《一兵士では終わらない異世界ライフ》卒舎の試験というのがありまして

翌日……チュンチュンという小鳥の囀りで目を覚ました俺は、ギューっとらかいものに抱きしめられている覚に顔を顰めた。

俺のに顔を埋め、腕を背中に回したソニア姉が俺を抱き枕にして安らかな寢息を立てていた。

おい……どうすればいいんだこれは……?

やばいな……こう著されると、育ったソニア姉のそこそこなパーイが下腹部に當たっていけないことになっている。しかも、八年前とは違って生理現象も立派なもので、朝のビッグサンダーが目覚めていた。ビッグサンダーの先の方には、そのソニアのパーイの底辺が微妙にれており、ソニア姉が呼吸をするごとに離れたり……れたりを繰り返していた。

オラのビッグサンダーが朝のラジオをしてるんだべさぁ……。

俺はソニア姉を起こさないように床から出ると、家の外で剣を振った。

煩悩退散!煩悩退散!靜まれ!我が息子よ!!

「あれ……?おはようグレイ。朝から汗だくだけど……どうしたの?」

起き上がったソニア姉が、椅子に項垂れている俺を見て訊いてきた。

言えない……人になったソニア姉に発したなんてとても言えない。それでその煩悩を追い払うために一心不に運していたなんて、口が裂けても言えない。このことは死んで墓場まで持って行こう……うん、そうしよう。

と、まあ朝からこんな出來事があったわけだが……その後は朝食をとってから暫くして三人で町にった。

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ソニア姉とラエラ母さんは治療魔師のお仕事……俺は學舎の方に行かなくてはいけない。五年前まで通っていた學校であり、そこではんなことを學んだ……懐かしいなぁ……。

記憶を頼りに、學舎までの道を歩いていき、學舎の正門まで來て一度立ち止まった。八年前の戦いの後で再建されたものの、殆ど変わりばえないように見える。

さて、いくか!

俺は正門をくぐる何名かの生徒に続いて學舎の敷地に足を踏みれた。その時に、し訝しげな目で見られたが……まあ、いいだろう。

まずはエドワード先生に會いにいかなくては。俺の魔の先生であり、このトーラ學舎の學舎長をしているエドワード・ネバース先生がいるのは確か……。

そうこうして、テレテレと學舎の中を歩きながら學舎長室を探していた俺は、不意に誰かに聲を掛けられて立ち止まり、振り返った。

視界に映ったのは、俺と同じくらいの年齢に見える二人の男であり、如何にも貴族といったじだ。

なんか……見覚えがあるな。

「そこのどこからどう見ても平民の君……見ない顔だな。ここは神聖なる學舎の敷地だ。君のような平民がいていいところではないよ」

「その通り。貴方のようなド平民と同じ空気を吸っている、高貴な貴族である私達のにもなってしいですわ」

口々に、俺に嘲笑しながら罵倒を浴びせてくるこの二人……男の方は聲変わりしていて分かりにくいが、の方は間違いない!

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俺はなんだか懐かしくなって思わず口にしてんだ。

「なっつかしぃなぁ!お前ら、ノーラにいつも言い負かされてたバカ貴族じゃないか!」

そうなのだ。隨分と久しぶりに罵倒されて思い出した。この二人は、昔からノーラント・アークエイという俺の馴染みと口論しては言い負かされて、逃げていた貴族の二人だ。

名前は……知らない。うん。

「それにしても……平民いびりは相変わらずだな」

懐かしさも込めて言うと、目の前で二人はプルプルと肩を震わせて俯いてしまった。

あ、俺のさっきバカ貴族とか心で思ってること言っちゃった!?

なんてこったい。

目の前の二人は、顔を上げたかと思うと、キッと俺を睨んで言った。

「よくも……この高貴な僕達を侮辱したな!」

「絶対に許さない!」

「……ん?」

怒るとは思っていたが、この二人は怒りすぎて魔の詠唱を始めやがった。ヒステリー貴族か……付き合っていられないな。

隨分とゆっくりとした詠唱だなーと思いつつ男の方を見るとニヒル笑みを浮かべていた。

こいつら……建での魔の使用は止って校則を知らないのだろうか。俺は呆れ返りながら、自分がヒステリーな二人を怒らせたのも責任があると考え、手を前に待って行った。

「【ディスペル】」

詠唱を省き魔名のみを発し、魔力を練り上げて魔を発させる。

した俺の魔が空間を波立たせながらバカ貴族の二人に波が直撃し、途端に二人が発しかけていた魔……練り上げていた魔力が四散してしまった。

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「は……?」

と、男の方が間抜けな聲を発して目を見開いて呆然としていた。それも無理はない……。

この世界の魔には所謂、魔の発本から阻止するディスペルマジックは存在しない。レジストはある……まあ、これは相反する元素で構築した屬の魔を使えばよかったり、固有魔なんかだと弱點を突くことでレジストが出來る。

何故ディスペルマジックが存在しないのかというと、この世界での魔とよばれる工程が理由なのだが……細かいことはどうでもいいだろう。

俺の【ディスペル】という新しい固有魔は、この魔という工程において者が魔の全制をしている脳の働きを妨害することで、者の魔を無効化するというものだ。

理論的には、風の元素でルーンを起こして、特殊なパルス波を発生させて対象の脳を揺らす。そうすると、練り上げていた魔力が四散して魔が使えなくなるわけだ。

平たく言えば、集中している相手の邪魔してやりたいことを出來ないようにする訳だ。

ポカーンとしている二人に対して俺は、「じゃあな」とだけ言って踵を返した。最高に決まった……クックック……いじめっ子にやり返したったでぇ〜。けけ、お話にもなりませんわ。

(閑話休題)

ちなみに【ディスペル】の語源は、ディスペルマジックから來ていることは今更言うまでもない。まる。

俺はやっとのことで學舎長室の前までやってくると、特に間を空けずに戸を叩いた。

『どうぞ』

そんな懐かしい聲が扉越しに聞こえたので、俺は意気揚々と扉を開けて中にった。

「失禮します」

後手に扉を閉めながら、久々の學舎長室と……學舎長のエドワード先生が目にってを覚えた。

相変わらず、エドワード先生は変わらない見た目でデスクの椅子に座ってる。その直ぐ側には鳩が出っ張り棒の上でずくろいをしていた。

エドワード先生はしだけ楽しそうな顔で俺を凝視していたのでそれが気になって、俺からエドワード先生に尋ねた。

「あまり驚かれないのですね」

「うむ……いや、なに。君の帰郷は、昨日ラエラ君から手紙で知ってね」

「手紙?」

と、俺が首を傾げると同時にエドワード先生の肩に鳩がパタパタ飛んできた。

なるほど……。

「それにしても、隨分と大きくなったね。大事はないかね?」

「はい。五満足です」

「それは結構……」

エドワード先生は一拍置いてから続けた。

「さてグレーシュ君。帰ってきてからで申し訳ないが……実はもう卒舎の試験の時期でね」

卒舎試験……それは平たく言えば卒業試験なわけだけど……確かに、俺は十六歳だから年齢的には卒舎の試験をしなくてはならない。

「で、君の同期は、君以外全員卒舎しているんだ」

「え……」

マジで?

俺は思わず顔を額に脂汗を浮かべた。俺だけ出遅れてるんですかーまじかー……あれ?でも、さっきバカ貴族の二人にあったんだけどなぁ。そのことについて訊いてみると……、

「あぁ……彼らは卒舎した後に、この學舎で就職することが決まったからね」

ジーザ◯!あいつらを教師にするって……この先の子供達の未來が心配です。

「そういうわけだから……昨日ラエラ君から連絡をしてもらってから大急ぎで君専用の卒舎の試験を用意したんだ」

「僕……専用ですか?」

「うむ。君は五年も學舎にいなかったんだ。普通の試験では……と思ってね。特別試験を用意した」

おや?そう言うエドワード先生のお顔がとても意地の悪いものに……嫌な予するんるん……。

俺は頬を引きつらせながら、意を決して訊いた。

「そ、その試験容とは……?」

俺の問いに、エドワード先生はタメを作って暫く沈黙した後に切り出した。

「その容とは……」

ゴクリ……。

「その前に、君に訊いておきたいんだけどね」

おい……俺は肩を落として、タイミングを逃したことに気が抜けてしまった。引っ張るだけ引っ張って置いてけぼりですかぁ……そうですかぁ……。

「で……えっと?何ですか?」

微妙な気分になりながらも俺から訊くと、エドワード先生は答えた。

「君……ギルダブ君のことは聞いているかい?」

「ギルダブ……先輩ですか?」

はて……?何の話だろうか。俺は首を傾げながら簡潔に答えた。

「いえ……こっちに來てから特に聞いていませんが。何かあったんですか?」

「うむ……」 

エドワード先生は笑みを浮かべ、続けた。

「実は、ギルダブ君は君が修行に出ている間に階級を上げていってね。現在では小師長だ」

「しょ……」

何という躍進だろうか……たった八年で人の上に立つような階級になるとは。

「彼は戦いでの功績を讃えられ、國王様から男爵位を與えられ……さらには所領もいただいたんだ」

「おほぉー……」

なんだかギルダブ先輩の後ろ姿が遠退いた気がして、俺は気の抜けた変な聲を発した。戦爭で功績を得たものが所領と爵位を與えられることはままあることだが……そもそも戦いで生き殘るだけでも難しいというのに、それで功績を得るのは至難だ。

敵將を討ち取るというのが、もっとも簡単な方法だが、それがまた難しいわけだ。

さすがは……ギルダブ先輩といったところだ。

それにしても男爵かー……となると……。

俺はあることを思い出して、喜び混じりにエドワード先生に言った。

「いよいよアリステリア様との結婚も間近ですね!」

俺が言うと、エドワード先生も笑顔で頷いた。

「そうだね。今までは公爵のアリステリア君と平民のギルダブ君で、いくら相思相とはいえども分がね……しかし、ここイガーラは実力主義の國だ。ギルダブ君が正當に力を付けていけば誰も、アリステリア君との婚約に異論はないだろうね」

そっかぁ……そうだよな。

ふと、俺は十年も前にこの學舎で開催された闘技大會でのことを思い出した。

俺とギルダブ先輩は初戦でぶつかり、結果は俺の慘敗だ。まあ、當時六歳児の俺が十六歳の……それも剣の達人クラスの怪相手に勝てるわけもなかった。

まあ、ギルダブ先輩はそうやって闘技大會を制して優勝賞品(?)であるアリステリアのを奪って婚約を宣言してたっけな。懐かしいぃ……。

「まあ……ギルダブ君はアリステリア君がここを卒舎すると同時に結婚したかったのだそうだよ」

「そうなんですか?」

「うむ。彼は落ち著いてみえるが、獨占が強いみたいだ。自分の刀は誰にもらせないってくらいだからね」

へぇ……ギルダブ先輩にもそんなところがあるんだな。し意外だ。

とはいえ、一ギルダブ先輩と俺の卒舎の試験にどういった関係があるというのだろうか。聞いている限りでは全く話が見えない。俺がエドワード先生が話すのを待っていると、エドワード先生は椅子から立ち上がって背後の大きな窓から外を覗きつつ、口を開いた。

「君はこのトーラの町の新しい領主のことを聞いたかな?」

「新しい……」

それで俺はエドワード先生が言わんとすることを汲み取って、先に言った。

「まさか……ギルダブ先輩が統治している所領ってトーラの町……ですか?」

俺の推論にエドワード先生は橫目で頷いた。

「その通り……正確にはトーラの町周辺を今ではセインバースト男爵領と呼ぶんだ」

「そうだったんですか」

そっかぁ……いい町だね!と言いたいところだが、いかんせんクソ野郎に二人ほど會ってしまっている手前、お世辭にもそうは言えない。治安維持にでも手こずっているのだろうか……まあ、あれがこの町の全てではないことくらいは分かる。どこでも、闇というのは必ず広がっているものさ。

しっかし、いよいよ卒舎の試験との繋がりが分からない。

「それでね。彼にも君の帰郷を知らせたところ、丁度視察の名目で王都からこちらに來ていたアリステリア君から君の試験に丁度いい提案をしてくれてね」

「アリステリア……様が?」

不味い……嫌な予が二倍マシだ。あの人、心で何考えてんのかよく分からないからなぁ……これ言ったらギルダブ先輩に殺されるかもだけど……アリステリア様って絶対に腹黒じゃね?そうじゃね?マジ。

「で、さっきの試験の容に戻るんだがね」

ゴクリ……俺は再度唾を飲み込んで続きを待ち、エドワード先生が口を開いたところで構えた。

「君の試験容はギルダブ君が直々に剣の指南をしているアリステリア君の護衛を務める六人の騎士『花に集う戦乙ワルキューレ』との六対一での闘いだ」

……………………?

「パードゥン?」

「?」

おい、なんでエドワード先生が頭上にハテナ浮かべて首傾げてんだよ。可くねぇんだよ。いい歳こいてふざけんなよマジで?

いや……落ち著け。

俺は自らのペースを保つために一度咳払いをし、口を開いた。

「えっと……々と突っ込みたいのですが、まずは『花に集う戦乙ワルキューレ』って何でしょうか」

「ん?あぁ……さっきも言った通り、ギルダブ君が指南するアリステリア君の護衛の騎士だね。アリステリア君はだから、護衛の騎士もの方がいいだろうと出來た組織だ。全員が……六人全員が剣練級エキスパートの集団さ」

「でも……アリステリア様の護衛は確か、アイク・バルトドスさんとソーマ・アークエイさんがついていませんでしたか?」

俺が訊くと、エドワード先生はそのことかと答えた。

「もともと軍兵に護衛の任務なんてあるわけがないんだ。あれは、アリステリア君が將軍の娘だったから……それで、今は護衛を付ける必要がなくなったから彼らは別の任をけているではないかな?そこまで詳しくは知らないがね」

「そうですか……」

俺は言って、もう一つ尋ねた。

「それで……どうして試験でそんな多対一を?さすがに僕にも厳しいものが……」

「なぁーに、簡単なことだよ」

今まで背を向けていたエドワード先生は、こちらを振り返ると不敵な笑みを浮かべて言った。

「君はこの五年で培ってきたものを見せてくれればいいんだ。別に勝つ必要はない……私もそこまで鬼じゃないからね」

「あ、いえ……そういうわけではなくて」

俺はし申し訳なさそうにしてから言った。

「その……六人相手だと力不足といいますか……多分、力を見せる間もなく終わってしまうかもしれません」

困ったように言った俺に対して、エドワード先生は不敵な笑みを浮かべていた顔を驚愕に染め直していた。それから、エドワード先生は口を開けた。 

「相手は練級エキスパートの剣士が六人だ ……それでも自分が本気を出すまでもないと?」

「まあ……はい。上から目線でアレですけど」

いやもう本當に……ちょっと上から目線で言っているみたいで気が引けるが事実だ。今の俺に練級エキスパートが六人……ヌルゲー過ぎる。俺がどれだけ長い間、霊峰の達人を相手にしてきたと思っているのだろうか。

暫くエドワード先生は俺の答えに固まっていたが、いきなり大聲で笑い出したかと思うと面白そうに俺を見てきた。

「よくぞ、そこまで大見得切った!いいでしょう……それなら『花に集う戦乙ワルキューレ』に加えて、私とギシリス君が君の相手をしよう」

俺は何気なく頷いた。

〈トーラ學舎・學舎長室〉

エドワード・ネバースは先に闘技場へ向かったグレーシュが去った後、一人窓の外を眺めた。

「隨分と強気だが……それほどの覇気はじなかった」

覇気とは、即ち強者が纏う気配。ギルダブはもちろんのこと、真の強者が纏うに相応しいもの……それが覇気だ。エドワードの見立てでは、なくともその覇気を微塵たりともじ取ることが出來なかった。

まあ、なんでも構わない……とエドワードは笑みを浮かべた。

どれだけ強くなったのかが楽しみだ。

エドワードは學舎に従事している侍を呼び出し、この學舎にいるであろうグレーシュのもう一人の恩師……ギシリス・エーデルバイカを呼びに行かせた。

さて……どうなることやら。

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