《一兵士では終わらない異世界ライフ》お出かけ

霊峰の山頂付近……俺がここまで登ってきたのは、今まで戦ってきた霊峰の猛者達からある噂を聞いたからだ。

聞けば、霊峰の頂近くにある氷室に『不』と呼ばれる弓の達人がいるという……その達人は異名に違わず氷室から一切出ることはなく、ただ毎日のように氷室から糸付きの矢を放っては、遠方から抜いたと思われるを引きずっていくという。

俺も幾度か霊峰の上の方から矢が放たれたのを見たことがある。大気を震わせるほどの矢だった……【ブースト】を使ってようやく視認出來た矢の速度は、およそマッハを超え、銃弾を軽々と超えるスピードだった。

そんな達人がいるというのだから、是非弟子りしようとわざわざ山頂にまで登ってきた俺は、氷室を探して山頂周辺を何回か周回した。

そして、やっとのことで見つけた氷室は雪に覆われて真っ白……り口も埋まっていたので、どうするかと考えあぐねていると……突然り口が発したかと思うと中から矢が放たれ、空の遠く彼方へ姿を消した。

間違いない……噂の『不』がここにいる。

そう確信した俺は、氷室の中を覗きつつ、大きな聲でんだ。

「頼もぉー」

霊峰にはルールがある……一つは霊峰での殺生は止。正確には人間同士の殺し合いの止だ。これは神聖な霊峰を汚さないために出來たルールである。

二つ目……霊峰での戦いは全て一対一の決闘形式で行われること。それさえ守られれば、決闘の前に罠を張ろうが構わない。

三つ目……強者は弟子をとり、弱者は師を得ること……このルールは霊峰の頂點に座る達人達の技を後世に伝えるために出來たルールだ。この霊峰の本當の頂點……ミスタッチ・ヴェスパによる取り決めだ。

まだ、俺は見たことはないが……ヴェスパ氏に會った猛者達は口を揃えて言う。

しい』

その一言……。

俺も會ってみたいが、ヴェスパ氏がいるのは霊峰の中・であり、霊峰の中へることが許されるのは達人認定された猛者だけだ。俺はこの霊峰で達人に一度たりとも勝利出來ていない……それほどまでに俺と達人との距離はある。

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まあ、ともかく……俺は三つ目のルールに則って、弟子り時の決まり言葉を言った。

氷室の中には沢山の氷が綺麗に切り出された狀態で置かれ、広さは二十畳ほどで広々とした空間だ。その中心から奧……俺の正中線上に件の達人である『不』ジルアーガス・デオルドヴィッチ氏が氷の椅子に座っていた。

そして……俺は『不』を見て思わず固まった。

なん……だと……?

こういう場合……やはり屈強な男か、もしくはヴェスパ氏のようにみんなからしいと言われるようなというのが相場と決まっている。しかし……これはどういうことだろうか……。

俺の目の前に鎮座している男はどっぷりと丸々膨れた腹を抱え、頬は贅で垂れ、額にはこの寒さにも関わらず脂ギッシュな汗をびっしりと浮かべていた。

おう……俺の夢が瓦解した瞬間である。

ぶっちゃけよう……おかしいだろ!どう見てもモブか、あっても敵のウザキャラじゃねぇか。

と、俺が心でびを上げているとデオルドヴィッチ氏が眉を顰めて言った。

「おめぇ……今、俺のこと見て『うっわ!デブがいる!』って思っただろ?」

見た目に反して野太い聲……重圧をじさせる圧倒的気配、まさしく達人のもつ獨特な威圧だ。間違いなく目の前にいるのは、『不』ジルアーガス・デオルドヴィッチ氏だ。

俺は頬に一雫の汗を垂らしながら、『不』と対面した。

ジルアーガス・デオルドヴィッチ氏はふんっと鼻を鳴らすと再び口を開いた。

「まあどうでもいいけどよ。それより、おめぇ俺の弟子になる気か?ミスタッチのクソアマの膝下で暮らしているとしちゃあ、あいつの作ったルールに逆らうつもりはねぇ……」

デオルドヴィッチ氏の言うとおり、彼ら達人はこの霊峰に住まわせて・・・・・もらっている……それは俺たちも同じであり、この霊峰はミスタッチ・ヴェスパ氏の縄張り……他の達人がヴェスパ氏に逆らわず、そのルールに従っているのはヴェスパ氏が強いからというだけではなく、みんながヴェスパ氏に恩義をじているからだ。

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達人の中には俗世から追われているもいる……そういうの上の者にとっては、俗世から切り離された霊峰『フージ』は最後の逃げ道なのだ。

だからこそ、弟子なんてとりたくなくともヴェスパ氏に逆らえない達人は弟子りを拒むことは出來ない……だが、とデオルドヴィッチ氏は付け加えるように言った。

「仕方ねぇから弟子にはしてやるが、俺は何か教えるつもりはねぇ。これはミスタッチのルールを破るわけじゃねぇぞ?俺は人に教えるのが苦手なんだ」

「それでも構いません……盜んでみせます。あなたの弓を」

俺はそう言って、デオルドヴィッチ氏に己の弓を掲げた。

これが俺……グレーシュ・エフォンスと、弓の師である『不』ジルアーガス・デオルドヴィッチ師匠との出會いだった。

「ん……?」

俺はパチクリと目覚め、辺りを見回す。目に映るのは見慣れた我が家の寢室……あぁ、夢か。隨分と懐かしい……昔の記憶……。

と、し懐かしむように目を瞑った時に鼻腔をよく知った匂いが擽り、俺は顔を顰めた。

あれ?なんか……らかい何かで抱き締められて……視線を自分のの方に落とすとソニア姉がまたしても俺に抱き付いて寢ていた。

おー?

どうにもソニア姉の寢相が悪い……これはこれは抱き枕的に役得ではあるが、思春期の脳お花畑男子に、二十歳を超えた大人のが抱き付いているという構図は々ダメだと思う。しかも、近親だし。アウトです……僕的に。

俺はソニア姉を起こさないように布団から出ようとするが、その瞬間ぎゅーっとソニア姉の力が強くなって、出られなくなった。

「ちょっ……」

思わず聲が出てしまったが、ソニア姉が腕に力を込めるほどにらかい能的に脳を刺激してしまう。

アウトオォォォ!!!

「んー……ウサギ……ネコ……イヌぅ……」

ソニア姉は俺のに顔を埋めながら、なぜかの名前を出し始めた。どれも玩系の種類だったのだが途中から……、

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「クマ……トラ……」

ちょっと危ない方向に走り始めた。なんの夢を見ているのか私は心配です……。ソニア姉の夢の中なら、どんな怖いでも可らしいじになってそうだな……ソニア姉はファンシーなが好きだから。

それを裏付ける証拠として、「可いもの……いっぱい……しあわせぇ……」という寢言を零した。

あぁ……僕の中にいけないものが目覚めそう……暫くして、目を覚ましたソニア姉は俺のの中で目をり、見上げると直ぐに見えるであろう俺の顔を見てしだけ頬を朱に染めるとボソッと言った。

「お……おはよ」

「うん。おはよう」

ソニア姉はパッと俺から離れると、スタスタと寢室から出て行ってしまった。

恥ずかしいのなら、その寢相を直すべきではないだろうか……。

俺もお布団から這い出て、寢室からリビングの方へと移して、先に起きていたラエラ母さんと挨拶をわした。

「おはよう。母さん」

「んー?おはよう。グレイ」

明るい笑顔を見せて言ったラエラ母さんは、直ぐに臺所へ視線を戻した。今日の朝食は何かな?と後ろから覗き見ると……スライスしたパンに山菜と薄切りのおをサンドし、ラエラ母さん印の特製ピリ辛ソースをかけたサンドイッチだった。俺の好……。

「んふふ〜今日はグレイのためにグレイの好きなものを作ってあげようと思ってね。折角帰ってきたんだもの。今日は私とソニーはお仕事お休みだし……お出掛けしない?」

勿論、斷る理由はない。俺は二つ返事で頷いた。

もうし朝食の準備にはかかるだろうし、俺は顔を洗うために外に出て、水を貯めている樽のところまで來た。

あれ……?ソニア姉も顔を洗いに來ていると思ったんだが……いないなぁ。

俺は索敵スキル……俺の持つ気配察知能力を展開し、周囲一帯の気配を知……そして、ここからおよそ五百メートルほど離れた森の中にソニア姉の気配をじた。その直ぐ近くには、弱り切った小のような気配もじる。

「…………ふむ」

よく分からないが……取り敢えず行ってみる他ないだろうな。

俺はテレテレと歩いて、朝には濡れる落ち葉を掻き分けて森を進み、やがて視界にソニア姉が映ったので聲を掛けた。

「お姉ちゃーん?」

呼んでみるが反応がない……まるでただののようだ……いや、それは灑落にならん!何かあったのかと焦り気味に近寄ると、仄かながソニア姉の手のひらから出ていることに気がつき、そこで初めてソニア姉の足元に小さな生きが橫たわっていることに気が付いた。

「……魔?」

俺が尋ねると、ソニア姉はゆっくりと頷いた。魔が何らかの理由から大気中の魔力によって汚染され、突然変異した生命……人間に害悪を及ぼすことが殆どで、それの討伐組織として冒険者ギルドというのが存在するまである。

その魔を……弱り切っている魔にソニア姉は治療魔を施していたのだ。

俺が普通の弟なら……普通の人間なら止めたかもしれない……このイガーラ王國が國教とする神聖教では魔排撃という教えがある。まあ、それは一部の教典に記されているだけで、全ての神聖教徒がそういった考えを持っているわけではない……しかし、過激な信徒は魔を排撃しようという者が多い。

そういった考えをもつ者が、ソニア姉のしていることを見たら咎めようとするだろう。それが暗黙の了解というものだ。

だが……俺は普通じゃない。俺は昔……グリフォンのグリアと出會い、そいつとの約束で魔を殺さない誓いをした。それに……魔殺した負い目もある……俺はソニア姉が魔を助けようとするのを黙って見ていることにした。

暫くすると、ソニア姉のの中で小さな魔が元気な鳴き聲を上げた。

ソニア姉は魔を抱きつつ、俺に振り返り満面の笑みを向けた。ついつい俺も笑みを浮かべながら、ソニア姉に抱かれている魔に目を向けた。

黒いは短く、並みはやや荒れている。見た目は貓のように見えることから、貓が魔化したバイオキャットだろう。

「【イビル】」

俺は手を超合金で覆い、ソニア姉に抱かれたバイオキャットにれようとすると……貓の顔がパックリと裂けて、中からはグニョグニョと手やら牙やらが出てきて俺の手に噛み付いた。

おい……これはもはや単なる貓の戯れとかじゃねぇぞ……。

【イビル】で守られている俺の手に食らいつく貓(?)は正しく魔……手を食われながらソニア姉に視線を戻すと、天を仰いでブツブツと何か言っていた。

「あぁ……この子飼えないかなぁ……こんなに可いならお母さんも許してくれないかなぁ……」

いやいやいやいやぁ……これ貓じゃなくて魔だから。飼う飼わないじゃないから!

ソニア姉がふと視線を落として貓を見ると、バイオキャットは目にも止まらないスピードで裂けた顔を元に戻して、「にゃー」などとソニア姉に可らしく甘え出した。

この野郎……。

再びソニア姉が天を仰いで、「あぁ……カワユス」なんて言っている間にバイオキャットは俺の手に再度食らい付いた。

「はぁ……」

まあ、俺の超合金の手を必死に食らいつくそうとしている姿はらしいような……あれ?カワユスくない?…………なんか、そう言われると可いかもしれない……。

俺は咳払いしてから、天を仰ぐソニア姉に言った。

「い、家に戻ってお母さんに頼んでみようか?」

俺がそう言うとソニア姉はぱあっと目を輝かせて嬉しそうに笑って言った。ちなみに、その時にはバイオキャットは……まあ、言わなくても分かるだろう。

「ホントに!?じゃあ、早く帰ろ!グレイ早く!!ハリーだよ!」

「どこでも覚えたの……」

俺は々ダメな気がしなくもなかったが……ソニア姉が楽しそうならいいかなと思って、走り行くソニア姉の後を追って走り出した。

「あはは〜早く早く〜」

「待て待て〜」

なんちゃってね。

にしても……本當に楽しそうだな……ソニア姉。

俺とソニア姉は暫く走って、家に著くと直ぐに朝食を作り終えていたラエラ母さんに言った。

「お母さん!この貓飼っちゃダメかな!?」

「ん?いいんじゃないかな?」

「はやっ」

朝食のサンドイッチを食べ終えた俺たちは、改めて貓……バイオキャットに目を向けた。

テーブルの上で繕いをしているバイオキャットの姿は貓そのもの……だが、魔だ。

ラエラ母さんはお茶を啜りつつ、「うーん」と考え込むように目を伏せた。その姿をソニア姉は向かいの椅子に座って、固唾を飲んで答えを待っていた。

ソニア姉の必死な姿に、俺も思わず心臓の鼓を早める。

これ……許可しなかったらソニア姉……非行に走ったりしないよね?大丈夫だよね?ね?そんな心配で俺の心臓が破裂しそう……。

ねぇか……。

やがて、ラエラ母さんのお茶が底を盡きたころ……ついに答えを出した。ソニア姉はその一言一句逃さないと耳を傾けた。

「……いいよ〜」

「いいんだ……」

反応したのは俺だ。だってさぁ!これ貓じゃなくて魔だよ!?飼うもんじゃないでしょこれ……。

ソニア姉はそんなことどうでもいいのか、「やったー!!!」と大喜びしてバイオキャットを抱き上げ、ギュ〜っと抱きしめた。

バイオキャットはそれに応えるように甘え、視線だけ俺に向けて、「ふっ……勝ったぜ」見たいな目をしていた。

ほほ〜う?この俺に喧嘩を売っているようですねぇ……覚悟はいいかい?

ラエラ母さんやソニア姉の見えないところで、俺と貓(?)の戦いを始まろうとしていた時、ソニア姉は言った。

「この子の名前考えなきゃ!」

「あ、そうだね。ソニーが決めたら?」

「うん!」

ソニア姉は、「名前……」と逡巡し出し、チラッと俺に目を向けると訊いた。

「何かいい名前ないかな?」

名前か……ソニア姉に抱き上げられたバイオキャットを暫く見つめ……俺はこう言った。

「クロ」

「黒いから?」

「うん」

ソニア姉は安直じゃない?と言っているが、こういうのは無難な方がいい。ソニア姉は暫く唸った後に、何か閃いたのか唐突にんだ。

「じゃあこの子の名前はユーリ!決めた!決定!」

それ、同じ意味だから……黒い貓(?)ユーリは気にったのか甘えるような鳴き聲をあげてソニア姉にり寄った。

「いい名前じゃない。ユーリ〜」

ラエラ母さんはそう言いながら、ソニア姉に抱き抱えられたユーリの顎を優しくでてやる。すると、ユーリは気持ちよさそうに目を細めてまた鳴くのだ。

仕草は一丁前の貓である。魔だが……。

ラエラ母さんは幸せそうな笑みを浮かべ、ふと俺に手招きした。グレイもでなよ!と言っているようだ。

俺は半眼で貓(?)を見つめながら、ゆっくり手をばすと……、

「シャー!」

「おっと」

バイオキャットは爪を鋭くばして俺の手を引っ掻こうと、自分を抱くソニア姉の腕からを乗り出してきた。だが、ソニア姉ががっちり抱き締めているため、俺が手を引っ込めてしまうと引っ掻くことは出來ない。ただ、ユーリがソニア姉のの中でらしく暴れているようにしか見えない構図は、何とも微笑ましい。

もはや貓(?)だ。

そろそろハテナも取れるかもしれないね!やったね!ユーリちゃん!

ん?…………こいつってオス?メス?

と、俺は本來なら名前を付けるに當たり重要な報となるであろう別について議論されていないことに疑問符を頭上に浮かべるが……まあ、どっちでもいいかと肩を竦めた。

「よぉーし!ユーリ!今日から君もあたし達の家族だよ!まずはあたしを名前で呼んでみよう!ソ、ニ、ア、だよ」

「いやぁ……さすがに無理じゃないかな?」

俺はユーリを掲げるソニア姉に呆れ気味に言ったが、ソニア姉は諦めないらしい……なんというか會っていない間に強になった気がするなぁ……楽しそうだからいいけども……。

ユーリは険しい表をしながら口をモゴモゴさせて……、

「ソニャア〜」

などと言った。これには俺も含めて、二人も驚いた。

「惜しい!」

そっちかよ……ソニア姉は、「後ちょっとだよ!」と貓を勵ましていた。途中からラエラ母さんも加わって、名前を呼ばせようとしていた。

アホみたいな景だろうけど……ユーリを中心に今までの埋め合わせのように楽しい時間だと俺は思った。

そこだけは貓に謝してやらんこともない……かな?

ふと、ユーリに目を向けると俺を嘲笑うかのように見ていた。まるで、「ソニアは俺がもろたで〜」と言っているようだ。

ぶっ殺すぞ……クソ貓!

「ふ〜んふんふふふ〜ん」

ソニア姉は頭の上にユーリを乗っけて、ラエラ母さんと俺の前を鼻歌じりに歩いていた。その鼻歌に合わせてユーリも、「にゃー」と鳴いている。

俺は隣を歩くラエラ母さんに心配気味に、ソニア姉に聞こえないように話しかけた。

「大丈夫かなぁ……ユーリのことが魔ってバレたらまずいんじゃ?」

俺が言うと、ラエラ母さんは目の前を歩く幸せそうなソニア姉を笑顔で見つめながら、俺と同じように小さな聲で言った。

「大丈夫……見た目は貓だもん。心配しすぎず……自然にしていた方がかえって怪しまれないよ」

「うん……そうだね」

ラエラ母さんは考えていないようで、結構々と考えていることは一緒に過ごしてきた長い時間の中で分かっていることだ。ユーリを飼う許可を出したのも何か考えがあるのだろう。

俺は黙って頷き、再び前を歩くソニア姉に目を向けた。

俺たちが歩いているのは、トーラの町の中心街へ続く大通り……そこは店やお店で賑わっている。相変わらずだなぁ……と思いながらキョロキョロ店を眺めたり、時折店の中を覗き込んだりと……一昨日に見て回っていた時は軽く見回っていただけだったために、どんなお店があるのかとしワクワクしていた。

ユーリも初めてみる人間の町に、ソニア姉の頭の上で首を忙しなく回している。こうしてみると人畜無害にしかみえない……にしても大人しい。普通の魔なら、道行く人々を見て襲いかかってもおかしくはない。

ユーリはラエラ母さんもソニア姉も襲わない……変な魔だ。俺だけには牙を剝くんですけどねぇ……。

暫くの間、テレテレブラブラ歩いていき、ソニア姉がアクセサリーショップにっていったので、俺とラエラ母さんも後ろに付いて店にった。

店の中はこじんまりとしているものの、富なアクセサリーの數に、ソニア姉は目を輝かせた。

「どれがユーリに似合うかなぁ」

どうやらユーリにアクセサリーを買ってやるつもりらしい。ラエラ母さんは、「そうだねー」と逡巡しつつ、手頃で可いらしい首を選ぶがソニア姉は唸って、首を橫に振った。お気に召さなかったらしい。

「じゃあ……こっち?それともこっち?」

「あ!いいねぇ!どっちも!」

大の大人がキャッキャとはしゃいでいる……止めてくれ……周りの人が見てるから。特に、この二人は容姿的にかなり目立つ。自然と人の目が彼達に向けられるのも無理はないだろう。男なら顔を赤く染めて魅り、でさえも思わず見惚れる……そんな二人と一緒に居る俺は、周りから見たらもはや視界にっていないのではないだろうか。

まあ、別にいいんだけど……。

俺は周りの視線から逃げ出したくなりながらも、キャッキャとはしゃぐ二人に寄ると……そこにしガラの悪い男が二人と、その後ろに頭の悪そうなが一人……ソニア姉とラエラ母さん近付いていた。

「やーやーお二人さん?なんだか楽しそうじゃねぇかよ……よかったらもっと楽しいことしねぇかい?ええ?」

脅すような言いは、とても楽しいいをしているようには見えない。それは男の下卑た顔を見れば明らかだ。

楽しい時間を邪魔されたソニア姉は強気な姿勢でキッと二人の男を互に睨みつけつつ、ラエラ母さんを背後に回して守った。ラエラ母さんは不服そうだが、こんな時に言い爭っている場合でもないだろうと大人しくソニア姉の後ろで小さくなっていた。

「まあまあ……そんなに怖い顔をしなさんなってぇ」

男はソニア姉にれようと手をばし……パシンッとソニア姉はその手を弾いた。

「悪いけど……あたし達は今楽しくお買いをしているところなの。邪魔しないでくれる?」

威圧の篭ったソニア姉の凄むような聲に、ソニア姉よりも格の大きな二人の男が思わずたじろぐが、それでも構わず……むしろ逆上してソニア姉に無理矢理れようと再び手をばした。

俺はその瞬間にソニア姉の前に割ってり、男の手を取って捻り上げた。

「あっででででで!!」

俺は男の手首を返して関節を決めているため、男はその痛みから苦悶の表で悲鳴を上げた。

「悪いけど……そこまでだ。これ以上はそこの僕の姉が何をするか分からないからね」

俺が言うと、背後でソニア姉が非難の聲を上げた。

「な、何ってなに!?」

「いやぁ……だって」

學舎で護を會得しているソニア姉なら、ただガラが悪そうな男達にとって食われるようなことがある筈がないのである。こうして俺が男を止めていなかったら、イライラの積もったソニア姉が男を滅多打ちにしかねない。まあ……それだけ強いと逆に安心もできるけどさ……弟としてはやっぱり心配だ。

「いでででで!參った!參ったから!離してくれぇ!」

「おっと」

俺は拘束を解いて男を離す。男は涙目なりつつ、俺から離れると悔しそうに睨んできた。結構度があるというか……肝が據わったナンパ男だ。

「まあ、ナンパしたい気持ちは分かるんですが……無理矢理は止めた方がいいと思います」

俺がそう言うと、男はし落ち著いたのか申し訳なさそうに頭を下げた。

「わ、悪かった……確かに無理矢理だった。最近……ナンパが上手くいかねぇから焦ってたんだ。許しちゃくれねぇか……?」

俺は後ろのソニア姉の方に振り返り、目線で許してあげてと訴える。

ナンパ男はアニメや漫畫じゃあ、いつも悪役のモブとして登場しては酷い目にあっている。その度に主人公達が格好つけているが……それは正義なのか?

だって、そうだろう?

主人公はナンパするまでもなく、にモテるからいいじゃないか!でもな!こいつらはガラが悪いから!ナンパするしか方法がないんだよ!!!

前世の俺に関してはゴミッカスみたいな容姿だったからナンパすら出來ない始末……もう死んじゃおっかなぁ〜とか軽く考えた時期もあったさ!

だからこそ……俺はこいつらを責めたりはしない……だからソニア姉!許しあげて!

もちろん、ソニア姉に俺の心のび聲は屆かないのだが……ソニア姉は暫くの逡巡の後に、「まあうん」と頷いてくれた。

「本當に悪かったな……」

男は再度謝ってきたので、俺は手振りで気にしないでくださいと答え、それから口を開いた。

「うちの姉と母は人ですからね。ナンパしたくなるのは分かりますね」

だったのか。てっきり、二人ともお前のかと……」

「違いますよ……」

何となく男に親近を抱き、フレンドリーに接していたからか男の表し緩んできた。

「そうか。お前は顔立ちはいいから、モテると思ったんだ。それで腹が立ってナンパしたってのはある」

「顔立ちはって、余計ですよ。僕は格もいいですからね!」

「本當に格のいいやつはそんなこと言うかよ!バーカ」

何て……ちょっとナンパ男と仲良くなった。

それから二人のナンパ男と結局なんであの場にいたのか分からないに手を振って別れた。

殘された俺はふと、後ろを振り返り……なんだか呆れた顔をしていたソニア姉とラエラ母さんを見て首を傾げた。

「ん?どうしたの?二人とも」

「いやー……グレイってちょっとズレてるなぁって」

「そうだねー……ナンパと仲良くなるなんてね。まあ、グレイらしいからいっか」

ラエラ母さんがそう言って隣のソニア姉に微笑みかけると、ソニア姉も、「そうだね」と頷いて笑った。それに同意するようにして、ソニア姉の頭の上のユーリが鳴いたので、俺は釈然しないままアクセサリーショップを後にした。

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