間合いを一気に詰めると同時に拳を走らせる。

ショートアッパーがアゴを捉える。しかし、淺い。

ミドリさんは剣を振ろうとして止める。

超接近戦。剣の間合いよりも近く、まるで抱き合うかのような間合い。

互いに剣は振るえない。

腰を落として、半の構え。そのまま、ミドリさんを押すように重を預ける。

すでに俺は折れた剣を捨てている。

ミドリさんは剣を捨てない。騎士の矜持だろうか？

技も技も関係ない。パワーの真っ向勝負。　力負けして、よろめいたら負けだ。

バランスを崩せば至近距離の打撃を無防備にけてしまうだろう。

下半に力を込める。もちろん、上半にもだ。

歯が軋んで甲高い音が何度も聞こえる。

鼻の奧にありもしない個をじる。

見開いた瞳は閉じる事が許されず、酷い渇きを訴えてくる。

髪は逆立つ。　脳が煮えていく覚。

溫の急上昇が原因だろうか？　周囲の風景が歪む。

そんな極限狀態だからか……

何かが囁いてくる。

誰が？　その聲は俺だ。　何を言っている？

危険を教えている？　馬鹿な……戦っている最中だ。　危険なのは當然……

違う？　今日の朝？　同じ？

それに気がつくと、急激に溫が下がっていく。

朝の鍛錬。サヲリさんがおこなったアレを、あの技をミドリさんも持っていたら？

ミドリさんの腕が俺の首へびていく。

そうだ！あの技だ。片手で相手のきを制する技。

「それだけはけるわけにはいかない！」

力＋しゃがみ

不意をつかれたのか、ミドリさんは前のめりに倒れていく。

そのまま、彼の両足を抱え込み―――

一気に立ち上がりながら、後方へ反り投げる。

衝撃音。

鎧の分か、重量のある音が聞こえる。

どうなったのか？彼の方を見ると――――違う。

あれは投げられた音ではない。地面との接音じゃなかった！

あの音は、空中で――――ぎ捨てた鎧が地面に落ちた音。

軽裝になったミドリさんは、既に勢を立て直していて――――

――――來る！

一貫して離さなかった剣を高速で振るって來る。

回避。

しかし、限界だった。

フルパワーでの押し合い圧し合い。アレが短時間でエネルギーを枯渇させていた。

自分の意志とは無関係に膝が沈み込む。　立て直そうとした結果、足がり――――倒れ込む。

顔を起こすと、目の前に剣先が止まっていた。

そして、ミドリさんの顔。

彼はそのまま、高らかに勝利宣言を――――

「參った。私の負けだ！」

え？敗北宣言？

「えっと……」

狀況が飲み込めず、混する僕にミドリさんは―――

「いいや、皆まで言わなくてもいい。私にはわかっている。あれだ」と地面を指差した。

そこには……何もなかった。

なくとも、僕の目には何も見えないが……

え？いや……噓だろ？

「そうだろ？最後のき。私の剣を避けられたはずなのに、あえて避けなかったのはソレを守るためなのだろ！」

いや、避けなかったと言うか倒れたのだが……

いやいや、そんな事よりも、もう一度だけミドリさんが指を指しているモノを凝視した。

そこには――――

アリの行列があった。

その行列は観客席へ続いている。どうやら大量のお菓子を持っている人に向かって列形をしているみたいだ。

「サ……サヲリさん！」とパニック狀態になった僕は助けに求めるようにサヲリさんを呼んだ。

彼は―――

「どうした？私はお姉たまの弱點として教えたはずだが？」

……確かに言ってたな。チクショウ。

決闘の前に、『小さいものが好きだったな。小とか』って……

アリは想定外だろ。

「加えて、お姉たまは思い込みが激しい方だと、言ったはずだが……」

確かに、それも言ってたけど！

「ちなみにお姉たまは、公式の決闘で１勝もしたことがない」

それは、言っててほしかった。

だから、戦う前に命まで取られる事はないって……アレは學園式の決闘方式の事を言ってたのではなく、こうなるってわかってて言ってたのか……

「相手を過大評価し過ぎてしまい。自ら負けを認めてしまうのだ」

「……」

この後、「そんな馬鹿な！」って僕の絶が校庭に響く事になった。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「さて、今日は良い経験になった！」

帰宅する準備を済ませたミドリさんは馬にった。

「それでは、サクラくん！サヲリの事を頼んだぞ！君なら上のお姉さま達を納得させれるはずだ！」

「え？上の？お姉さま？」

「なんだ、聞いていなかったのか？我らラン家12姉妹。あと10人いるお姉さま方との決闘にも勝ち続けれる……」

「もう、勘弁してくれ！」

「はっはっは！サヲリとの結婚式を楽しみにしてるぞ！その時までさようならだ！」

そう言って、ミドリさんは帰って行ったのだった。

最後まで騒がしい人だった。　さて……今日はもう帰って寢よう。

「まて、何処へ行く？」

帰ろうとする僕をサヲリさんが呼び止めた。

「鍛錬のノルマは済んでないだろ」

「げっ！このドタバタ騒で免除は……」

「するはずがなかろう」　「……ですよね」

「それに……私の旦那さまになってくれるんでしょ？」

「！？」

それから數日、僕はこの冗談・・でサヲリさんから弄られる事になった。