まずは暗闇。

そして、徐々に音も消えていく。

鳥のさえずりも、風に揺れる木々のざわめきも消え―――

僕の呼吸音を消えて―――　心臓の鼓だけ耳に殘る。

やがて、鼓音も消えて無音。

地面は、僕の靴１つ分よりも狹い。僕は今、平均臺の一本橋の上に立っているのだ。

僅かな風でもバランスを崩しそうになる。

そんな狀態。つまり、目隠しをして平均臺に立っている。

なぜ？　なぜって、それは――――

トンって僕に腹部に何かが當たる。

それを意識したと同時にがく。目前にいるはずの敵へ短剣を振るった。

しかし、僕の攻撃は空を切る。大きく空振り。

（馬鹿な！相手はどこにいる？）

無意識に僕の腹部にれているを摑む。

（これは……足？）

そのだけで相手の狀態がわかる。

敵は、こちら同様に目が見えていない。

自分の足を大きく前に出して、こちらを探っていたのだ。

そして、僕にれた。相手がすぐに攻撃へ転じなかったのは、カウンター狙いのため。

（大きく空振りした今……來る！）

次の瞬間には衝撃。　側頭部への打撃をけ、脳が揺れる。

一瞬のガードが間に合わなかったら、そのまま平均臺から落ちて地面に叩き付けられていたはずだ。

おそらく、敵の攻撃は蹴り。　僕が摑んだ足の反対―――片足で飛び上がり、そのまま蹴り込んできたのだろう。

おそらくは、早々と決著をつけるためにリスキーな攻撃に打って出たのだ。

「だったら、その賭けはアンタの負けだ！」

敵は片足立ち。　もう一方の足は僕の腕の中。　そして、ここは平均臺。

このまま、左右に振ってやれば、僅かな力でも十分に落とせる。

もちろん、僕は即座に実行に移す。しかし――――

「う、かない」

まるで、まるで、が張った樹木を摑んでいるかのように……

微だにしない。

そして、相手―――奴は言う。

「どうした？小僧。　笑えぬ非力さだな」

聲の主、ラン・サヲリが嘲笑う。

「ぬぐぐっ！」と僕はサヲリさんをかそうと力を込める。

だが、かない。

「小僧、覚えておけ。力こそパワーだ！」

首の後ろに圧力。　サヲリさんに摑まれた！？　伝わるのは圧倒的なパワー。

本來なら、平均臺から落ちているだろう。しかし、サヲリさんの腕力によって落下による敗北を拒否される。そのまま、四つん這いの狀態まで押さえつけられ……いや、急に首の圧力が消滅する。

解放された？そう思ったのは一瞬。

僕のをサヲリさんは両手でロックする。

「えっ？えっ？えっ？　うわぁああああああああああああ！」

急激な浮遊と回転。

人間の脳は、が不安定な狀態になると平行な位置を保とうとくらしい。

今、自分の勢がわかってしまうのは、脳のきによるものかもしれない。

僕は今……平均臺の上でサヲリさんにを持ち上げられ――――

プロレス技で言うパワーボムの勢になっている。

……いや！違う！？

サヲリさんの両手が僕の腰を摑み、僕のを高く持ち上げる。

二段階式超高角度パワーボム　ラストライド！

「え？サ、サヲリさん？このまま、平均臺の上から地面へ？雪崩式ラストライド？いや、死んじ……死死死死死……ぎゃあああああああああああああああ……」

その後は記憶がない。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「ぶあぁぁぁぁぁぁぁ！？」と僕は冷たい水を顔面に浴び去られ覚醒した。

「ひ、酷い夢を見た」

「そう、本當に夢だったよかったのにな！」

目の前にヤカンを持ったサヲリさん。どうやら、夢ではなかったらしい。

しかし、サヲリさんとの鍛錬は探索者としてより、むしろ曲蕓師みたいなってきているなぁ……

そんな僕の気のゆるみを見抜いたのか、サヲリさんはビシッと指を僕に向けて刺す。

「今回の鍛錬。気になった所はあるか？」

「気になった所？えっと……あっと……足を摑んだ時、どうやってもかせなかった。あれはどうやって？」

「ふっ、あれはラン家に伝わるである。そう易々教える事はできぬわ」

「……」

そんな凄い技を鍛錬の組手で使うなよ。　それに「力こそパワー」って言ってなかったか？

そう思ったが、ご満悅そうなサヲリさんにそれを口に出すほど命知らずではない。

ドッドッドッ……

「ん？なんの音だ？」

変な音が聞こえてきた。

ドッドッドッ……と最初は音。

徐々に大地が揺れるような振が加わり、そのまま音が近づいてい來る。

音の正は、一？

その答えをサヲリさんは呟いた。

「これは……馬だ」