《超迷宮奇譚伝 『このアイテムは裝備できません!』》プロローグ その1 平凡な日常
ある日の景――――
空間は靜寂で支配されている。
――――否。 よくよく耳を傾けてみれば、複數のうめき聲が聞こえてくる。
その場を表現する言葉があるとするならば死累々。 あるいは地獄絵図。
だが、人間が2人だけ立っている。 互いに向かい合う立ち位置から、両者が爭っている事をうかがい知れる。
両者ともに満創痍の。 だが、その目にはギラギラとした輝きが見て取れる。
萎える事のない闘志。 それを表すように、その顔には凄まじい笑みがこびり付いている。
「まさか、お前が最後まで殘るとは……いや、やはりと言うべきか」
そう言ったのは、片方の男――――オム・オントだった。
「なぜ……なぜ、僕らは……ここまでして戦わなければならなかった!」
そう言ったのは、片方の男――――いや、それは、まるで第三者の言い方だ。
オム・オントと対峙する男の正は、僕……
トーア・サクラなのだから……
「おかしな事を言う。俺たちが戦うのは、それが宿命だからだ」
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「……宿命?」
「そう宿命だ。俺たち探索者の宿命なのだ」
メキッ メキッ
異音がオントの腕から聞こえてくる。
(何の音だ?)
僕は警戒を強める。
そして、次の瞬間――――
「いくぞ!サクラあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
雄たけびのような聲と共に、助走をつけ、ラインギリギリまで踏み込み、手にした武を発させる。
しかし――――
(すっぽ抜け? 力み過ぎたのか?)
オントが放った投撃は、その裂帛の気合とは裏腹にフワフワと浮き上がっている。
チャンスだ。 オントのスタイルは火力重視。 その長い手足を利用して強烈な一撃を放ってくる。
しかし、攻撃時において、有効的な長い手足は防時に不利へ働く。
この戦い――――ドッチボールという競技において、の末端である手足への攻撃はセオリーとすらいえる。
このボールをキャッチして反撃の狼煙を―――――
――――ッ!?
不意に背中にゾクリした寒気が通り抜ける。
(なんだ?この違和は?このプレッシャーは?)
僕は足を止める。
その直後だった。宙を漂っていたはずのボールが思い出したかのような急加速。
不自然な変化を起こして、高速で落下していく。
そして、破壊音が戦場に――――コートに鳴り響いた。
加速したボールが地面に接したとは思えない音だった。
それは、まるで練の魔法使いが魔へメテオ系の魔法を炸裂させた音に匹敵する。
もしも、あのまま……ボールを取りに行っていたら――――下手をすれば死すらあり得た……かもしれない。
コートの外に出たボールは、外野であるオントのクラスメイトがボロボロになったに鞭を打って拾いに行った。 異常なまでの張と激戦のよる疲労からか、まるで生きる死のノロノロとしたきだった。
そのわずかな時間。オントの投撃に対して攻略を組み立てる。
そして、導かれた結論は――――
やがて――――外野からのパスによってオントの手にボールが渡る。
メキッ メキッ と再び異音が響く。その音の正は見抜けない。
「勘違いするなよサクラ。さっきの威力は7割の力だ」
「!」
まるで死刑宣告のようなオントの発言。そして、彼は続ける。
「次は100%中の100%を持って、お前を貫く!」
一瞬、オントのが巨大化したかのように見えた。
いや、実際に巨大化したのだ。
全の力みによる急激なエネルギーの消費。 さらに生じるの熱量。
それらに対してのが急速で全を回るパンプアップによって筋の膨張が起きている。
そして、オントの手から離れたボールは初撃と同じように空へ高く舞い上がっていく。
だが、僕たち探索者は一度見た技は二度と通じない!
不規則な変化とスピードの不自然な増加。その魔球をけるを僕は持たない。
しかし、変化が起きる前ならどうだ。
打ち上げられたボールの上昇速度。 それに対し―――すでに僕は高く、舞い上がっている。
間近で見る変化前の魔球。 その正に気がついた。
オントから離れたボールは球という形狀から、遙かに離れ、歪な形へ変化している。
僕はあの音を思い出す。
(メキッ メキッ)
あっ、あれはオントの常人離れした握力によって、ボールの形狀を変化させていた音だったのか!
魔の膀胱から作られ、頑丈さだけが取り柄のはずだったボールが見る影もない。
本當に純粋な腕力でこれをし遂げているのか!理法則すら捻じ曲げて!
そんな驚きは一瞬で終わらせる。 すぐさま冷靜さを取り戻した僕は、宙を舞い続けるボールに手を出した。
次の瞬間。
パッン!と音を上げ、僕の手が弾かれる。
湧き出てくるの後悔の念。 覆水盆に返らず。
僕はオントの魔球の正を見破ったつもりだった。
歪な形になったボールは宙を漂る間、握力という封印から徐々に解き放たれ、時間の経過と供に形を変化させていく。 その間に生じる空気抵抗が、本來の形を取りも出した球に大きな力を與える。
僕はそう考えていたのだ。
しかし、魔球のは他にもあった。ボールが歪な形を維持するために強烈なスピンがかけられていたのだ。 その凄まじい回転力が僕の腕を弾き飛ばしたのだ!
そのまま、僕は空中で制を崩す。 そして、上下が逆になった視線の隅でオントの姿が見えた。
極限狀態で五が大量の報を読み取っているのか?
それとも超常的な力が働いているのか?
一瞬で意識が差し、高速のコミュニケーションが行われた。
剎那の時間、伝わってくるオントの意志を僕の脳がオントの聲として処理する。
「お前が、ここ一番で飛ぶのは分かっていた。 我がオム家の投撃は、全てが二段構え――――弱點はない!」
「くっ!」
オントの言葉に、消えかけていたはずの闘志がメラメラと音を上げて燃え上っていく。
「オント、お前は勘違いをしているぞ。まだ……まだだ! まだ、ボールは僕の手に屆く位置だ!」
「なっ何を!?」
僕は右腕の拳をただただ強く、強く握りしめた。
「行くぞオント!これが、これが僕の魔球だ!」
まだ、宙を舞い続けるボール。生半可なキャッチなど簡単に弾いてしまう回転力によって守られ続けている。だが—————僕は―――――
「その中心を、ただ打ち抜くのみ!」
固めた拳をボールに叩き付けた。
「なっ!何だと!?」
オントのび聲。
そして、ボールは僕の放った打撃のまま、その方向をオントへ向ける。
「舐めるな! 自らの技を返される事を想定していないと思ったか!」
ボールは加速し、空中で蛇行を繰り返す。
そのきには、まるでボールの後ろにドラゴンのシルエットが浮かんでいるかのようだ。
オントはそのボールに向かって走り出している。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
しかし――――
オントの足は止まった。
「消えた?見えないだと!?」
そう消えたのだ。
何が? ボールが世界から消滅したのだ。
そして、再び現れたボールはオントの肩に當り、コロコロと地面を転がった。
ホィッスルが鳴り響き、主審であるサンボル先生を僕へ腕を向ける。
「はい、今日の育は、サクラチームの勝ち!」
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