実在するかも分からないような魔なのだ。

ふと……再び俺は思考を巡らせてみる。

それなら、どうしてゼフィアンという人は【ゼロキュレス】のことを知っていて、

尚且つそれを発させる條件を知っているののだろうか。

【ゼロキュレス】の発條件……億の命……そのためにゼフィアンは各國で戦爭を起こしていると噂もらあるらしいし……。

何のためにゼフィアンが【ゼロキュレス】を発させようとしているのかも分からない……考察するには報不足……。

アリステリア様もそれを察して、溜息を吐いてから切り出した。

「今のところは、これくらいでしょう……差し當たっては、會議であがったトーラの町の奪還のことなのですけれど」

「あぁ、俺ら義勇軍の戦闘部隊が敵本陣を叩くって奴だろ?」

「えぇ。それで、その作戦にグレーシュ様をれてしいのですわ」

アリステリア様の提案で一斉に、俺に視線が集まる。

俺としてはトーラの町の奪還に、後方支援じゃなくてちゃんと戦い參加できるってんなら嬉しいが……。

「しかしだなぁーこれは遊びじゃねぇんだぜ公爵令嬢様?いくらなんでも子供を前線に立たせるっつーのはなぁ…たしかに戦えはするんだろうけど」

「はい、私もナルクと同意見です。グレイくんはその歳にしては確かに強い……でも、飽く迄もその歳での話。大人と比べてはいけないかと……」

確かに俺は子供だ。反論はできない。俺がナルクやクロロの立場なら、とても子供を戦爭に參加なんてさせられないと思う。

それにしても……なんでアリステリア様は俺を戦闘部隊にれようとしているんだ?

そんな俺の疑問に答えるようにアリステリア様は口を開いた。

「ふふ、皆様の言うことは尤も……ところで皆様?林に現れた魔導機械マキナアルマのことは知っていますわよね?」

「ん?あぁ……あれだろ?なんか敵將のマハティガル共々誰かに倒されたってやつ」

「すごいですよね。私は魔導機械マキナアルマなんて倒せませんし」

へ?あのデカブツってそんなに強かったのか?偉い簡単に沈んだぞ……というかアリステリア様?もしかして……、

「はい。実はその敵將や魔導機械マキナアルマを討ち取ったのはグレーシュ様ですわ」

おい、なんで知ってんだよ。思わず心で突っ込んでしまった。

「は?なんの冗談だ?こいつ、クロロのやつより弱いんだぜ?」

「……」

ナルクは冗談だろ?という顔をしているが、クロロは何故か俺を凝視していた。アイクは知っていたのか平然としている。アルメイサやワードンマは、意外そうに眉を上げるだけだ。

「本當ですわよ?」

アリステリア様はどこか楽しそうに笑って言っている。果たして、このお姫様は何を企んでいるんだろうか。最近知ったが、このお姫様は意外と腹黒だったりする。

「もう、冗談はよしてくれやい。俺らは遊びで來てるんじゃねぇんだよ」

ナルクはさすがに痺れを切らして、し強い語調でいった。アリステリア様は心外だという風に肩を竦めた。

「わたくしだって遊びではありませんわよ」

「遊びじゃないならなんだってんだ?」

「ナルク……おそらく公爵令嬢様の言うことは本當です」

「クロロ?」

クロロは俺を凝視したまま、目線をかしていない。何を見ているかは分からないが、どうやらクロロは俺を見て本當のことだと判斷したらしい。

「どうしたのじゃ、クロロ?」

ワードンマが訊くと、クロロは答えた。

「グレイくんの魔力保有領域ゲートは魔力がれるほどの強大な魔力を包しています」

「え?クロロさん、魔力が見えるんですか?」

俺がクロロに尋ねると、クロロは苦笑して答えてくれて。

「完全に見えるわけではないんですけどね。集中してみれば何となくじる程度には見えるんですよ」

「なぁ、本當なのかよグレーシュ?」

ナルクに聞かれ、俺は困ったように笑った。事実ではあるが、ほんとんど不意打ちだったし、真正面から戦えば勝てる確率なんてゼロだっただろう。

つまりは運が良かった。俺が自分にしている評価はそんなじだ。第一、クロロで勝てないやつを俺が倒せるわけがないのだ。

だから、俺はそのときの狀況を誤解されないように詳細に伝えた。林で敵を殺しまくったこと、そしてマハティガルの不意をついて魔導機械マキナアルマ共々打ち倒したこと。

そしたら信じられないというような目で見られた。なぜ?

「お前……」

「なるほど、そういう……」

「ふふふ」

ナルクやクロロは驚いているが、アリステリア様は楽しそうに笑っていた。な、謎だ。俺が疑問符を浮かべることに気がついたクロロが溜息を一つこぼして言った。

「どうやら自分がどれだけ人間離れしているか分からないようですから言いますが……まず、林という樹々が立する場で弓なんて上手くれないんですよ?しかも、一本も外さずに敵を全て抜くなんて神業ですよ神業。不意をつくにしても、魔導機械マキナアルマを貫くほどの威力の弓技を空中で攻撃を避けながら使うなんて無理ですよ。つまり…グレイくんは弓の名手なんですよ」

「えぇ?僕が……ですか?」

正直ビックリだ。弓の名手って言われるほどのもんじゃないと思っていたんだが……。

「それと、もう一つ聞きたいのですが……グレイくんのその魔力量はなんなんですか?つい三週間まえに教えたばかりなのに、魔力の増加が早すぎるんです」

「あぁ、それは……」

俺はグリフォンを倒してその魔石を手にれたことを話した。そしたら今度はナルクとクロロが聲も出ないってくらい驚いていた。

口を開けてポカーンって本當にあるんだな……。

聞くと、グリフォンというのは伝説の生で中々お目にかかれないらしい。

まあ、グリフォンが出てきたのは殺から魔を守るためだったからなぉ……。

伝説の生であるグリフォンはその名に恥じない強さを持っており、その魔石はとんでもない量の魔力を包しているのだという。

それを手にれた今の俺は、まさに伝説の生と同じか、それ以上の魔力を保有していることになる。

「私、今のグレイくんに勝てる気がしません……」

「は、はぁ……そうですか」

なんだか自分が強くなったじは全くないのだが……ともかく、俺は義勇軍の戦闘部隊とともに行することになった。

あと、林の話はここだけのとなった。アリステリア様曰く、貴族達にバレると面倒とのこと。

そういう意味でも義勇軍の戦闘部隊に俺を置くことで、俺という存在を匿することができるらしい。

なぜなら、その功績は飽く迄も義勇軍のものになるからだ。

トーラの町の奪還作戦は一週間後となる。それまでに、準備は整えておくべきだな。

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