《》第31話 最下層に潛むもの

境界線をくぐり抜けると、窟の中は鮮やかな青だった。

そういえば、さっきは窟の壁のと境界線のが一緒だったな。

そこまで考えて、オレの頭の中に一つの仮説が生まれた。

「……なあ、キアラ」

「ん? どうしたのラルくん」

「さっきから、境界線のだけじゃなくて、この窟のってる壁のとも地形が関係してるような気がするんだけど」

「必ずしもそういうわけじゃないよ。今回はたまたまそういうのが多くなってるだけだと思う」

オレのもしかしたら、という予測は、キアラに一刀両斷された。

まあ、キアラがそう言うならそうなんだろう。

この先も、どんな魔が姿を現すかわからない。

気を引き締めていこう。

そうして、ゆっくりと迷宮の最奧部へ向かう下り坂を下っていると、

「……なんだ、あれ」

ふと、視界の隅に映るものがあった。

しボーッとしていたら、見落としてしまっていただろう彩の微妙な違い。

「魔、なのか?」

窟の上側に、鈍い青を発している何か・・がいる。

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の編み目のような、に見える。

よく見ると、それは僅かにいていた。

心臓が鼓を刻むように、一定のリズムで力強くを震わせている。

「……私も初めて見るよ。なんだろうね、あれ」

サラッとそう口にしたキアラだが、その表は優れない。

オレも顔には出さなかったが、心では驚きを隠せなかった。

キアラが知らない魔がいるという可能も考慮していないわけではなかったが、まずないだろうと思っていたからだ。

キアラの知識は優れている。

この世界の大抵のことは知っているはずなのだ。

だから、あの気持ちの悪いがとてもよくないもののように思えてならなかった。

「とりあえず、撃ち落とすか」

このまま歩けば、アレの真下を通ることになる。

さすがにそれは躊躇われた。

大きさからして中級魔で十分だろうと思い、無詠唱の『巖弾ロックブリット』を放った。

「ギェ――――――――――!!」

そいつは、耳障りな悲鳴を上げながら天井から落下する。

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どうやらに命中させるはずがし右にズレてしまったようで、命を奪うには至らなかったらしい。

思わず耳を覆いたくなるような鳴き聲を無視して、地面に転がっているそいつに二発目の『巖弾ロックブリット』を放つと、それは靜かになった。

「別に大したことなかったな。にしても、こいつは何なんだろ」

青紫を垂れ流している、青紫塊を見る。

気持ち悪いと形をしているだけで、特に戦闘力が高いわけでもなかった。

潰れている魔の死を亜空間に回収する。

帰ったら、誰か迷宮や魔に詳しい人に見てもらおう。

「そうだね。なんだったん――ラルくん!」

キアラの聲が廊下に響く。

見えない通路の先。

そこから、何本もの青紫手がびてきていた。

「わかってる」

キアラの聲の意味を咀嚼する前に、いた。

両手に七霊を纏い、オレのを貫かんと迫っていた手たちを手刀で両斷する。

「ギェ――――――――――!!」

手を切られた痛みのせいか、通路の奧から、そんなけたたましい鳴き聲が聞こえてきた。

聲がする方に向かって、適當に『巖弾ロックブリット』を放ってみると、鳴き聲が途絶えた。

運良く當たったようだ。

通路の先に進んで、その姿を確かめてみる。

「なかなかグロテスクな見た目じゃねーか。悪くないぜ」

先ほど倒した謎の魔が大きくなったような姿だ。

全長一メートルといったところか。

ただし、至るところから青紫手が生え出ており、その姿は奇怪の一言。

としては終わっているが、造形としてはなかなか興味深い。

いや、気持ち悪いことに変わりはないんだけどね。

最初に発見した後も、その気持ち悪い化に何度も遭遇した。

その度に『巖弾ロックブリット』で這いよる手と塊を蹴散らし、奧へ奧へと歩いていく。

途中にあった分かれ道も、霊たちのおかげで迷うことなく進むことができた。

そして、

「……ついに來たか」

境界線に到達した。

その表面は鏡のように輝き、闇を吸い込むかのような黒を発している。

の境界線。

それが意味するものは、

「この先が『最下層』だね」

キアラがしげしげと境界線を眺めながら、鼻を鳴らした。

そう。

を発する境界線は、この先が『最下層』である目印なのだ。

「……なんか、意外とあっけなかったな」

ここまで來るのに、一回の休憩すら取っていない。

オレ個人の能力の高さと圧倒的なスタミナの量、それに霊たちの道案があったからこそせた技だろう。

普通に攻略しようと思ったら、ゆうに一週間はかかる迷宮だったはずだ。

そして、せっかく村長に々と用意してもらったのに、ほとんど使わないまま迷宮攻略が終わってしまいそうだ。

というか木の枝しか使ってない。

まあ使わないで終わるなら、それはそれでいいんだけどね。

恒例の木の枝刺しで異常がないことを確かめたオレは、境界線を通り抜けた。

――白い、空間だった。

上、下、右、左、前、後ろ。

どこを見回しても白以外のが見當たらない。

「なんだ、ここ……」

白の中を慎重に進んでいく。

どこまでこの部屋が続いているのかわからない。

境界がはっきりしない。

そのあまりにも無機質な空間に、オレの意識が呑まれそうになる。

「気をしっかり持って、ラルくん。――いるよ」

何がいるというのか。

……そんなもの、今更言うまでもない。

最下層に潛むものなど、『主』以外にいるはずがないのだから。

前方の空間によく目を凝らすと、その正が明らかになった。

――白いが、胎している。

まるで巨大な心臓のように、力強く一定のリズムを刻み続けている塊。

それは間違いなく、先ほどまで窟の中でオレが相手していたのと同じ種類の生きだった。

だが、その大きさは常軌を逸している。

目の前に転がっているそれは、黒熊ダークベアーや黒豬ダークボアー、ゴーレムが可らしく思えてくるほどの巨大さだ。

おそらく二十メートルは下らない。

塊は、まだこちらの存在に気が付いていないようだ。

さっきから全くアクションがない。

「キアラ、こんな魔見たことあるか?」

「……ううん。こんなやつ、私も初めて見た」

やはり、キアラも知らない魔のようだ。

まあ、さっきまで相手にしてた奴らのことも知らなかったらしいから當然か。

とりあえず、何もしないのも変なので塊めがけて『巖裂弾ロックキャノン』を放ってみた。

耳を揺らすほど大きな炸裂音が辺りに響き、デカブツのを抉る。

「――――――――」

そこでようやく、デカブツはこちらの存在を認識したらしい。

やはりと言うべきか、『巖裂弾ロックキャノン』ではこのデカブツに致命傷を與えるには至らないようだ。

そこそこの量のらしき白い片が飛び散っているが、デカブツは全く意に介した様子がない。

向こうがデカすぎるせいだろう。

「ラルくん! 來るよ!」

デカブツのがぶるりと震えたかと思うと、のあちこちから純白の手が生え出る。

そして何百本もの手が、一斉に襲いかかってきた。

オレは慌てて、七霊を手に纏って手刀で応戦するが、相手の數が多過ぎた。

最初は捌けていたものの、徐々にれる手の量が増えてくる。

「ダメだ、多すぎて捌ききれない!」

そうんだ瞬間、手の一本が、オレの腕を摑んだ。

その拘束を解こうと手刀を打ち込もうとしたら、その腕も手に拘束された。

両腕が拘束されてからは、あっという間だった。

次いで両足も手によって縛られ、オレは全くきが取れなくなる。

「ラルくん! すぐに空間――」

キアラがそう言いかけて、言葉に詰まった。

オレも、看過できない違和に眉を顰める。

「なんだ……?」

大量のが、デカブツのところに吸い込まれている。

それに伴って、オレたちの周りの空間が暗くなっていた。

嫌な予しかしない。

……あれはひょっとすると、ゲームなんかでよくあるタメ技じゃないのか?

どことなく、というか全的に、ソー○ービーム的な気配をじる。

「クッソ……!」

『主』の最高の技をまもとに食らうなんて冗談じゃない。

いくらタフネスが高いと言っても、ビーム的な何かを食らって平然としていられるほどか、と聞かれるとものすごく怪しいからだ。

しかし、オレの手に絡み付かれていて一歩もけない。

攻撃を避けることは不可能だった。

「――――――――!!」

デカブツのがより一層震えたかと思うと、デカブツの口から、謎のエネルギーが凝されたの奔流が放たれた。

圧倒的な破壊の気配を伴って、それはきが取れないオレの元へと迫る。

「ラルくん! 早くっ!」

キアラの焦った聲が耳にった。

そのときオレは――、

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