《負け組だった男のチートなスキル》第二十八話 復讐相手
目の前に黒目黒髪の男。猿梨 登。コウスケが迷宮落ちした間接的な原因を作った人である。
名前 猿梨 登
種族 異世界人
レベル 30
スキル 発 鑑定 通知
以上が奴のステータスだった。やはりあの時と比べるとレベルがかなり上がっている。それだけ時が過ぎたということだろうか。レベルだけで言えばコウスケの方が上だが、こいつらの補正能力は計り知れない。
だがスキルはパッとしないものばかり。正直ガッカリだった。
「助、生きてやがったのか」
「お様で」
「っち」
登が苛立った形相で次々と石ころを投げてきた。その全てがコウスケの手前で発する。舞い上がり、砂埃で視界が悪化する。目くらましのつもりなのだろう。だがそうはさせない。
すぐさま全に『強化』を施し煙の中に飛び込む。覚が研ぎ澄まされている今なら視界がなくとも捉えられる。
「そこだ」
「なっ、なんで」
恐らく登の服の裾を摑んだ。それと同時に戸う登の聲が聞こえて、思わず笑みが浮かぶ。
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そしてその裾を力の限り引っ張る。
「うわっ」
ドサッと、地面に何かが叩き付けられる音がした。目で確認するまでもない。登だ。
「その力……」
「どうした?」
「雑又の……いや、ありえねえ」
ようやく目星がついたのだろう。実際にその答えは正しい。答え合わせをする義理はないが。
「そろそろ死んどくか?」
「助の分際で……」
登は手に持った剣をコウスケの方向へ向けて地面をった。何がしたいのか分からないが、何か空振りでもしたのか。
「死ね」
登の笑みを見た瞬間、コウスケは背筋がゾワット震えるのをじた。まさかとは思うが、奴の剣でられた土の粒、全てが発するなんてことはあり得ない、と思いたかったが現実は甘くはなかった。
「クソッ、『聖域』」
使いたくなかった奧の手のの一つをコウスケは発した。
「あっぶねえ」
間一髪の所で『聖域』が発し、発からを守ることが出來た。
登はそれを見てますます表が歪む。それもそうだ、これは月のスキル。奴も見覚えがあったのだろう。
「は、はぁ? それって……」
「何だ? 俺の・・スキルが珍しいか?」
「ふ、ふざけんなよテメエ」
何もふざけてないのだが、勝手にキレる登。そして登は剣を片手にコウスケへ近づいた。だがコウスケは後ろへ下がり距離を取り続ける。何せ今は、手持ちの武が何一つないのだ。短剣は老人が持ち、槍は先ほど投げてしまった。
「ああ、そうか、お前武がねえんだな?」
勝ち誇った顔を浮かべる登。表をコロコロ変える奴だ、とコウスケは心呆れる。こちらは腕一本ぐらい犠牲にしても勝てば良いという覚悟があるのだ。武の有無なんて関係ない。だがしいと聞かれればしいのは確かだ。せめて勝手に戻ってきてくれたらどれだけ楽だろうか。
そう思ったのがきっかけなのかは分からない。
「おっとっと、ってことはあの時はマリーじゃなかったのか」
コウスケの手には槍が握られていた。先ほど思ったように勝手に戻ってきたのだ。ちなみにコウスケ自は何もしていないし、他にそんなことをしそうな人はどこにもいない。つまりこの槍の機能なのだろう。
「また奇妙な事を……」
何度目か分からない表の変化を見せる登。もうそろそろ顔が疲れないのだろうか。
「じゃあ、殺すわ」
「っ!」
一瞬で間合いを詰めたコウスケに脅えた表を浮かべを反らす登。その直後、さっきまで登がいた場所には槍が突き刺さっていた。コウスケが槍を振り下ろしたのだ。
だが彼が驚いたのはこの攻撃だけではなかった。突如変化したコウスケの雰囲気に気圧されたのだ。今のコウスケは先ほどの苛立っていたコウスケとも、ひょうひょうとしていたコウスケとも違っていた。
登は目の前の男に脅えていたのだ。だが彼がそれを認めるわけもない。
「クソッ、クソッ、クソ」
ヤケクソに剣を振るい始める登。だが今回は先ほどとは違い、まるで何も考えていない余裕のない振りだ。これでは當たるわけもない。
「つまらないなぁ」
コウスケは無表で登の肩を槍で貫く。
「あああああああ」
痛みでのたうちまわる登。それを冷めた目でコウスケは見る。これだけで済ますわけがない。だが以前の自分はこんなにも弱い存在に負けたのかと思うとけない気持ちが生まれる。
槍を引き抜き、もう一度同じ肩を刺す。再び引き抜き、刺す。もう一度。もう一回。二度と使えなくなるように。
「や、やめて、い、いたい」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で懇願し始める登。こいつのこんな顔を見ることになるとは夢にも思わなかった。笑いが込み上げてくる。
「ハハハ、お前もそんな顔になるんだな」
「や、やめて」
そんな願いなんて聞くわけもない。コウスケは槍を引き抜いた。その痛みで顔が引き攣る登。このまま死んだほうがマシだと考えているのだろうか。そんなことするわけないのだが。
コウスケは両手で槍を握り、思い切り振り上げる。狙いは右足の付けだ。
「ああああああ!」
「うおっ!」
その隙を登は見逃さなかった。恐らく最後の力を振り絞ってコウスケを蹴り飛ばし、必死に離れていったのだ。その姿はあまりにも稽で追撃する気にもならない。
「はぁはぁ、ぶっ殺してやる」
憎しみを込めた目でコウスケを見る登。あれだけされても未だ殺意を向けてくるとは天晴だ。
だが奴の攻撃パターンは既に見切っている。剣を振るうか、石などを使って撃をしてくるかだ。
その思いが油斷をったのかもしれない。
登はコウスケが予想もしない手を打ってきた。
二つしかない攻撃方法のの一つである剣をこちらに投げてきたのだ。
「な!?」
さすがに予想外だった。だがそれがヤケクソだと思っていたコウスケの考えは次の瞬間消え失せる。
「発だあああ!」
剣がコウスケの真橫でぜた。撃だけなら今まで通り距離をとれば良かった。だが剣という石と比べても大きい質で、かつ鉄というい素材だ。それを考慮してなかった。
「っつ、破片が」
剣が裂し、鉄の破片が飛び散ったのだ。それも凄いスピードで。
當然、近くにいたコウスケのに破片は襲い掛かり、傷を作っていく。しかも『強化』を解いていたので簡単に皮は裂けていく。もし『強化』をしていても痛みは倍増していたのでどっちもどっちだが。
コウスケは腕をの前に持ってくる防の姿勢をとって破片や風からを守った。それを奴は待っていたのだろう。
「これで終わりだ!」
どす黒い笑みを浮かべた登がコウスケの目に映った。手には大き目の石を持っている。
本日何度目か分からないが、確実なチャンスに乗じて登はそれを投げた。
コウスケの脳が生命の危機と判斷したのか、石がこちらへ來る時間の流れがとても遅くじ、それが確実にこちらへ飛んでくることを確信させる。そのまま石が當たっても額が割れるくらいはあるだろうし、発すれば間違いなく命はない。しかもドラゴンを退治した後に気づいたことだが、『聖域』は連発出來ないらしく、今はもう出せない。それ故の奧の手だったのだ。
登は勝利の笑みを浮かべていた。だが対するコウスケもどういうわけか笑みを浮かべている。
「死ねえええええ」
登の聲を耳で捉えながら、コウスケは飛んでくるその石を摑み取った。
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