ロウ・クリム。それは魔剣の名前だった。

サンボル先生がフリーの探索者時代にダンジョンで手にれた武。

さて―———

膨大な魔力とめたアイテムが、どうしてダンジョンに転がっているのか？

それは明らかになっていない。

過去の探索者がダンジョンで失った武が、長い年月をかけ、ダンジョンが放出する魔力の影響をけたなのか？

あるいは、數百年前の失われた技で作られた武が、何かの原因で隠されていたのか？

神聖、神が宿った宗教的シンボルとして扱われている武も存在している。

兎にも角にも、現在の技では再現不可能の武がダンジョンには転がっている。

サンボル先生が使っていた魔剣ロウ・クリムも、そういう類だったらしい。

そうすると、やっぱり……避けられない疑問が浮かぶ。

それが、どうして人間に？

いくらなんでも、どんな魔力を帯びても……武は人間にならない。

なにより、サンボル先生のを元にして作られたのがクリムというの正だったはずだ。

可能があるとしたら……

それは魔だ。

ほとんどの魔は、生の常識から大きく外れているモノだ。

だから魔は生ではなく、魔というジャンルの存在にカテゴライズされている。

現に魔には、どう見ても無機に生命（？）が宿っているようなモノがいる。

……いや、しかし――――クリムは人間だ。

それは最上級の魔であり、魔の王と呼んでも差し支えない存在であるドラゴンからのお墨付きだ。

だから、やはりクリムは人間なのだろう。だとしたら……

余計にわからない。いや、わからないフリをしている。

もうすでに答えにたどり著ける報は提示されている。

武が人間にならない。

それが正しいとしたら？　それを今の條件に當てはめたら？　逆に考えてみたら？

武は人間にならない。ただし————

人間は武になる事もある。

優秀な探索者の伝子から、生まれた。

魔の生態を利用して、魔剣の力を取り込んでいる。

「……」　「……」

僕とサンボル先生。

両者、沈黙。

暫し、沈黙。

その沈黙を先に破ったのは僕の方だった。

「……どうしてそんな事を？」

自然と口に出た言葉だった。しかし、サンボル先生への糾弾するニュアンスがしっかりと含まれていた。

サンボル先生は「言い訳になるかもしれないが」と前置きをして、重い口を開く。

「人工的にダンジョン探索に特化した人間を創る計畫があったからです」

それは、し前に言っていた言葉を同じような答えだった。

確か、その時は―――

『彼は、ダンジョン完全攻略を目的に作られた人間なんだよ。だから、彼と私の違いは意図的に作られている。実験とデータ観測のために……ね』

けど……

僕は「あぁ、やっぱり」と呟いた。

「やっぱり？」とサンボル先生は聞き返してきた。

「自分の分を作って、自分の武を魔力の燃料タンクにする。それはサンボル先生個人でできる事ではないでしょ？できるとしたら……」

いくつかの可能が選択肢として頭に浮かんだが「國です」とサンボル先生が先に答えてくれた。

「この學園が設立される事になった直後にスカウトが來ました。もちろん、即答しましたよ。ついに國が國家戦略としてダンジョン攻略に乗り出したという期待と、それに最前線と関われるという名譽は計り知れませんでした。――――しかし、條件がありました」

「その條件が？」

「えぇ、理想的な探索者像とカリキュラム作のために私のを調査する事が１つ。もう１つが……

魔剣ロウ・クリムの譲渡でした」

「譲渡？　刀を無償で渡したのですか？」と僕の質問に「教員採用の條件だから無償というわけではありませんが……」と返された。

「いくら魔剣と言っても長い間使ってきましたからね。武として壽命は間近だったのを誤魔化し誤魔化し使っていたのですよ。それをダンジョン研究の役に立てばと考えたのです」

「それが、サンボル先生の分。古い言葉を使えばクローン人間のパワーアップに使われた。そうですね？」

サンボル先生は頷いた。

僕はため息をついた。本音を言えば、話が大き過ぎて、ついていけない。

しかし、話は終わりではなかった。

「サクラくんは勘違いをしています」

「勘違い？」

「サクラくんは、魔剣が『燃料タンクとして』使われていると思っていますね」

「……違うのですか？」

「えぇ、違います。魔剣が、魔剣こそが彼の本なのです」

「それは、どういう意味ですか？」

「単純ですよ。魔剣に分解した人間の……彼のを……」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

それ以上は思い出したくもない。