《負け組だった男のチートなスキル》第十七話 ドラゴン
ドラゴンと聞けば何を思い浮かべるだろうか。悪の権化。神聖な。強大な敵。守り神。どう思うかは人によって様々である。だが、どれにも共通していることがある。それはドラゴンという存在は強大で強力な生だということだ。なくとも、ドラゴンと聞いて弱い魔だと思う人はまずいないだろう。
 コウスケの目の前にいるそいつは、日本で言う竜のような姿ではなく、ゲームに出てくるようなまさにザ・ドラゴンといった出で立ちで、とてもじゃないが敵うとは思えない。ましてや武も何も持っていない狀態でドラゴンになんて挑みたくない。これがゲームでもまず無理だ。
コウスケの手持ちは、先ほど倒した魔の骨のみだ。強度は並みの剣よりも脆く、ドラゴン相手には心もとない。
「無理だろ」
ある程度の自信を持っていたコウスケだったが、さすがにあの巨を目の前にしてしまえば、思わず諦めの言葉を口にした。
幸いドラゴンには気づかれていないので、このまま逃げることも可能だ。だがそれでいいのか、戦わなくてはこの先には進めない。しかし戦って勝てる保障はどこにもない。むしろ負ける可能が高い。と様々な葛藤がコウスケの心中に渦巻いていた。
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そんな中、この大きな空間の奧。コウスケ側から見て反対側の場所で、人の足音のような音が響いてきた。ドラゴンもそれに気づいたようで、そちらの方へ振り向いていた。
「……みんなどこ?」
その人はブツブツと呟きながら、この部屋へと無謀にもって來た。聲を聞く限りではのようだ。
「ゴアアアアアアアア!」
「きゃっ! え、え、な、なんでこんなところにドラゴンが……」
案の定そのはドラゴンに気づかれてしまい、腰を抜かしている。
もちろん危険を冒してまであのを助ける義理などない。ないのだが、やはり平和な國で生まれた弊害・・なのだろう。危険に陥っているを見捨てるなんて事は出來そうになかった。
ドラゴンはへ目掛けて口を大きく開いた。恐らく火でも噴くのだろう。
だがは目を大きく見開いたままかない。
「くそっ!」
コウスケは我慢が出來ずに飛び出した。
そしてすぐさま『強化』を施した拳でドラゴンの脇腹をぶん毆る。
「痛っ!、すぎるだろ」
拳は『強化』を施していたため砕けてはいないが、変わりにとてつもない痛みがコウスケを襲った。しかしそれほどの代償を払ったコウスケの攻撃は全くドラゴンに効いていないようで、チラリとこちらを見るだけだ。だが、あのから注意を逸らせることには功した。
「早く逃げろ!」
「あ、は、はい!」
はハッとして立ち上がろうとしていたが、一向に立ち上がれていなかった。
「早く!」
「こ、腰が抜けて」
「チッ、何で出ちまったんだか……」
現在コウスケはドラゴンと向き合い、出方を伺っている狀態である。一歩でもけば間違いなく殺される。その確信があった。そんな狀況下で、人一人助ける余裕なんてない。
コウスケは出てきてしまった後悔が脳裏を掠めるが、頭を振ってその考えを打ち消した。
今はそんな事を考えている暇はないのだ。
せめて武があれば。と未だヒリヒリする手の痛みをじながら思った。
始めにいたのはドラゴンだった。
突然口を開き、空気が乾く。
「まずっ」
慌ててコウスケは橫に跳んだ。
次の瞬間ドラゴンの口から炎が噴かれた。ギリギリで直撃はしなかったものの、炎の熱気で皮が焼ける。全強化をしていたため重癥には至らなかったが、やはり痛覚はかなりのものだった。
「不便すぎる」
何度も來るこの痛みに思わず愚癡をこぼし、拳を握る。
ドラゴンの方は余裕なのか、あえて追撃などはしてこない。それが未だコウスケたちの命を繋いでいたのだ。
込みしていても仕方がない。コウスケはドラゴンへ再び接近し拳を打ち付ける。何度も何度も。
「あァ、いってえなクソ!」
悪態をつきながらもコウスケは続ける。
相変わらずドラゴンにはダメージがないように見えるが、煩わしく思ったのかを振るってコウスケを引き離そうとしていた。の大きなドラゴンだ。その揺れに當たるだけでも怪我をするだろう。
「あ、あの」
ドラゴンから避けていると、いつの間にかの近くまで來ていたコウスケ。するとそのから聲がかかった。
「これ使ってください」
が手渡したのは、剣だった。コウスケには剣の知識なんてないが、良いだと信じて、それをけ取った。その剣を握った瞬間、ピリッという痛みが走ったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「どうも」
「い、いえ、私のせいで」
「それは後でだ、今はあいつをどうにかする」
謝ろうとしてくるの言葉を遮ってコウスケは目の前にいるドラゴンを見據える。
このままダラダラと攻撃を続けてもキリがないのは、今までの戦闘から分かっていた。
コウスケは剣を見る。これで何かが変わるかもしれない。そう希をもって、再びドラゴンへ駆け出した。
「はぁっ!」
剣を振るう。
拳をぶつけたときとは全く違う。あれだけ毆っても傷一つつかなかったドラゴンの皮に切り傷が生じた。
その痛みをじたのか、ドラゴンは先ほどとは違う視線をコウスケへと向けた。あの目には憤怒のが伺える。
「グラアアアアアアア!」
大きな咆哮を上げ、ドラゴンはさっきまでのきが噓のように素早くコウスケから離れた。
そして口を開く。ドラゴンの立ち位置はこの空間の端。下手すると、この場所全てを焼き盡くしかねない。更には後ろにはあのがいるため、避けるという選択肢もなくなった。
「防ぐっつってもなぁ」
愚癡をこぼしながら、コウスケは剣を前へと構え、吐かれるであろう炎に耐える構えを取る。それだけでは當然防げるわけもない。
「グラウンド」
足で地面を踏むと同時に魔法を唱え、目の前に土の壁を出現させる。それでもやはり炎を防ぐには心もとなかった。
「もうけるか?」
「は、はい」
コウスケは後ろのへ聲をかける。するとはゆっくりと立ち上がった。その様子を目で見て聲をかける。
「ならこっちに來い、焼かれたくなかったらな」
コウスケの言葉を聞くと、ビクッとした面持ちでが小走りで近づいてきた。
そのに対して、すぐさま鑑定をかけた。その結果を見てコウスケは言葉を失う。
「『鑑定』……は?」
名前 星野 月
種族 異世界人
レベル 20
スキル 聖剣 聖 聖域 鑑定
そのはコウスケと同じ異世界人。つまり勇者だった。それにかなり強いスキルを持っている。見事に聖盡くしだ。
「お前……」
コウスケは複雑な心境に陥った。同じ異世界人であるなら助ける義理は微塵もない。むしろ死ぬことを手助けする。
そんな事を考えている間にも、ドラゴンは息を吸い込み炎を出す準備をしている。さっきより息を吸い込む時間が長いことを考えると、本気で殺しに來ていることが伺えた。
「まあいい」
コウスケは先ほどの考えを頭の隅に追いやり、逆に運が良かったと考えることにした。
『スキル『聖域』を作りました。裝備しますか? 空きスロットは1です」
コウスケはもしものためにスキルスロットを一つ取っておいていたのだ。
もちろんそのスキルを裝備し、早速発させる。
「『聖域』発」
するとコウスケを中心としてオーロラのようなのカーテンが揺らめきながら出現した。
「え、それって……」
彼は自分のスキルを目の前にして驚きの聲を発した。何しろ自分ではない他人が使っているのだから。
それに見た限り、彼のこのスキルは彼しか持っていないような珍しいスキルなのだろう。それは彼の態度が語っていた。
そしてドラゴンが今までの比ではないほど強大な炎の塊を吐き出した。途端にこの空間の溫度が上がる。
土の壁とのカーテン。結果はどうなるかコウスケにも分からない。
ついに運命を分けるその二つが衝突した。
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