《一兵士では終わらない異世界ライフ》流離いの風來坊

☆☆☆

宿屋にて朝食を食べるために一階へ全員集合していた。

俺とルルちゃ――ゲフンゲフン……セルルカが降りた頃には既にベルリガウス達がムシャムシャとパンやら魚やらを齧っていた。

おっと、ルルちゃ――ゲフンゲフン……セルルカが魚を見て羨ましそうな目をしている。後で俺の奢りでお魚を注文しておこう。

「おはよう」

俺が聲を掛けるとベルリガウス、ベールちゃん、ディーナが俺に目を向けて同じような挨拶を返してくれた。

「おうよぉ」

「うむ。おはよう!」

「おはようございます!お先に失禮していますわ」

目を伏せながら言うディーナに、俺はいいよいいとよと手振りで伝えておく。ベルリガウス辺りが、周りに合わせるなんてできるわけないんだし……飯なんて自分が食べたい時に食べるのが良いと思う。

俺とルル……もうルルちゃんでいいや――も席に著いてパンやら魚を食べる。そういえば、ディーナって魚人族だから共食いじゃね?とか思ったが、この國は漁業が盛んだ。食べられてないわけがない。同族だとか、そういう意識は特にないのだろう。

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まあ、見た目人族に近いっちゃ近いもんな……。

俺は一人で妙に納得しながら朝飯を食らっていく。各々の食事風景を見てみると、ベルリガウスは意外にもテーブルマナーを守って食べていた。ディーナちゃんは勿論、王族という立場であったからか上品だ。

ベールちゃんは豪快な食べ方で、そこらにパン屑が散している。セルルカは言わずもがな、その場の雰囲気とかに合わせた食べ方――ベルリガウスと似たような普通の食べ方をしていた。

「ベール?口の周りが汚れてますわ……。綺麗にしますから、ジッとしてくださいまし」

「む?おぉ!ご苦労!」

ディーナはベールちゃんの口元をハンカチで拭き拭きする。その景は姉と妹だ。とても微笑ましい。

ベルリガウスはベールのテーブルマナーに関して、どこか思うところでもあるようで……ベールが再びパンに齧り付こうとした辺りでそれを手で制した。

「待て、ベール。パンは千切って食うのがマナーだが……まあ、俺様はそんな細けぇことは言わねぇ。だが、パン屑は落とさないように気ぃ付けるんだぞぉ?」

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「……?うん!」

ベールは元気よく頷き、さっきよりも気を遣いながらパンに齧り付いた。ベルリガウスと話す時、ペールちゃんの対応は素面になる。いつもの廚二病ではなく、素面のベールちゃんだ。それがとても可く、俺はニヘラーとペンタギュラス親子(違うけど)を見つめる。

「……?どうかなさいましたか?気持ちの悪い顔をしてらっしゃいますが……」

「酷い……」

まさか溫厚なディーナにそんなこと言われるとは思わなかった俺は、ショックを隠し切れずに消沈する。ホンワカした気分は一転、そんなに気持ち悪い顔をしていたのかと心が凍て付く。

俺の心中を察したディーナが、慌てて俺のフォローにる。

「ち、違いますのよ!?ただ、今のニヤニヤした顔は気持ち悪いと思いましたので」

フォローになってなかった。

「ディーナは正直ものだから……な!主よ、そういう顔は愼むがよい!」

ベールちゃんにまで言われたら、死んじゃおっかなぁとか考えてしまう。が、さすがにそれはダメだろと頭を振って気を取り直す。

それから俺たち別行となる。元々、セルルカを探すためにエーテルバレーへやってきているのだ。目的自は達していると言っても過言ではない。

セルルカは完全に離し、どこかへ行った。ベルリガウスとベールちゃんは二人でエーテルバレーの観をするようだ。これを先に言い出したのがベールちゃんだったために、俺もディーナも面食らってしまった。

ベールちゃんはてっきり、ベルリガウスが苦手だと思っていたからだ。

で、殘ったオレとディーナは手持ち無沙汰のようになり……折角だからとディーナにエーテルバレーを案してもらうことにした。

「エーテルバレーのお魚は味しいんですのよ」

うん。知ってる。食べたし。味しいよね。「ニャ」って言ってしまうくらい、味しいよね。

「中でも一番は、大海帝闘技祭にも出されるキルミンナというお魚が味ですわ。肝が一番味でして、もぷりっとしていて、それでいて舌にれた瞬間溶けて旨味分が口いっぱいに広がりますわ」

ゴクリ……な、なんかそう言われると凄く食べたくなってきたぞ……?

そういう話をしていたからか、俺のお腹がグゥーと音を鳴らす。ディーナはクスリと笑うと、では食事にしましょうと言って、ディーナお勧めの店を紹介してくれた。

ディーナのお勧めのお店へ向かう途中……テレテレと賑わう通りを歩いていた俺たちは、不意に鼻孔を擽る香ばしい香りに足を止められた。

「あら……いい匂い……」

「うん……あそこかな?」

俺は匂いの元を辿り、場所を特定する。

通りの隅の方……お店とお店の間にある路地に小ぢんまりとした小さなお店が開かれていた。俺たちと同じように、匂いに釣られた何人かの客が串に刺されたを握って去っていく。

俺とディーナはゴクリと唾を飲み込み、顔を見合わせてその店へと向かう。

「ど、どうも……」

「ん?おぉ〜いらっしゃい!注文かい?」

お店の主は、驚きたことに見た目が年若い姿をした魅的なだった。烈火の如く燃える紅蓮の髪で、それを後ろで一つに束ねてアップにしている。前髪は片方だけ長く、顔の半分が見え隠れしていた。

その瞳もまた赤。しかし、紅というには鮮やかさが無い。表現は悪いが、何となくドス黒いのような瞳をしていた。

屋臺用の服とエプロンを著たそのは、とても快活的で自然と俺の心が軽くなると同時に、警戒する。

その佇まい、立ち居振る舞い、聲や視線、息遣いから何までが卓越した武人のものだ。ただ者ではないことが、一目で分かった。

達人マスター級……いや、なんだろう。それ以上?クルナトシュとか、伝説とか……何となくそのレベルまでにいる人だと判斷できた。

俺も魔王や伝説、最強の全員の名前は知っていても顔までは知らないのだ。そのの誰かだろうかと思った。が……俺の直が何となくそうじゃないと訴えかけていた。

は、そういう次元の存在じゃないと……そう言っている気がした。霊峰に住まう現代を生きる神話――ミスタッチ・ヴェスパを知っている俺だからこそ分かる。多分だが、恐らくだが、確証はないが、きっと……そうきっと、ミスタッチ氏よりも強い・・。

「……?どうかされました?」

「…………い、いや」

ディーナに不審がられ、俺はハッと我に返る。赤髪の店主も不思議そうに首を傾げていたので、俺は先に注文するべきだと思い立ち、いくつかの串焼きを頼んだ。

「はいよ!じゃあ、これでいいね」

そう言って、店主は俺に串焼きを二本渡してきた。俺は一先ず二本ともディーナに預けて、ディーナに一言斷りをれてから、店主へ改めて向き直る。

「お仕事中失禮とは思いますが……ほんのしだけ、お時間いただけませんか?」

「んー?まあ、いいよ。どうせ個人経営のしがない串焼き屋臺だからね〜。じゃあ、奧でお話ししましょうか!」

「……ディーナはここで待ってて」

「あ、はいですわ!」

店主は思いの外快く俺の言葉に乗り、屋臺裏の路地奧まで二人で引っ込む。

賑やかな通りと違って暗く、靜かな路地裏で……俺は謎の串焼き屋臺の店主と対面する。

「それで?話って何かな?まさか……お姉さんに一目惚れとか!?それは……嬉しいけど困っちゃうなぁ〜お姉さん、忙しいし〜」

「あ、いえ……違います」

「あ、そうなんだ……」

と、どこか気落ちした様子の店主に俺は何だか調子を狂わされながらも……しっかりと尋ねる。

「僕は、グレーシュ・エフォンスと申します。貴の名前をお聞きしたい」

他人の名前を聞くならまずは自分から……その例に則って名乗ると、彼は面白いものを見る目で俺を凝視し、そして名乗った。

「私?私は……クシャナリーゼ。フルだと、クシャナリーゼ・アイゼンベルク・ヴェイパーテイス・タカトリス・イルミナージュ・サラマンドラね。でも、長いからクシャナリーゼ……。クシャナでいいわ」

な、ながっ……こんなに長い名前の人は初めてだ。俺はすこし頬をヒクヒクさせつつも、本題へる。この名前を聞いた時點で、俺にはこのが誰かは分からない。つまり、魔王でも伝説でも、最強でもない。

俺の知らない神話か?それとも……伝説等に匹敵する何者か?

飽くまでこれは俺の興味本位。ここで答えが返ってこなくても問題はない……。

「率直に伺います。貴は……何者でしょうか。漠然とした問いですが、僕の聞きたいことは……分かるはずです」

俺がそう言うと、店主は面食らった顔をし……何か俺を賞賛するような笑みを浮かべて答えた。

「おぉ〜そっかそっか〜。君は私の正を看破し、私という存在を警戒した……素晴らしい心掛けです。服致しました」

「いえ……そんな」

「えぇ……では、私が何者かという問いに答えましょう。私は、夢幻ファンタジーに生きる流離いの風來坊よ!」

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