《一兵士では終わらない異世界ライフ》余夜の晩酌
☆☆☆
俺を除いた三人が宿を探しに繰り出した後……俺だけセルルカに呼び止められたために人がチラホラとなくなってきた酒場で晩酌をわしていた。
「一何の用なんだ?」
「いや……特別なことはないぞ。ただ、貴様は妾の真の目的が別にあると察している素振りを見せていたから……貴様には妾の真の目的を話してもよいと思っただけぞ」
「…………」
ふむ、と俺は木製ジョッキに注がれた葡萄酒を一口飲んでから切り返す。
「まあ……それは別に構わないけどな。まず、その喋り方やめろよ。それが素じゃないのはさっきのでバレバレだぞ」
「…………」
今度はセルルカが酒を飲み、それから被っていたフードを外した。スルリと水の冷たい雰囲気を持つ長い髪がバサリと広がり、頭の上に生える三角耳がぴこぴことしているのが丸見えとなった。
「なら、この妾……いや、この狀態の私で話をすることにしよう」
それがセルルカの本當の姿なのかと……一瞬思ったが違う。セルルカ・アイスベートに本質とか、本當とか……そんなものはない。
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セルルカ・アイスベートは形を変える氷のようにその姿を変えて行く。周りの景、気候に合わせて水にもなるし、氷山にもなる。それがセルルカ・アイスベートであり、それはどこか俺にも似ている。
「酒はいい……が溫まる。それに食も進む。よい食には、よい酒を……」
「セルルカにとっては、武道にも似たようなじか?」
「……となると、さしずめ食道となるのだろう。そういうと、なからずアタマが悪そうに聞こえてしまうな」
「そうか?割といいと思うけどな……食道」
俺が酒を飲みながら言うとセルルカは一瞬だけ微笑み、ニヤリと笑って俺に詰め寄る。
「ふっふっふっ……ニャら、貴様も食道を歩んでみるか?」
「いや、他にもやらなきゃいけないことあるし……遠慮しとく」
「なんだ全くつまらニャい……ひっく」
「…………」
こ、こいつっ……。
そう俺が思ったところでセルルカの氷の刃のような冷徹な表が破顔……ニヤニヤとする顔は、冷酷な彼のイメージからかけ離れたものだった。
あ、この覚知ってる。これ……セリーとかクロロみたいなじだ。凄く……こう、カッコ良かったり頼りになったりするんだが、ある一部分でとても臺無しになるじ。
おっちょこちょいのクロロ、方向音癡のセリーに続いて、酒が弱いセルルカと來た。というか……酒のせいか言葉のところどころで貓ってる。いや、貓ってるってなんだよ知らねぇよ。
「ニャハハハッ。さあ、飲め飲め。今宵はルルの奢りニャ〜」
「えぇ……キャラ変わりすぎなんですけどぉ……」
というか一人稱ルルって……見た目に反して可い稱だな。クールビューティーなセルルカ・アイスベート……氷のように無限の形を持つ彼だが、今はどこか一人の人間として見ることができた。伝説ではなく……ただのセルルカ・アイスベートである。
ふと、俺は何となくだが試しにルルちゃんとでも呼んでみようと口を開いた。
「じゃあ、ルルちゃんの奢りだそうだし……もうし飲むか」
「ニャハハハ!……ひっく」
と、特に気にした様子はなかったのでこのままでいいかと俺は今後セルルカをルルちゃんと呼んでやることにした。
セルルカが、記憶が殘るタイプなのかそうじゃないのか知らないが……明日が若干楽しみだなぁと考えた辺りで、ふと……このままセルルカが酔潰れるとまずいことに気が付いた。
セルルカがここに來ているということはどこかに宿をとっているということになる。このまま潰れると、こいつがどこに泊まっているか分からないので送ってやることもできない。潰れる前に訊いておこうと……セルルカに目をやったら時すでに遅しだった。
「…………ニャ」
既に酔潰れ、気持ち良さげに眠っていた。
「…………ふぅ」
俺は肩を竦めて呆れながら、頭をポリポリ掻いて仕方なく俺たちの泊まる宿へ連れて行くことにした。
俺は勘定を結局全て払い、ベルリガウスの気配を探してどこの宿かを突き止めてから酒場を出て、夜の街並みを一人背負って歩き出す。
背中からゆっくりとした寢息に加え、ひんやりとした覚をじた。こういう時は暖かいというかなんというか……そういうもんだろうと思うのだが、そこらはさすがに氷をる魔師だと思う。
とはいえ、背中にじる二つのらかなはなるほど変わらない。今宵はこれを堪能することで……まあ良しとしよう。
ニヤニヤ……とてもらかいですねぇ。
なんてちょっとエロ親父みたいなことを考えていた折、常闇に溶け込むようにしてちょっと柄の悪そうな連中がゾロゾロと出てきた。
「おいおい兄ちゃん?いい背中に抱えてるじゃないのー……そこのと金を置いてとっとと失せな。へっへっへ」
と、久々に絡まれた。
あ……あーこのじ凄く久しぶりだ。こういうじに下に見られる覚……すごく安心してしまうのは、やはり俺が小心者だからだろう。最近は、何かと強者と戦っていたせいで久しくこういうことはなかった。
俺は何となく気分が良くなり、笑顔で彼らに言った。
「これからも頑張ってください!」
そう言って、その場から立ち去ろうとすると案の定怒られて襲われた。袋叩きのように周囲を囲んで一斉に飛びかかってきた彼らに対し、俺はを低くしてその場を離。一瞬でいなくなった俺を見失い、暫くキョロキョロしていた悪漢達は俺を見つけると何やら怒鳴り、こちらに向かって走ってくる。
剣やらナイフやら……まあ、々持っているもので俺を殺してやろうと武を振るう。
俺はセルルカを背負ったまま、全て避け続け……それを暫く続けていると相手の方が息を荒くさせて既にへばっていた。俺はそんな彼に一つアドバイスのつもりで……俺の一番近くにいた悪漢の顎に向けて足先を振り上げる。
ズドンッ……という重たい音から大気がギシギシと音を立てる。そうして、悪漢の首がからスポーンと引っこ抜けて鮮が噴水のように飛び出る。
幸い、俺やセルルカにそれが降り注ぐことはなかったが……仲間のありえない姿を見て、悪漢達は呆然としている。もはや俺の言葉も聞こえないかもしれないが……まあ一言。
「襲う相手を選ぶ目を……養った方がいいですよ。僕の見た目があんまり強そうじゃないのは……自分でもよくわかってますけど……次からは気をつけた方がいいでしょう。では……」
俺は首を蹴り飛ばした死を灰に変えて明日騒ぎにならないようし、ようやか宿へと向かった。
☆☆☆
翌日……ムニャムニャ眠る俺の泊まる部屋へルルちゃんがバンッと扉を蹴り飛ばし、そして俺の腹部にダイナミック膝落としをしてきたのは……余談である。
「消せ!今すぐ、貴様の中にある記憶が消すがよいぞ!?」
「し、死ぬ……」
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