《負け組だった男のチートなスキル》第三十話 知識

コウスケは森の中を進み続けた。どこに何があるのか正確なことは分かっていないが、一つだけ知っていることがあった。それは、この森が三カ國にって生い茂っているということだ。つまり、アリウンス王國とセントリア公國のある方角とは逆に進めばまた別の國にれるということになる。

結局、騒に巻き込まれたせいで休息なんてほとんど得られなかったが仕方がない。それにそもそもセントリア公國に長く留まるつもりはなかった。

あくまで目的地は魔人族の國である。加えて、勇者の一人をあそこまで痛めつけたのだ。異世界人とそれを使う王族がいるアリウンス王國にバレしてしまえば、その國に近いセントリア公國ではの危険がなからずある。そんな國に長居するわけにもいかない。

であれば、あまりこの國にいた痕跡を殘さないために、すぐに移してしまおうとコウスケは考えたのだ。

マリーはきっと怒るだろう。結局何も恩返しをさせてもらえなかったのだ。気持ちがモヤモヤするのは目に見えている。

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コウスケはマリーのそんな様子を思い浮かべ苦笑いを浮かべた。次に會う時が怖いな。そう思いながら。

「また一人か……」

靜かな森の中を歩きながらそんなことをコウスケは呟いていた。もちろんその呟きに答えてくれるものはいない。一人とはそういうものだ。

自分から一人になったのだが、やはりどこか孤獨をじている自分がいるのをじていた。

「グルルルル」

「魔か……」

そんな寂しさをじていると、いつものようにオオカミの魔が現れた。寂しさを紛らわせるべくコウスケは素手で対峙した。

「おらあああ」

『強化』も何も施していない手で、魔を毆りつける。當然、即死させるほどの威力はないが、十分効いたようで、魔はすっかり脅えた様子で後ずさっていた。

そこで槍を取り出し、狙いをつけ投擲する。

「ギャァア」

見事魔の頭部に槍は突き刺さり、絶命させた。こういう時に練習しておかないといざという時に當たらない。魔も殺せて、練習も出來る。一石二鳥だ。

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もはや慣れてしまった魔の死を解して、の部分を食らう。相変わらず不味い。そこで思った。マリーにせめて調味料を貰っておけば良かったと。

「あぁ、まだまだ味しい食事は先かぁ」

ボソリと不味いを口に含みながら呟く。辺境伯邸でケーキならぬケイクを食べたが、あれはデザートであり、メインではない。ということは窟にってからコウスケはまともな食事をしていないことになる。これではえていた舌も貧しくなりそうだ。良いことではあるのだが。

その後、念のために『超覚』を発させたこともあり、誰かが近くにいることが分かった。

人がしいというわけでは決してないが、コウスケは立ち止まりその人の気配がする場所を向く。

「おや、相変わらず警戒心がお強いようで」

「爺さんか」

そこにいたのは、あの辺境伯の執事だった。今頃マリーと共に辺境伯の元に行っていると思ったのだが。

「どうしてここに?」

「これをお返ししようと思いまして」

老人が手渡したのは、あの時投げたままにしていた短剣だった。

「ああ、そういえば」

「コウスケ殿、このままどこかへ行くつもりですかな?」

「そうですね」

コウスケは迷いなくそう答える。

「そうですか……分かりました。何やら事があるご様子。お嬢様には私から話をつけておきます」

「それは助かります」

これでマリーに文句を言われはするだろうが、恨まれることはなくなりそうだ。それにしても短剣を渡すためだけに彼はここに來たのだろうか。

「もう一つよろしいですかな?」

「何でしょう?」

「コウスケ殿は異世界人なのですか?」

「……聞いてたのか」

老人の言葉に驚きはするが、この世界では結構異世界人に対する認識が浸しているはずなの、心臓が飛び出るほどは驚くことはない。

「申し訳ない。仕事がらゆえ」

「俺の認識では、執事と盜み聞きが繋がらないんだが……」

「そうですかな? それはワールドギャップというものですな」

「ジェネレーションギャップ見たいに言わないでくれ」

呆れた表で指摘するコウスケ。

だがこういうやり取りは本當に久しぶりかもしれない。

「で、俺が異世界人なら何か関係が?」

「いえいえ、ただの好奇心でございます。異世界人なのにそれらしい風貌を持たないコウスケ殿に」

「それは……々事があって」

「詳しいことは聞きますまい。どうやら同郷の異世界人との関係も複雑なご様子ですし」

「詳しいことを知ってるじゃないか……」

食えない老人だ。そう本心から思うコウスケ。

「では、換條件としてこちらも何か報を與えましょうか」

「賛だ。特に地理について教えてほしい」

「地理ですか、なるほどこの世界の教育さえ教え込まれていないと」

「おいおい、そっちが教える番だろ、詮索してどうする」

相変わらずの老人の態度。思わず苦笑いが浮かぶ。

そこへ老人が一枚の大きな羊皮紙を出した。どうやらこの近辺の地図らしい。

そして斜線が引かれた場所を指さして言った。

「ここがコウスケ殿が今いる場所でございます」

恐らく斜線は森ということなのだろう。そしてこの地図を見る限り、もうし西に行けば、アルカナという國にたどり著く。

「アルカナという國は、三つの亜人種が同盟を組んで創られた國でして、アルカナ連合という名が正式名稱となります」

「アルカナ連合」

「コウスケ殿は亜人種をご存じですかな?」

老人からの問いにコウスケは、キィンクの事を思い出した。確かハーフエルフとか言っていた気がするつまりエルフ族がいるというわけだ。なら後の二つで思いつくものは――

「エルフ族と魔人族しか分からないな」

という結論に達した。今まで見てきた限りではその二つしか変わった容姿を持っている人を見たことがないからだ。とはいえその一人は自分なのだが。

「おや、コウスケ殿、魔人族は亜人種にはりませぬぞ」

「そうなのか?」

てっきり魔人族も亜人種にると思っていたコウスケは目を丸くさせる。ならもう二つは何なのだろうか。

「まあどこからが亜種な人種なんて定義は出來ませんが……」

「つまりは差別用語ってことか」

老人の顔からコウスケはそう判斷した。彼は亜人というたびに言いずらそうにしていたのだ。だがそれ以外でその人種を表す言葉がないのだろう。

「そうなりますが、今はそこではありませんな。アルカナ連合を形する亜人種は獣の容姿を持つ獣人族、小柄な格が特徴の小人族、そしてコウスケ殿がおっしゃったエルフ族、正確には長耳ちょうじ族と言います」

「長い耳からか」

「そうです、そして彼らは全人種の中でも長生きであるため、長壽族から名前が変化していったという話もありますな」

老人の知識は結構深いようだ。それに結構役に立つ。

「これからコウスケ殿がアルカナ連合へ行くということですので、一つ注意を」

「なんだ?」

「彼らは基本的に排他的な種族です。つまり魔人族や人間族などを見ると、人によっては良く思われないということを覚えておいてください」

「分かった」

道理で他の國ではあまり見なかったわけだ。人種で嫌うという神はあまり好かないが、何か歴史の背景でもあるのだろうか。とコウスケが考えているのを察したのか、老人が口を開いた。

「何故排他的なのかというのは、昔の大戦によって彼ら亜人は、人間族と魔人族の奴隷として使われた過去があるからです」

「奴隷?」

「そのご様子だと、奴隷を見たことがないようですね。今は大っぴらには奴隷の使役はされていませんので仕方がないですが、裏では今でも確実にあるのが現実です」

老人の言葉に、コウスケは拳を握った。人が善人を強引に従えさせるなんて蟲唾が走る。

「やはり顔に出やすいお方のようだ」

「顔に出てたか?」

老人が笑顔でコウスケにそう告げ、指摘されたコウスケは自分の顔をペタペタとる。

「そりゃあもう、初めてあったコウスケ殿と今の顔を比べると幾分かスッキリしておられるのも丸分かりですよ」

「そう、か?」

自覚がないだけ、し恥ずかしい。それにスッキリした原因は十中八九、登を痛めつける事が出來たからだろう。

「コウスケ殿、気をつけて下さい。決してその闇に呑まれてはなりません」

「闇……」

老人は全てをお見通しとばっかりにコウスケに告げた。確かにコウスケの部には闇が存在するのだ。しかも今までは抑えられてきたこの黒いは、登を目にした瞬間に暴走し溢れ出したのだ。自分でも危険な事は分かっていた。

「おっと、そろそろお嬢様がお呼びになる頃になってしまいました」

々お世話になった」

老人に対して素直に謝の気持ちを向ける。こうして他人から報を聞ける機會など滅多にない。

「では、コウスケ殿またいつかお會いしましょう」

「その時までには、マリーが怒らないようにしてくれ」

二人とも笑顔を浮かべながら、同時に後ろを振り向き、歩みを進めた。

目指すは、亜人族の國アルカナ連合だ。

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