彼らはダンジョンを城にしている。

ダンジョンと言っても天然のダンジョンではない。

『人工ダンジョン』

大きな戦を前に、自らを鍛える事を目的に作った建造であり、そこに魔を解き放っている。

「要するにホームトレーニーってやつですね」

「ホームト・・・・・・なんだって？」

「ホームトレーニーですよ。自分の家をトレーニングジムに改造して鍛えちゃう人の事を、そう呼ぶのです」

「そりゃ、自宅に鍛錬所を作る人は一定數いるものだけれども、規模が違うだろうよ」

僕の目の前に、巨大な建がある。

ダンジョンと言うよりも神殿と呼んだ方がイメージしやすいかもしれない造りだ。

白い大理石の柱。

目立つのはそれだけ、あとは簡素な屋と床。

時々、中から生の唸り聲が聞こえてくる。

おそらくは魔の聲だろう。

人工という事は、本のダンジョンに設置されている初見殺し的な罠トラップも存在していないだろう。

しかし、あくまで鍛錬目的という事は、部の魔はシンプルに強い種類で統一されていると予想できる。

警戒をし過ぎて困る事もないだろうが……

このまま、立ち止まって無駄に時間を消費する事は賢い選択ではないだろう。

「よし、それじゃ行くか」

僕は、人工ダンジョンに足を踏みれた。

薄暗く、ジメジメとした空間。

幹部の姿はもちろん、魔の姿すら見當たらない。

だが————

いる。

消し切れていない呼吸音。

僅かに屆く獣臭。

魔が、こちらの様子を窺っている。

「なるほど」と僕は頷いた。

いつ襲い掛かってい來るかわからない張。

これが鍛錬目的として作られた理由がだろう。

そして、それは來た。

気配を隠していた時とは、まるで違う威圧。

存在の増長は、ソイツの攻撃と同時に行われた。

ソイツが僕の視界にった時には、攻撃が開始されていた。

見上げるような巨軀から振り下ろされるハンドアックス。

ければ、そのけを砕するであろう剛腕。

僕は、大きく後ろに飛んで回避。

回避こそは功したが、砕かれた地面が石礫のように四方に飛び上がる。

1つ1つが拳相當の大きさ。當たれば、骨くらいなら簡単に砕けるだろう。

僕は背中から抜いた短剣で、捌く捌く捌く・・・・・・

捌くのに意識が取られた。　敵の接近に気づくのが遅れた。

敵から放たれたのは前蹴り。

それを紙一重で避けると同時にソイツの腳を短剣で突く。

しかし―———

「堅い！？」

僕の短剣は、ソイツのに僅かなを流す程度のダメージにしかならなかった。

（また追撃が來る！）

敵は、魔でもかなりの強者。一、なんの種類か？

そんな疑問は、すぐに解決した。

ソイツは、そのまま後ろに下がり、闇にを隠すように姿を消した。

再び、気配を決して奇襲を狙っているのだ。

しかし、その時に敵の全が見えた。

「アイツは――――ミノタウロス！？　こんな繊細な奇襲ができるミノタウロスなんでいたのか！」

そう、敵の正はミノタウロスだった。

猛牛の頭を持つ二足歩行の魔だ。

荒々しく、獰猛。　そして、何よりの脅威は剛腕。

それがミノタウロスの特徴だったはず・・・・・・しかし、今の個は暗殺者のように闇に潛み、奇襲の瞬間だけ荒々しさを発揮する。

「新種のミノタウロス・・・・・・いや、鍛錬用に品種改良を加えているのか？」

たぶん―———

おそらく―———

自分の鍛錬用に魔を鍛え上げている。

探索者の僕からしてみたら、信じられない発想だ。

人間に仇名す存在を強化するなんて……

しかし、同時に納得もした。

なぜなら、ここは『人工ダンジョン』だからだ。

「ダンジョンも人工的なら、魔にすら人の手がっているわけか・・・・・・」

こんなダンジョンが幹部の數だけ……つまり12個存在していると考えると頭が痛くなってくる。

それと同時にワクワクが止まらないのは僕が探索者だからだろうか？

そして、再び來た。

闇の中から、ミノタウロスの剛腕がって見えた。