《超迷宮奇譚伝 『このアイテムは裝備できません!』》毆り合い そして異変

前に出るゴドーに対して後ろへ下がるオント。

その繰り返しが永延と続く。しかし――――

単純に前に進むゴドーの方が速い。

徐々にではあるが、確実に間合いは狹まっている。

不意に異変が起きる。 それは逃げるオントのき。

急にを捩るようなきを起こす。 結果、オントのスピードが僅かながらも減速する。

そのタイミングを待っていたかのようにゴドーは加速。

だが————

「なんのつもりだ?」

オントとゴドーの間合いは、再び開いた。

彼らの中心部には、大きなが無造作に置かれている。

それはオントが背負っていたバックパック。 オントがを捩るような作をしたのは、バックパックを下ろすため。

當の本人であるオントは……

「……答えるつもりはない」

言葉の後にニヤリと笑みを付け加えていた。

まるで挑発するような言い方と笑い……いや、実際に挑発なのだろう。

彼は手を腰に回すと腰につけていた小瓶を取り出す。

Advertisement

いやゆる回復アイテムだ。 蓋を開け、口をつける。

ドロリとした半の中が、小瓶からオントの口へと流れていく。

ゴドーは、眉をひそめて、その様子を見ている。

本當なら、疲労を起こしている相手の回復を放置することはできない。

しかし、明らかな罠。

決闘には明確なルールというものは存在していない。

決闘であり、ただの殺し合いではないという建前上、互いの武の殺傷能力を落とすのだが……

あくまで、ノールールデスマッチであり、バーリトゥードの戦い。

あえてルールがあるとしたら、戦う者同士の矜持――――

何も持って卑怯とするか? 何を持ってじ手とするか?

それは、戦う自分自が決まる事。 それがルール……それだけがルール。

卑怯など、自力で打破しろ。そういうマッチョイズムを追求されたものが決闘の本質だ。

だから、これもアリ。 戦いの事前に仕掛けられた罠ですら、直接的な殺傷能力がないという條件なら……當然、アリだ。

決闘が靜止したのは、僅かな時間。ゴドーが歩みを止めたのは、僅かな時間。

目の前のバックパックを蹴散らすように蹴り上げる。

その直後――――

発!?

その正を知っている僕ですら、そう錯覚してしまうほどの衝撃音。

若干のタイムラグがあり、その正を目視した観客から戸いの聲が上がる。

「え?そんな……?」

「うそだろ?いくら何でも?ここは安全地帯だぜ?」

「アイツ、やりやがった! 安全地帯に魔を解き放ちやがった!」

バックパックの面積から想像できないほど圧されたソレ――――魔発したように周囲に飛び散った。

そして、魔の正はスライムだ。

低層で捕獲し、人間の手によって調教される事もある。非常に低確率であり、稀ではあるが……

そんな希価値があるスライムが大漁に飛び出した。

先人たちの活躍によって、魔が排除された安全地帯で、意図的に魔を解き放つ。

その行為は忌的ではあるが―――― その効果は、大きかった。

「悪いね。あんたの隙をついて無効化させるためには、生半可な策じゃ無駄だと思ってね」

ゴドーのには數匹のスライムが纏わりついていた。

下半に2匹。上半に1匹。そして、彼が持っている短剣にも、剣先を覆うようにいる。

スライムを取り除くための武そのものを封じられた形だ。

本來なら、探索者ならば、スライム対策に火を起こす道をすぐ取り出せる場所に用意しているものなのだが……

決闘仕様で軽裝のゴドーには、それを持っている様子はない。

「ぐっ、貴様!ひ――――」

「まさか、卑怯と言うつもりじゃねぇだろうな」

オントは、ゴドーの聲を遮った。その聲には怒気が含まれている。

「なんで俺が怒っているか、わかるか?」

その怒りにゴドーは困を隠せなかった。

「なっ、何を言っている? こちらに非があるとでもいうつもりか」

「あぁ、本気でわからねぇのか……そうかよ!」

音が聞こえた。 オントが武を捨て、ゴドーの顔面に拳を打ち込んだ音だ。

人が人を毆るのに、こんな音がするのか。 僕は、場違いな印象を抱いた。

「貫祿を見せて、やる気のないフリをして、メリットを大きく見せて、罠にハメたのはお前らが先だろうが!」

毆り続けるオント。 その視線は、ゴドーを通り過ぎて観客の中へ。

一際、大きく場所が取られ、ダンジョンの中であるにも関わらず、白い絹でできた天蓋が揺れている。

その下に座っている年をオントは視線で打ち抜いた。

「何が、王族だよ!そんなもん、ファッ――――がっ!」

オントは最後までいう事はできなかった。

なぜなら、その顔面をゴドーの拳が打ち抜いたからだ。

ゴドーはスライムが纏わりついた短剣を捨て、拳を構えていた。

「我が君主の行いが、君の友を震わせたか。なるほど、確かに非があるのはこちら側。しかし――――

君主への侮辱を看過するほどは私は枯れてないぞ!」

ビリビリと空気を伝わり痛みが伝播していく。

「いいぜ。俺とあんたの力量差は明白。だから、スライムまみれにして毆り合いに持ってきた。こちらが勝手にハンデを付けさせてもらった。これで互角……だったらいいな」

そう言ってオントは一発。

「構わん。むしろ、気を使わせたな。これでこちらも本気を出せる。私の拳は、私のは、王になるべき方のものであり、私の意志で私が倒れる事はない。我が忠義の重さを知れ!」

そう言ってゴドーは一発を返す。

観客からは短い悲鳴がれる。

ただの観客ではない。何年も命のやり取りを、魔との殺し合いの訓練をけた者たちだ。

そんな観客ですら―――― 凄慘な殺し合いを學んでいる生徒たちですら――――

悲鳴をあげる毆り合い。 見ている側にすら、強制的に痛みを伴う毆り合い。

それでも、當の本人たちは笑っていた。 笑いながら毆り合っていた。

「やれやれ、本當に男って馬鹿ね」

僕の隣でカヲリが呟いていた。

僕も同意見だった。

確かに馬鹿……なのかもしれない。けど――――

うまく言えないけど、確かな熱量をじられる。

を激しく揺さぶられ、普段は眠っているを揺り起こされるように―――――

だから気がつかなかったのかもしれない。

この場にいる誰もが、既に異変がダンジョンに起きている事に……

    人が読んでいる<超迷宮奇譚伝 『このアイテムは裝備できません!』>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください