《負け組だった男のチートなスキル》第三十五話 同族
コウスケは目の前にいる魔人族の男を観察する。見た目はコウスケより長が大きいものの、格自はそこまで凄まじくない。どちらかというと細いくらいだ。だが、油斷は出來ない。何しろあの閉空間で放った炎を耐えきった上で、土の壁まで砕したのだ。きっと何かがある。
「あー、一つだけ言っとくぞ。鑑定しても無駄だ」
「何だと?」
「あれ? 鑑定してんじゃねえの?」
彼の言うことは正しかった。今、コウスケの目の前には奴のステータスが表記されている。だがあるスキルのせいで全く信用ならないものだったのだ。
名前 アリゴラウス・トリスリコ
種族 魔獣人族
レベル error
スキル 隠蔽 偽裝
というの結果だった。恐らく偽裝というスキルが奴のステータスを全て変えているのだろう。多分名前でさえ。しかも隠蔽があるのに偽裝スキルが見えているということは、奴が故意に見せているということになる。
「そして俺も鑑定出來るんだよねー」
魔人の男がコウスケをジッと見つめた。そういえば異世界に來て戦闘相手に鑑定されるのは初めてだった。自分の報が相手にれるのはやっぱり気分の良いものではない。いつも自分がやっていることなのだが、いざ自分に降りかかるとそういう想を抱いた。だが辭めるつもりはない。
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「……は? 異世界魔人? なんだそれ」
やはりあの魔人族はそこに気を引かれた。とはいえそれはコウスケでさえ分かっていないことなので答えようがない。
「まぁよく分かんねえが、簡単に言ってお前は異世界人ってわけだ。ははっ、そりゃあ國籍もねえわけだ」
やはりこの世界では異世界人の存在は認知されている。もし地球でそんなことを言えば変人扱いされること間違いないのだが。
「つまり、お前はロイヒエンの勇者様ってことか?」
魔人が軽口をコウスケに叩いた。
彼は簡単な気持ちで言ったのだろうが、それが引き金となる不運もある。
「あ? 俺が勇者だと?」
「な、なんだよ急に怖い顔になりやがって、事実だろうが」
聲音と表が急激に変化したコウスケに、気圧される魔人族の男。
「そうか……魔人の姿をしていても俺はまだ奴らと同類か……」
ボソッと呟くコウスケ。今の今までどこかで魔人の姿になって異世界との繋がりが薄くなったと思い込んでいた。薄くなることであの忌まわしき世界との関係を捨てられると。
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だがそれはただの希であることに気が付いた。自分はどんな姿になろうとも異世界人であることには変わりないのだ。奴らと同じ異世界の人間であることに。
「汚らわしい、あんな奴らと一緒にされるなんて」
力強く槍を握りしめ、地面へ突き刺す。もちろんこの槍に特別な効果など戻ってくる以外ない。ただ突き刺さるだけだ。
だがそれだけでも目の前の魔人の男はビクッとを震わせた。すっかり脅えてしまったようだ。
「どうした? さっきまでの威勢は」
「な、何の事だよ。お前が異世界人の奴らと何があったかは知らねえ。だがな、俺は母國のためお前を殺さなきゃならねえんだよ! 異世界人のお前を!」
脅えたを鼓舞して男はんだ。彼の國はロイヒエン王國と敵対関係のある國のようだ。敵の敵は味方なんて言葉があるが、そんな考えに至れる人の気が知れない。憎いやつ、邪魔な奴は殺すのみだ。
「ファイア」
手に握った槍に赤黒い炎がほとばしる。憎しみがそのまま槍に移ったかのように。
「っは、こけおどしじゃ俺は殺せねえぞ」
「こけおどしかどうか、を持って試してみろよ」
『強化』を全に施したコウスケは一気に間合いを詰め、槍を振るった。
「っく」
その初速に驚いた男は、かろうじて腕を盾にして槍をはじいた。剣でないため、腕を斬ることは出來なかったが、あの様子だと骨折くらいはしているはずだ。
「痛っ! クソ、俺は弾戦は得意じゃねえんだよ」
舌打ちをしながら男はバックステップしてコウスケとの間合いを図る。そんなことをしても直ぐに詰められる距離ではあった。だが一つ懸念がある。奴の腕を見る限り、しっかりとやけどをしているのだ。つまり炎に耐がないということになる。ならどうやってあの空間を生き延びたというのか。
「來い! お前ら」
男が大聲を出して、誰かに指示を出した。
コウスケの聴覚に人の気配はなかったので、その行に怪訝な表をせざるを得ない。
だが、男の行の意味が直ぐに明らかになった。
「そういうことか……」
男の周りにまるで飼い慣らされているかのように魔獣たちが集まってきたのだ。
「これが俺のスキル、生支配だ」
「生支配……」
騒な名前であることは間違いない。しかも生なら人もれるということなのだろうか。
「行け!」
コウスケに考える時間を與えることなく、男が魔獣たちに指示を出し、それに伴い魔獣たちがコウスケの方へ襲い掛かってくる。一個は強くないのだが、こうも多いとただでは済まない。
「っち、面倒くせえ」
コウスケは槍だけでなく、短剣も取り出し、同じく炎を纏わせた。
だが二つの武で攻めるわけではない。
魔獣が襲い掛かる。それを短剣で防ぎ、槍で突く。再び襲い掛かってこれば、槍で仕留め、裏にまわってきた魔獣に対して短剣で対処に、蹴とばした後槍で仕留めた。
長い槍を攻撃にし、短い短剣をけ流し重視の防の型。いわゆる剣道の二刀流を見様見真似で行っているのである。とはいってもコウスケ自は剣道なんて學校の授業程度でしかやったことがなく、二刀流を行う人も生では見たことがなかった。好奇心の赴くままに試しにやってみた日には、筋力が足りずまともに竹刀を振るえなかった。
だが今は、『強化』がある。技はもちろんないが、それを筋力で補うことで何とか形にはしていた。とはいえ、蹴りや頭突きなんかを使っているため、従來の剣道とはかなりかけ離れていることは確かだ。だがそれもそうで、試合の中で行う決まりのある武道とは違い、戦場であるここでは型崩れするなんて當然と言えば當然である。
「一人相手に何してんだ!」
まるで手下を引き連れる小のリーダーのような発言をする男。そんな奴は決まって他人任せの無能だ。
「邪魔だ」
魔獣はもう殘りわずかの個しかいなかった。そいつらも的確に槍を投擲して殺す。戻ってくるので便利だ。
「こ、これが勇者……」
「だから勇者じゃねえっつてんだろ!」
思い切り槍をその男目がけて投げつけた。いちいち癇に障る奴だ。
そのまま行けば男の脳天に突き刺さる予定だったのだが、一匹の魔獣がその間にり、己のを使って軌道を強引に変えた。もちろんその魔獣は一撃で絶命している。
「そうやってあの炎も生き殘ったのか」
「ああ、そうだよ。魔をの周りに置いてな」
ようやく謎が解けた。ならこの男は使用する生がいなければゴミも同然だ。
「ならこれでお前は何も出來なくなるってわけだ」
もう一度槍を手元に戻し、男に投げつけた。殘る魔は一。あの個を防に使えば奴は丸も同然になる。その隙を狙って一気に近づけば取れる。
そう確信し口角を上げるコウスケ。だが予想の範囲外の介者が現れた。
「なにっ!?」
槍と男の間にったのは魔獣ではなかった。
奴がった生とは、この場所に偶然近づいていた、あの里の住人だったのだ。
「クソが」
コウスケは槍に手を向け、自分の所へ戻させようと試みた。幸い投げられた槍は途中で止まり、軌道を変えコウスケの手元に飛んでくる。
「誰も魔だけれるなんて言ってねえよ」
「そうだったな」
男は里の住人を自分の前に配置し、コウスケからの投擲を防ぐ盾として立たせた。その住人の目は虛ろで意識は恐らくない。
「ハハハ、行け」
最後の個の魔獣に指令を出し、コウスケを襲わせる。コウスケが短剣を構えると男が言った。
「おっと、大人しく咬まれねえとこの男を殺すぞ?」
「っち」
そう言われたコウスケは大人しく短剣を持った手を下げる。
そして無抵抗のままコウスケは腕を咬まれた。
『強化』を施しているため、痛みが數倍にも跳ね上がり顔を顰めるコウスケ。だが口元には笑みが浮かんでいた。
咬まれた腕はそのままに、コウスケは槍を持っている片方の手を振りかぶる。
「何してんだ、殺すぞ!」
そんな脅しをけてもコウスケは口角を上げたままだった。
「邪魔だ! どけ!」
そうびながら、コウスケは槍を投げた。
男は驚いた表で固まったままだ。
だが、彼にはこの壁がある。自が槍に貫かれることなどないのだ。驚いてはいるものの余裕の態度の彼は次の瞬間、驚き困の表を浮かべた。
コウスケの聲と連するように、魔獣と住人がその場から離れたのだ。
「な、なんで」
目の前で起こっている出來事が信じられない様子の男。その揺が命を失った要因となった。
「じゃあな」
コウスケの言葉と同時に、男の眉間に槍が突き刺さった。
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