《負け組だった男のチートなスキル》第三十二話 表
コウスケは歩いた。ひたすら歩いた。もう何キロ歩いたのか分からないほど歩いた。
「やっとついたぁ」
目の前に人里らしきものが現れた時には、もう足腰の力がフッと抜けるほど歩いた。
フラフラしながら、コウスケは里のり口の近くまで歩いた。
その里は、相変わらず森の中ではあるものの、今まで通ってきた道と比べると、木がなく見晴らしはスッキリしている。いわば林だった。と言っても正確な森と林の違いは分からないが。
「おや、珍しい旅のお方ですな」
里のり口にたどり著いたところで、長耳族の老人が現れた。先ほどの長耳族の青年より態度がらかい。
「……泊めてくれるとききまして」
「どうやら長旅のご様子、ささ、早く中へおりなさい」
案外すんなりと里の中へ案された。その警戒の無さに逆に警戒してしまう。
「どうしてこの里は他種族をれるんですか?」
「もしかしてアルカナ連合國は初めてで?」
「はい」
何かこの國特有のルールでもあるのだろうか。
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「ではし話をしましょう。ああ、そこにお座りください」
「ありがとうございます」
「いえ、ところでお名前をお伺いしても?」
「コウスケと言います」
「コウスケ様ですね。私はナリオスと申します」
一つ大きな家の前に連れてこられた、コウスケは家の庭にあった木の椅子へ座り、ナリオスの話を聞くことにした。さすがにこのまま無知では最悪殺されかねない。
「アルカナ連合は、三つの人種の他種族國家なのは知っていますか?」
「はい、そのくらいなら」
「ですが、未だ他種族に対して差別をする者がいるのです」
「それは、その三種族間にもあるんですか?」
「ええ、お恥ずかしながら」
コウスケは驚いた。亜人種と呼ばれている彼らの中でさえ、人種問題があるというのだ。
だが良く考えると、地球でも無かったと言えば噓になり、それが人の醜さを表している。
「そして殘念ながら、そう言った考えを持つ者が権力を握ってしまっておったのです」
「それは大変ですね」
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人種差別するような奴が國の頂點に立てば、いずれ孤立するのは目に見えている。危ない考えだ。まあ、過去形なので今はどうか知らないが。
「コウスケ殿はこの國の政治制はご存知ですか?」
「いえ、分かりません」
「この國は、元々三つの國が連合を組んで出來た國でして、その名殘が今でも殘っておりまして、その一つが、族長制度、つまりこの國の元首は三人おるのです」
三人も元首がいれば國としてきにくくなりそうなものだが。
そのコウスケの考えを見越したように、ナリオスが口を開く。
「そのためこの國、アルカナ連合は未だに三つの國に分かれているような現狀なのです」
いわば同盟國家で、それぞれが獨立しているようだ。それではもはや一つの國とは言い難い。
「ですが、新しく襲名した第五代獣王を筆頭に、今の三元首様たちは聡明な方々で、今一度アルカナ連合國を一つの國としてまとめようとしてくださっています」
「獣王ですか」
獣王。なんて威厳のある響きだろうか。名前だけでもうすでに強そうだ。
「それから話は戻りますが、この里のように全種族に対して寛容な里とそうでない里があるのかという答えは、以前の元首様の名殘ということになります」
先ほど言っていた差別主義な権力者のことだろうか。
「先代元首の中でも、長耳長が特に排他的なお方で、獣人や小人でさえ里の出りをじる政策を出してしまい、未だにそれが続いてしまっていのです」
「つまりここら一は、長耳族の土地で、この國の中でもひと際他種族に厳しいと」
「そうなります」
それを聞いてコウスケは項垂れた。よりにもよってそういう土地にってしまうとは運がない。
「一つ聞いてもいいですか?」
「はい、何でもおっしゃってください」
「この森の南には何があるんでしょう?」
ここを案してくれた青年の言葉を思い出す。絶対に南に行くなという言葉を。
「南には、長耳族の舊首都があります。先代長耳長の影響を一番けているので、他種族は近づかない方が良いでしょう」
「そうだったんですか」
あの青年の警告は正しいものだったらしい。好奇心で近づかなくて良かった。
「ひとまずこの程度でしょうか。コウスケ様はこの家の一室をお貸しいたします」
「この家の?」
「はい、申し遅れましたが、私はこの村の村長をやらせていただいております」
ナリオスの発言にコウスケは言葉を失った。穏やかな口調から育ちの良い人だということは分かっていたが、腰が低く、なりも言っては何だが貧相である。そんな人がまさか村長だとは驚くに決まっている。しかも、今までため口で話していたことかどうかを思い出し焦るが、相當無禮な態度だった気がする。
「コウスケ様、改めてかしこまらなくてもいいですよ。村長とはいってもこんなに小さな村では権威なんてないも同然です」
「そうはいっても……」
「いいんです」
「分かりました」
本人から良いと言うなら斷る理由などない。ただこの村の村人からどういう目で見られるかだけが気になるだけだ。
とはいっても、今の所村人らしき人々は見當たらない。家の中にいる気配はするのだが、外に出ている者はいなかった。
コウスケは疑問に思いながらも、村長の家へった。
「どうぞどうぞ、汚らしい家ですが」
「いえ、泊めて下さり謝します」
相変わらず腰の低い村長に、若干のやりにくさをじるが、逆に高慢な態度で來られても癪に障るのでこちらの方がいいと、思いながらコウスケは案された部屋へと赴いた。
「こちらをお使いください」
「ありがとうございます」
部屋は比較的綺麗な部屋だった。とはいっても、やはり貴族のマリーに紹介された部屋よりは劣る。しかし、今まで野宿だったコウスケにはどちらも天國であることは変わりない。
「では、お食事の用意が出來ましたらお呼びいたします」
「あの、お金は?」
「いいのです、困っているときはお互いさまですから」
本當に良い人のようだった。対価を求めない善意が本當に存在するなんて正直驚きだ。そもそも善意は対価を求めないものなのかもしれないが、なくともコウスケにはそんな発想はない。
コウスケは部屋にあったベットに腰掛け、今日聞いたことを思い出していた。
この國は半ば分裂狀態だということ、だがそれを改善しようと元首たちが努力していること。
心、面倒くさい事を抱えた國に來てしまったというところが本音であるが、部外者である自分が何かをしようというものではないので、気楽にいくことにする。
夕食にはまだ時間がありそうなので、コウスケは久々のステータスを確認することにした。
名前 コウスケ・タカツキ
種族 異世界魔人
レベル 49
スキル 技能創造 隠蔽 鑑定 聖域 強化 吸収
思ったよりレベルが上がっていない。やはり數字が高くなればなるほど上がりにくくなるのだろうか。しかも、スキルスロットも増えていないので、特にすることがなくなってしまった。
やることもないので、ベットに寢転がりながら、短剣を取り出し、クルクルと手元で回す練習を始める。手先が用ではない方なので、こういう暇な時間にしでも練習しておくことは無駄ではないことを知っているからだ。
そんなこんなで暇をつぶしていたコウスケの元へノックする音が聞こえた。
「コウスケ様、お食事の用意が出來ました」
「はい、今から行きます」
コウスケはその呼びかけに、ベットから起き、ナリオスの元へと向かった。
「おぉ」
食卓に著くと、そこには既にとりどりの料理が並べられており、コウスケは思わず聲を上げた。
そんなコウスケにナリオスが笑顔を浮かべ、若干の恥ずかしさを抱きながら椅子に座る。
「どうぞ召し上がってください」
「はい」
ナリオスに勧められるままに、コウスケは恒例行事の手合わせを行い、食事に手を付けた。
「あれ? ナリオスさんは食べないんですか?」
コウスケは食事にがっつきながらも、未だに手を付けていないナリオスに不思議な視線を送る。
「いえ、長耳族はあまりを好まない種族なのです。ですので自分用は別で作ってありますので」
「そうなんですか」
それでも、一緒に食べればいいだけの話なのだが、何かそこにも長耳族ならではの決まりでもあるのだろうか。
家の主が食べない中、自分だけが食べるのはいささか気が引けるが、本人が言うのだ。考えるのはやめて食に徹しよう。
「ふぅ、味しかった」
「後は私が片付けますので、コウスケ様はお部屋でお休みください」
「手伝いますよ?」
「いえ、それくらいなら一人でやり慣れておりますので」
かなりの善人っぷりに恐れる。
最近、こちらが折れる方が圧倒的に多い現狀に、コウスケはこの世界の人はみんな頑固ものなのでは? という結論に達しそうな勢いだ。
とはいえ、ここは素直に引いておき、先ほどの部屋に戻った。
「ふぁ、々疲れたなぁ」
ベットに橫たわりながら、欠をして、コウスケは重い瞼を閉じた。
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