窟にるまでには、いくつかの試練があった。一つは、魔たちが出りをしょっちゅう行っているため、タイミングを間違えれば中、外にいる魔全員を相手にしかねないということ。ならじっくり時を待ってればいいだけなのだが、それが出來ない理由が、もう一つの問題點になる。それは、この付近へ近づいてくる里の住人の存在だった。

恐らく偶然近くまで來ているその住人が、もしこの魔の集団と出くわしてしまえば、無事では済まないはずだ。ただ住人が一人殺されるだけなら良い。だがその出來事によって魔たちが警戒を強めるのは困りものだ。

正確かつ迅速に行しなけらばならないこの現狀を打開する案は……

「あ、良いこと思いついた」

今まで考えていた正攻法ではないやり方。ここが現実であって、ゲーム何かとは違い自由な世界ということ。

コウスケは地面に手を置き、魔法を呟いた。

「グラウンド」

結構大きめの壁をイメージした。

ゴゴゴと地面が震え、地鳴りが起こる。そして、狙い通り巨大な土の壁が窟のり口を塞いだ。

「よし」

誰も窟を攻略するには、中にって皆殺ししないといけないなんていう決まりを作ったのか。いいや作っていない。なら、こんな風に窟としてり立たなくさせる攻略方法もあるのだ。

突然窟が塞がったため、外にいた魔たちは混を起こし、それぞれがバラバラに行し始めた。そうなればこっちのものだ。

「まず一匹目」

近くを通りかかったオオカミ魔に跳びかかり、短剣でを裂いた。

それに気づいたもう一匹の魔に対しては、短剣を投げ、眉間に突き刺さり絶命させる。

さらにもう一匹來たなら、もう『強化』による力技で強引に蹴り飛ばし、首の骨をへし折った。

「ふう、これで後は……」

オオカミ型はこれらで全てだった。殘るは、イノシシ型の中型種とウサギ、リスなどの小型の魔だけだ。魔だと分かるのは赤い目だけで、見た目そのものはただのと相違があまりない。しなまぐさいだけだ。

これらの魔で襲い掛かってくる奴には短剣で対応し、逃げるものには、すかさず槍を取り出して投擲した。

そしていつの間にか辺りには死の山との海が広がっている。ハッキリ言って不快だ。

「ファイア」

気持ち悪いので、辺り一面に赤黒い炎を発生させ、全て焼卻する。以前ならくらいは殘して食べていたかもしれないが、今はちゃんとした食事があるのだ。わざわざ不味いなんて食いたくない。

しばらくその不気味な炎が燃え盛るのを眺めていたコウスケは、次に窟のり口があった場所へ視線を移した。恐らくここにいた魔より多く中にはいるはずだ。

このまま放置してもいいのだが、別の出口があると意味がない。

そのため、コウスケは槍を手に持ち、窟を塞いだ壁に突き刺した。

槍を抜くと、小さなが出來た。だがそのを通り抜けられるような魔はいないので、問題ない。

「ファイア」

コウスケは、そのを手で塞ぐような形で置いて、魔法を唱えた。それもとびっきり大きな炎をイメージして。

窟の中の狀態は分からないが、魔のび聲らしきものが中から聞こえてくるので、作戦は功したと思われた。

そう思って、壁から手を放したところで事は起こった。

それは腹の底に響くような低い音。

何かが激しくぶつかる音が、壁の中から響き渡ってきた。

コウスケは直でまずい、とじとり、直ぐに後ろへ跳びのいた。

その瞬間だった。あの大きな土の壁が木っ端微塵に弾け飛び、その破片が辺りに飛び散りコウスケを襲う。それと同時に砂埃が舞い上がる。

今まで見てきた魔の中であの壁を壊すことが出來て、炎に耐のある魔などドラゴンくらいしか思い浮かばない。だがそんな巨大な化けがこの小さめの窟にいるとは思えない。

「何が出てくる……」

未だ舞う砂埃を煩わしく思いながら、窟方向を睨み付ける。今の所足音は聞こえてこない。ドラゴンのような大きな生であれば當然足音が響くのだが、それがないということは大きな生でないということか、それともその場からそいつがいていないのかのどっちかだ。コウスケは後者だと思っていた。

「おかしい」

いつまでたっても足音が聞こえてこない。てっきりが大きすぎて窟から出てこれないと思っていたのだが、そうではないのか。そんな考えを巡らせている時だった。

「っぐ！」

コウスケの鳩尾に何者かによって打撃がった。『強化』を行っていないため、覚的には痛みは小さいが、やはりけた場所が場所なのでコウスケは苦しげにむせた。

覚的に次も來るとじ取ったコウスケはすぐさま『強化』を行い防の姿勢をとった。

「っつ！」

「いってっ！」

その場で同時に二人の聲が響いた。もちろん一つはコウスケのものだ。

「急にくなりやがった、お前どんな筋してんだよ」

「……人？」

視界が悪いままなのでその相手の姿が見えないが、発する聲は間違いなく人の言葉を話していた。

「他に何に見えるってんだよ、あ、見えてねえのか」

聲は続く。だが、その聲の主は攻撃を続ける。コウスケは『強化』の副作用で、相手方は『強化』の作用で共に痛みを伴っており、二人のき聲が響くのだった。

「はぁはぁ、お前すぎだろ……って、同族か？」

「魔人族……」

砂埃が晴れて互いに顔を確認しあう。

相手の顔は、真っ赤な瞳に真っ赤な髪を持っている人だ。実際に魔人族を見たことがなかったコウスケだったが、一目でそれが魔人族だと分かった。まるで人型の魔獣だ。

「まさか……同族とはねぇ、ん？　お前ハーフか」

結構この赤黒い髪は目立つようだ。

とはいえ実際はハーフではないのだが、そう思っているならそう思ってくれたままでいいか。

「ここで何をしている？」

コウスケは尋ねた。ここが魔人族がいる場所ではないということぐらい知っている。

「なーに、簡単な事さ」

得意げに口を開く魔人族の男。

「敵國に潛んでるってことは一つしかねえだろ？」

「スパイってことか」

「まーそんなじだ」

簡単に事を話していく男。同じ魔人族だからなのだろうか。口が軽い気がする。

「で？　お前は何でここにいんだ？」

目を細めて男がコウスケへ問いただす。

「迷子だ」

「……は？」

予想外の答えだったのか、男は拍子の抜けた表を浮かべた。何も冗談は言ったつもりはないのだが。

「はっはっはっは、面白いなお前」

「いや、本當の事なんだが」

「噓だろ？」

「本當」

「……本當に？」

「ああ」

一時この場に沈黙の時が流れる。

「とりあえず、お前はどこの國のもんだ？」

「國籍不明」

「っぷ、じょ、冗談は良いんだって」

吹き出す男。だから冗談は言っていない。

「本當だって」

「マジか」

「ああ」

そんな同じようなやり取りを繰り返した後、ようやく本題へる。

「で、お前だろ？　窟のり口を塞ぐばかりか、炎を中に放出した鬼畜野郎は」

「良い考えだろ？」

「お様でこっちは死ぬかと思ったんだが」

「ちょうどいいじゃねえか」

「何がちょうどいいかわからねえが……」

なぜか、コミカルな會話を続ける二人。本來ならここで戦う場面であるはずなのだが、魔人の格と、コウスケの天然が見事に合致してしまいおかしな空間となっていた。

「何はともあれ、國の関係者じゃないなら、俺はお前を殺さなきゃならねえんだ」

「急にかよ」

いきなり戦闘モードにる魔人。し遅れてコウスケも短剣を手に忍ばせた。

「でだ、なぜお前は窟に火を放った？」

「そりゃあ、魔がいるからだ」

「何故、魔を殺す？」

「村に被害が出ないようにだ」

いつもなら、邪魔だからと答えていたのだが、今回ばかりは人助けのためだった。

それが行けなかったのかもしれない。

魔人の顔つきが変わる。

「そうか、なくともお前はこの國の味方ってわけか」

「まあ、そんなところだ」

「じゃあ……死ね」

そうして不思議な形で戦闘が始まった。