男は死んでいた。

當然と言えば當然だ、何せ男自には特別な能力はないのだから。

「呆気ねえな」

本當の所、男にはあの槍を遮る方法があった。

コウスケは、手に咬みついた魔から『吸収』を使って『生支配』を出した後、それを使用して槍の軌道線上の障害をどけたのだが、コウスケの命令が屆きそれを実行したということは、恐らくこのスキルは最新の命令が実行されるスキルなのだろう。ならば、あの時男が揺せずに、命令を上書きしていたらこういう結果にはならなかったはずだったのだ。

コウスケは男の眉間に刺さった槍を手で抜き、男のを焼卻した。

このままだと、返って魔が寄り付く可能があったからだ。

「ここは？」

里の住人からそう聲がかかった。ようやく気が戻ったようだ。

「魔を束ねていた男のいた場所だ」

「あ、あんたは……」

その男はコウスケの顔を見るなり、し眉を顰めた。おかしい。確かあの里は人種差別をしないと聞いていたのだが。

その男は、コウスケの前に転がる焼死を見て腰が砕けて倒れた。

「そ、それは……」

「さっきも言ったが、こいつが魔をここら一に侍らせていた男だ」

「こいつが……」

コウスケの言葉を聞いた男は、ジッとその死を見つめた。今まで苦労してきたのだろう。その目には憎しみが燈っている。

「じゃあ、俺はこの辺で」

これ以上この場にいる理由はない。

「待ってくれ、あんた名前は」

「コウスケだ」

「コウスケ……ありがとう、そしてすまない」

その男はそう言って歩いて行った。

その言葉の意味がまるで分からなかったが、コウスケは気にしないことにしてこの場から離れようとしたところで、あの男のび聲が聞こえた。

「うあああああああ、な、なんでこんな奴が！」

ただ事じゃないことぐらいすぐにわかった。

急いで後ろを振り返り、狀況を把握しようとするコウスケ。

あの男は、窟前で座り込んでいた。何かに脅えるように。

「く、くるなああああ」

座りながら必死にび後ずさろうともがく男。視線は窟の中を向いていた。つまりまだ生き殘った魔があの中にいるのだろう。

このままではあの男が殺されてしまうと判斷したコウスケは、直ぐに『強化』を使ってその場に移するが、突如としてコウスケのに何かが當たり、そのまま弾き飛ばされた。

そして、木に衝突する。

「げほっ、ごほっ、な、なんだ？」

腹部に強いダメージをけたコウスケは苦し気にきながらも、その攻撃をけた場所を見つめていた。そこには、相変わらず腰を抜かした男が倒れこんでいて、何かを脅えながら見ていた。そこに長い何かが窟から飛び出ている。恐らくあれがコウスケを弾き飛ばしたのだろう。

コウスケのダメージは『強化』によって防力が上がっていたものの、臓にまでダメージが到達していた。それほどさきほどの攻撃はとてつもない威力だったのだ。

「く、くるなああああ――」

その男は斷末魔を上げ、泣きんでいたが、もうどうしようもない。その言葉を最後に男の姿はなくなった。窟に引き込まれたのだ。もう助かる見込みはない。その間にでもを休ませておこう。

「厄介だな」

木にめり込んだ自分のを起こしてコウスケは窟を見據える。

日が嫌いなのか、その何かは一切出てこようとはしない。それとも大きすぎるのため出てこれないかだ。

とにかく、あの何かは火に耐があることは確かだった。なぜなら、あの窟にいたということはコウスケの閉火炎放も食らっているはずなのだ。それでも生きているということは耐があるしか考えられない。

「そうか……」

そんな事を考えるとようやくさっきの魔人族の男との件で合點がいった。

今思えば、あの男があの魔たちを使っても、窟を塞いでいた壁を壊せるわけがないのだ。恐らくあの男は、今窟にいる何かにも『生支配』を使っていたのだろう。それが死んだことで無効化され、暴れまわっているということか。

とはいえ、その何かの正を確かめない限り間合いも取れず、下手に近づくことが出來ない。

「ライトニング」

バチバチと槍に赤黒の電気が纏う。

久々の雷魔法。それをこの場で試してみた。「サンダー」でも良かったのだが、魔法はイメージが大事だと言うことで、サンダーだと落雷を思い浮かべてしまうため、こっちの単語にしたのだ。にしても、雷さえが変化しているのは、やはり種族の変異が原因なのだろうか。

そのままコウスケは槍を窟に槍を投擲した。當たる可能は極めて低いが、當たったらそれでいいし、當たらなくても槍が窟を照らしてくれるはずだ。なくとも、赤黒い炎よりはを発している。

「……なんだあれは」

薄暗いながらも窟にいるの郭を捉えることが出來た。だがコウスケの脳図鑑にあんな生は存在しない。

となれば、『鑑定』するしかない。

名前 キマイラ

種族 第一合魔獣

スキル　毒　対魔法　剛力

キマイラ。どこかで聞いたことがある名前だった。それがどこかは思い出せないが。

種族を見る限り、合された魔獣ということ。スキルは特に多くはないが、初めてみるものばかりだということだ。

にしても、合魔獣というのは何なのだろうか。人の手によって作られたと言う意味なのか、自然に発生した突然変異種なのか。今の報だけじゃ分からない。

「魔法は効かねえのか」

対魔法は間違いなく魔法耐があるスキルだ。それならコウスケの炎魔法を耐え抜いた理由として納得できる。

「ガリリリルルルルルルルル」

姿が見られたことが分かったのか、キマイラは変わった鳴き聲を発した。だが窟の外に出ようとはしない。姿を見て分かったことだが、が大きすぎるが故に出られないのだ。

今なら遠距離攻撃で仕留められるのではと槍を手元に戻して投擲するが、暗いため當たったかどうか分からない。そして何も聲を発さないということは、ダメージは通っていないようだ。。

「サンダー」

コウスケはすかさず窟目がけて雷魔法を唱えた。キマイラを狙ったわけではない。魔法が効かないのはスキルで確認済みだ。

コウスケの放った雷魔法は窟のり口にぶち當たり巖が砕ける。もう一度同じように巖にぶち當ててり口の巖を砕く。さらにもう一度。

そうしているに、窟のり口は砕けた巖によって崩壊していた。とはいえ生き埋めにしようというわけではなく、キマイラを外に出そうという作戦の上での行だ。生き埋めにするのは簡単だが、あのキマイラが埋められただけで死ぬとは思えない。それにあのまま窟で戦うわけにもいかない。あれほど大きくて力の強い魔と窟で至近距離で戦うほどコウスケは脳筋ではない。

「ガグリリリリリルルルル」

やはり埋められただけでは殺せなかったようだ。再び変わった鳴き聲を発しながらキマイラは地上に姿を現した。

「なるほど、それで合魔獣か」

キマイラの姿がわになったことで、合魔獣の名前の意味がようやく理解した。

そのキマイラの姿形は、ハッキリ言ってしまえば大きなライオンだ。だがし異なる部位を持っている。一番の特徴はライオンにはまずないであろう、長くて太い尾だ。あれほど大きな尾は、あの迷宮で見たドラゴンの尾を彷彿とさせるほど大きい。さきほどコウスケがもらった打撃はこの尾によるものなのだろう。

あとの特異的な部位と言えば、羽が生えているということだろうか。もちろんライオンに羽は生えていないし、ここまで大きい個で羽なんて意味があるのかさえ分からない。

一つ言えることは、あの迷宮で倒したドラゴンほどの力を持っている可能があるということだ。対峙して分かる。まるで一人では勝てる気がしない。

「何でこんなのを出しちまったんだろう」

今更後悔するコウスケ。里のためにここまでする必要は正直なかった。最低、魔を討伐しておけば解決していたのだ。こうなることは予想外だし、割に合わない。

「はぁ、やるしかねえよなぁ」

目の前に立ちはだかる困難にコウスケは目を向けた。