《》第65話 二度目の歪曲

「しっかし、きみも無茶するよね。こんな短期間で二回も死ぬなんて」

聲が聞こえる。

どこか懐かしく、オレの魂を震わせる聲が。

微妙に開いた目がけて、眼前に広がる景を映し出すために活を始める。

最初に映ったのは、手をばせば摑めるのではないかと錯覚するほどの、満天の夜空だ。

橫に目を向けて、その次に目にったのは、青い星。

それを認識してやっと、自分がどこにいるのかを理解する。

「ここは……星の砂丘、か」

なんとなく自分の中でそう呼んでいた景が、いま目の前に広がっている。

それを踏まえて、自分がどうなったのか思い出した。

「星の砂丘。うん、いいネーミングだね。この景を端的に表してると思うよ」

そう言って微笑むのは、ついこの前もこの場所で出會った、黒髪のだ。

に聞きたいことは多いが、今はそんな悠長なことをしている時間が惜しい。

「オレは、『運命歪曲』をちゃんと使えたのか?」

「安心して。その賭けには見事勝利したから。きみは再び、死ぬか死なないか選ぶことができるよ」

のその言葉に、オレは心の底から安堵した。

「……正直、賭けだった。『運命歪曲』がうまく発してくれるとも限らなかったからな」

命懸けのギャンブル。

それに、オレは勝利したというわけだ。

「でも、君がどれだけ足掻こうが、『終焉の魔』は再覚醒する。それはこの世界が下した、覆せない決定だからね。まあ、そのあとこの世界がどうなるかは、まだ未確定の未來だけど」

はそう言って肩をすくめる。

「……一応あんたにも聞くけど、『終焉の魔』ってのはキアラのことなんだよな?」

「そうだね。アリス・シェフィールドと、今代の『大罪』の『傲慢』、それに『終焉の魔』と、きみにキアラと名乗っているはすべて同一人だよ」

「そうか」

目の前のの発言をどれだけ信用すればいいのかは微妙だが、エーデルワイスの言っていることと矛盾はしていない。

まあ、キアラの過去のことについては、彼と腰を落ち著けて話せる狀態になってから解決していけばいい。

「そういえばだけど、現実世界に戻るなら早く行ったほうがいい」

虛空を見つめ、が突然そんなことを言い出した。

その視線の先には何もないが、彼には何かが見えているのだろうか。

「……一応聞くが、なんでだ?」

「ここで長く話せば話すほど、現実でも時間が過ぎてしまうという単純な話だよ」

「そういうことは早めに言ってくれよ!」

「そういうことについて聞かれてなかったからね」

オレのそんな指摘に対しても、はどこ吹く風だ。

力するオレに向かって、は微笑みかける。

「今ここに、運命は歪曲した。さあ、行っておいで。ラルくん」

「ああ、行ってくる。……あ、そうだ。あんたに一つだけ伝えないといけないことがあったんだった」

「ん? どうしたの?」

これ以上用事があるのが予想外だったようで、オレに不思議そうな顔を向けてくる

そんなに対して、オレは一つの言葉を口にする。

「ありがとう。オレに、大切な人たちを救うための力をくれて、ありがとう」

オレがそう言うと、は目を丸くした。

そして、しだけ表を崩して、

「別に謝されることでもないんだけどね。……代償は、しっかりいただいているわけだし」

「ん? なにか言ったか?」

最後のほうの言葉が聞き取れなかったので聞き返したが、は「なんでもない」と笑う。

まあ、なんでもないなら、なんでもないでいいか。

「それじゃ、今度こそ行ってくる」

あのを――キアラを、救わなければならない。

それが、ラルフ・ガベルブック――オレが、この世界に転生してきた意味なのだ。

「うん。いい顔だ。――いってらっしゃい」

のその言葉を最後に、オレの意識は不明瞭なものになっていく。

底のない闇の中を、どこまでも落ちていく覚。

そして、意識が再び途絶えた。

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