《超迷宮奇譚伝 『このアイテムは裝備できません!』》アンデット狩りと幽霊

タナカくんはメガネを外すと別人のようになるという事がわかった。

「いやぁ、誰だかわからなかったよ。メガネと髪型で人間、変わるみたいだね」

「自分は目がコンプレックスなんだよ。目つきが悪くて、まるで誰かを威圧してるみたいで……」

どうやら、タナカくんのメガネは実用的な目的ではないようだ。

僕が想像していた優等生ファッション説も、それほど間違いではなかった……のかなぁ?

「そうなんだ。でも、僕は、それはそれでカッコイイと思うよ」

「かっ、カッコイイ……かぁ……」

「……うん」

狀態から回復した僕は、徐々に、目の前の人がタナカくんだと認識できるようになっていた。

ん~ と僕は頭を困らせた。

し前、教室で聲を張り上げていた件について、踏み込むべきか?それとも……

僕の悩みに気づいているのか、逆にタナカくんの方が話題を振ってきた。

「サクラくんは、どのくらいまで潛っているの?」

「潛ってる? あぁ、ダンジョンの階層の事かい? えっと……21層がメインかな」

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「もう、21層かい。隨分と早いね」

その言葉にドッキリとする。

僕の場合は、とある理由によって魔が大量出現する階層が得意になっている。

その『とある理由』は絶対のだ。そこに踏み込まれないように注意しながら會話を続けていた。

しばらく、會話を続けていると……

不意にタナカくんが深刻な表に変わる。そして、何を決心したかのように――――

「サクラくん、21層は気を付けた方がいい」

そして、こう付け加えた。

「21層には幽霊が出る」

――――ダンジョン 21層――――

『21層には幽霊が出る』

それは皆、周知の事実のはずだ。

「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

現に、僕の背後から何十と言う足音がついて來ている。

僕は、彼らに自己の存在を知られるために、雄たけびをあげながら走り回っていた。

「カッカッカッ……」

背後には不気味な笑い聲。 その音は時間の経過と共に増えていく。

チラッと背後を確認する。その景は、まるで悪夢であり、思わず「うげっ」と聲が出る。

「「「カッカッカッ カッカッカッ カッカッカッカッカッカッ……」」」

背後には數十のアンデット。 から、贅も筋も失い、骨のみになった魔

一説には、人間の恐怖の元をダンジョンが読み取り、生の枠から外れた魔を意図的に生み出された魔らしい(諸説あり)

最近、この階層を狩場として使っている僕には、もはや家の庭みたいなもんだ。

頭に叩き込んだ地図を頼り、狹い道を疾走していく。

曲がり角。

正面から現れたアンデット系魔

何度となく繰り返されたシュチエーション。一瞬の迷いが生死を分ける。

十分に加速したスピードを殺さないように、足を上げて、前へ突き出す!

ヤクザキック!

と共に崩れ落ちるアンデットの

それを確認なんてしない。そのまま踏みつけては再加速。

奴らのは骨だけとあって、極端に脆い。 しかし、その脆さとは裏腹に、完全破壊せぬ限りはき続ける厄介な魔。脆さとタフネスが共存していく珍しいタイプだ。

きっと、蹴り倒したばかりのアンデットも僕の背後に列を形している集団に、加わっているだろう。

背後は兇悪な電車ごっこのような地獄が広がっているだろう。

捕まれば、をバラバラに引っこ抜かれ、彼らの仲間りか?

長時間走り続けた影響か? そんな面白い妄想に頭が支配されていく。

そして、目の前に急斜面の階段が出現した。

気のせいだろうか?

背後から「カッカッカッ……」という笑い聲のボリュームが増したように聞こえる。

もしかしたら、急斜面という減速ゾーンを前にした僕を嘲笑っているのかもしれない。

けれども―———笑いたいのは僕の方だ。

僕は飛び跳ねるように階段を一気に駆け上がってく。

そして、上り終えると足を止めた。

ふり返ると、アンデット達は僕を殺さんと手をばしてくる。

「だが―――― 龍の足枷ドラゴンシール!」

重量をじさせる音。

それが現れた。それは、巨大な、巨大なモーニングスター。

現存する人類最強の武。 球狀のそれが階段の斜面に現れた。

その結果、最強の武は斜面を転がり落ちていく。

當然、その斜面には、大量のアンデット系魔達が列を作っていて――――

舊時代にはボーリングという競技があったらしい。

たぶん、ストライクというのは、こういう時に使う表現なのだろう。

全てが一掃されるというカタルシス的な興。そして多幸

そう全てだ。 何十といたはずの魔たちの全ては灰燼を化した。

破壊音は過ぎ去り、そこには何も殘っていなかった。

ここは21層。 僕の実力にはの丈に合わないはずの難易度。

しかし、最強の武である『龍の足枷』に加えて、階層の地形を利用した獨自の使用法。

それが本來ならあり得ないほどの効率的なレベリングをし得ているのだ。

最も、ドロップアイテムと言われる魔から取れる戦利品までもが、ことごとく破壊の対象になってしまうので金銭的な効率は皆無と言ってもいい。

まぁ、いいのだ…… レベルさえ上がれば……

今日のノルマを終え、帰宅に向かう。

その帰路の最中、不意にタナカくんの言葉が思い出された。

「21層には幽霊がでる……か。どういう意味だろう?」

ダンジョンが生み出す魔には、人間の恐怖を煽る事を目的に獨自の進化した魔がいる。

その筆頭が21層のアンデッド系魔になる。

しかし、まさか―———優等生で真面目なタナカくんが、いまさらアンデット系を怖がり、幽霊というには違和がある。

だとすると……本當に人間の霊魂とか、オカルト的な――――超常的な恐怖が21層に存在している。

そういう意味だろうか? 一瞬、背筋に薄ら寒い覚が走り抜けた。

「馬鹿馬鹿しい」と笑い飛ばそうとして、できなかった。

なぜなら、視線の端に、今まで認識できなかった存在がいた。

「……なんだ? あれは?」

ソレは、ゆら~り ゆら~りと一歩一歩進む毎に左右にが揺れている。

それは人間の形狀をしていた。 しかし、に靄もやがかかってるみたいで、実が存在していないように見える。

そんな非現実的な存在を前に、僕はけなくなっていた。

(こ、これは……か、金縛り?)

ソレは、人間ののように見える。そして、ソレは人間の言葉で話しかけて來た。

「ねぇ?もしかして――――あなたが私のお父さんかな?かな?」

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