《負け組だった男のチートなスキル》第二十六話 引き渡し場所

現在コウスケは盜賊団の中に紛れて人質である辺境伯レイモンドを輸送している最中である。とはいってもコウスケがすり替わった盜賊はそこまで高い地位ではなかったため、この集団の端の方で警備していた。返って目立たない位置なので好都合ではある。ただ、辺境伯と打ち合わせをしておきたいという気持ちはあったが、殘念ながらそれは葉わなかった。

「もうしでけ渡し場所だ。何があるか分からん、警戒を怠るなよ」

この盜賊団のボスが聲を張り上げて、盜賊たちに喝をれる。ボスの位置はレイモンド卿のすぐ隣で歩いており、さらにその隣にも同じような立場の人がいた。

「すいません、親分の隣にいる人は誰なんですか?」

コウスケは隣で暇そうにしている盜賊へ訪ねた。

「ん、あの人か? んー、誰かは知らねえが、俺らをりあげてくれた立役者だな。ってそんなことも知らねえのか?」

「あ、ああ、そうでしたね。昨日は見なかったもので」

「新りか? まあいいけどよ。あのお方は基本的に夜はいねえよ」

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「そうなんですか、ありがとうございます」

コウスケは浮かぶ冷や汗を拭い、その盜賊から離れた。

「おいおい、いねえじゃねえか」

ボスが不満げな顔で聲をあげた。たった今ついたこの場所がけ取り場所なのだ。そして當然マリーと老人の姿はない。

「辺境伯様、あんたは娘に見捨てられたようだなぁ」

ボスは苛立った顔つきで辺境伯へそう言ったが、辺境伯は何も言わなかった。そもそも猿ぐつわを咬まされているので答えようがないのだが、それを踏まえても辺境伯は何一つ行を起こさなかった。

「クソがっ!」

ボスが辺境伯へ蹴りを放った。そして倒れた辺境伯へ向けて腰に攜えていた剣を取り出す。

「ボス、それは不味いんじゃ」

「あぁ? あいつらは約束を破ったんだ。こうなるのも覚悟の上だろ」

ボスは辺境伯目がけて剣を振り上げた。

「ボス!」

そこでコウスケが聲をあげる。

「何だ?」

一層不快な顔を見せるボス。周りの盜賊も目を丸くしてコウスケも見ていた。

そんな中、コウスケは一つの茂みへ歩みを進め、を中にれた。

「きゃっ!」

茂みの中から起こる悲鳴。

その聲の正は、今回の換相手、マリーだった。一瞬呆気にとられる盜賊たち。

「おお! そこのお前よくやった」

ボスはマリーを見つけてすっかり機嫌を良くし、剣をしまった。

そしてマリーに近づいていく。

「ずっとそこに隠れていたのかい? 怖くて出てこれなかったのか?」

ボスは気持ちの悪い粘つく聲を発してマリーの方へ近づいて行った。マリーはそんな男を前にして恐怖の表を浮かべながら後ずさる。

今の狀況はこの場の皆がマリーの方へ注目している。この隙を利用しない手はない。

コウスケはまずマリーの方を前方と見立て、一番後方へ移する。そこにいる盜賊がフッと視線をこちらに移すが、すぐにマリーの方へ移った。トイレか何かと勘違いされたのだろう。

「むぐっ!」

コウスケは前回と同じように首に腕を回した。だが前回と違い首をへし折り命を奪う。今回は、森にるときからコウスケの後をつけていたマリーの目がない故の行だった。前回は後ろに隠れていたマリーの目があり殺せなかったため、気絶だけに済ませたのだ。

一人、また一人と、『強化』を施した腕で命を奪っていく。だが、さすがに後方にいる盜賊だけしか隠には殺せない。しかも、そろそろマリーのが危ない。

「仕方ないよな」

コウスケは道袋から槍を取り出して、前にいた盜賊を貫いた。

「があああああ、な、なんで……」

當然、刺されれば悲鳴を上げる。つまり皆の注目はこちらの方へ移した。

「は? 何をしてるんだよ、お前!」

「一人やられたぞ! ……いや、かなりやられてる!」

「お前らあああああ! あのクソガキを殺せえええええ!」

次第に狀況を理解し始める盜賊たち。だが理解した瞬間に次々とやられていく。

コウスケは周りの盜賊に槍を振るって対処し、魔法で遠くの盜賊を焼く。だがまだ足りない。これでは數で劣るこちらが負ける。しかも、ボスはこの狀況でもマリーの傍を離れていない。

「仕方ないよな」

コウスケは一息吐き、スキルを発した。もちろん全に『強化』だ。

「な、なんだこいつ!?」

盜賊たちはコウスケの力に怯み始める。

しかしコウスケの持つ武は槍だ。『強化』を使っても薙ぎ払っても人が斬れるわけがない。つまり薙ぎ払われた盜賊は、コウスケの『強化』された力によって宙を舞うことになる。そこに追撃をして突き刺せば深手を負うし、そのまま地面に落下してもダメージを與えられる。一番の効果は、仲間が次々と宙を舞う景を奴らに見せつけ、脅えさせることだった。

「無理だ、こんな化け……」

「おいおい化けって酷いこと言うなぁ」

どす黒い笑みを浮かべてコウスケは呟いた。それでも手は止めず盜賊たちを的にも神的にも壊していく。

今のところは順調だった。だが一つだけ懸念があるとすれば、あのボスの隣にいたフードを被った人である。だがどういうわけかその人こうとせず、この景を眺めているだけだった。それはひどく不気味ではあるが、好都合であることは変わりない。

「お前らああ! 敵一人にビビってんじゃねえぞ!」

ボスの叱責が飛ぶ。ボスは相変わらずマリーの傍。つまり一番戦闘から離れたところにいる。

「おいおい良いのか? お前らのボスはあんなところで偉そうにを侍らせているが」

コウスケはとりあえず不信を抱かさせるような言葉を口にしてみる。効果があるかどうかは分からない。

だがしでも隙が生まれれば儲けだ。

「そ、そんなこと関係ねえ」

「そ、そうだそうだ」

思った以上に盜賊たちの心は揺れたようだ。死の危険から逃げ出したいという気持ちが生まれてしまったのだろうか。

「じゃあ死んでくれ」

「う、うああああああ」

捨てとばかりに盜賊たちがやけくそに襲い掛かってくる。こんなにやりやすい相手はいない。

「なんなんだ……」

もう盜賊たちの半數はコウスケの手によって戦闘不能に陥っていた。殘る半分も戦意を喪失しそうな顔だ。

「お、お前ら! しっかりしろ!」

ボスの言葉にもはや力はない。だが律儀にも裏切るような輩はおらず、震えた手つきでコウスケに対して剣を向けていた。

「偉いね、ゴミのくせに」

呆れた表を浮かべコウスケは槍を振りかぶる。目指す対象はこの団の頭、ボスだ。下手すればマリーに當たるかもしれないが、その時はその時だ。

「っ!」

その時だった。コウスケの視覚、聴覚が一瞬で消えたのは。加えて、を焼く熱風、その風によって弾け飛ぶ土の塊。間違いない。これは撃だ。

最悪なことに『強化』を全に作させていたツケがここで來てしまった。過剰な覚がコウスケに襲い掛かって、まともに働かない。

「全く、手間をかけさせやがって」

そう言い放ったのはボスではない。恐らくあのフードの男だ。

「はっ!」

コウスケは懐に忍ばせていた短剣を投げる。狙いはその男ではなく、ボスの方向だ。一度投擲しようと構えたので、あいつが移さえしていなければ見當違いの所にいくことはないはずだ。

「はっ、こんなものが當たるかよ!」

ボスの勝ち誇った聲が聞こえてくる。やはり避けられてしまったようだ。

だが、これでいい。

コウスケは小さく笑みを浮かべた。

「やってくれ、爺さん」

コウスケのその言葉の後に聞こえたのはボスのび聲とマリーの戸ったような聲だ。

「ぐあっ、だ、誰だ」

「え!?」

ボスは苦し気な表で後ろを振り向く。

そこには、辺境伯邸の執事、あの老人がボスの背中にコウスケの投げた短剣を突き刺していた。

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