《負け組だった男のチートなスキル》第三十七話 キマイラ
この絶的な狀況でもコウスケは諦めていなかった。こんなところで死ぬわけにはいかない。
死なないようにするにはぶっ殺さなければならない。この邪魔な化けを。
「強化!」
気合いの聲と同時に『強化』を全に施し、手元の槍を握りしめる。
あの時はドラゴン一倒すのに苦労していた。だが今はあの時よりもレベルも上がっているだろうし、スキルだって増えている。とはいえ役に立ちそうなスキルはほとんど持っていないのが本音である。
「グララウリルルルリルルリ」
けたたましい聲と共にキマイラがコウスケの元へ突進を始めた。ドラゴンに比べれば早いが、避けられないほどではない。ましてや『強化』を施している今は確実に避けれらるといっても過言ではない。
「グラウンド」
避けるついでに地面に手をつき、キマイラの腹部へ、魔法によって発現した地面の突起がぶつかる。だが、やはり対魔法というスキルのためか、キマイラに當たった瞬間に地面の突起は々に砕け散ってしまった。
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「面倒くさいスキルだな」
魔法を主軸として戦ってきたコウスケではないが、こうも無力に魔法が破られてしまうとなると、戦略の幅は狹まってしまう。
しかももう一つの攻撃手段である槍でも、投げただけでは傷をつけることが出來ないのだ。こうなると接近戦しかなくなる。もう慣れっこなのだが、やはり痛いのは慣れるわけもなく、しかも相手が相手だ、やりたいわけがない。そんなわがままなど誰にも通じるわけがなく、コウスケはすぐさまキマイラとの距離を詰める。
「はあっ!」
思い切り槍を振りかぶり、キマイラの足へと突き刺した。
流石にこの攻撃は通りキマイラは痛みのせいか暴れまわった。
このジタバタに當たるだけで致命傷だ。コウスケは直ぐにその場を離れて様子を伺う。
「長くなりそうだな……」
ヒットアンドアウェイ戦略が悪いとは言わないが、時間がかかるのは事実である。だがこれより安全な戦略がない。遠距離攻撃が封じられてしまっているのが痛かった。
そんなことを考えている間に、キマイラがこちらをギロリと睨んでいた。ようやく敵だと判斷してくれたらしい。だからといって嬉しいわけがない。ずっとゴミ程度に思ってくれていたほうがやりやすかったのだが。
キマイラが口を開く。ドラゴンは炎のブレスだったのだが、キマイラだと何だろうか。
ともあれ、避けるしか選択肢はない。
「うおっ!」
コウスケが橫へ跳び避けると、キマイラが何かを口から放した。は紫で霧狀の何かだ。
「どう見たって毒だろ」
スキルにも『毒』という表記があったことを考えるとこのブレスは毒だと判斷できた。
しかも、コウスケが先ほどいた地面がどういうわけか音を立てながら溶け始めていた。絶対やばいやつである。
「……ファイア」
その溶けた地面に向けて炎を放つ。なかったことにしたかった。
キマイラがもう一度あれを吐かないように、接近戦でキマイラのを突いて行く。地味な作業ではあるが、ちゃんと皮に傷がついているし、も流れているので効いているはずだ。
煩わしそうにキマイラがを揺する。先ほどと同じようにコウスケは一度キマイラから離れて様子を伺う。このパターンだと次來るのは――
キマイラが口を開いた。
流石に二度もやらせるわけがない。
コウスケは力を込めて、槍をキマイラのへ思い切り投擲した。
「ギャアリャラアアアアア」
投げられた槍は見事に深くに突き刺さり、キマイラは苦し気にいた。こんな簡単な方法があるなら最初からやっておけばよかった。
だがをやったぐらいで化けは倒れない。人なら一撃だろうが、こういった類はなぜか死なないのだ。
「戻れ」
槍がキマイラのから抜け出しコウスケの手元に戻ってきて、それを摑み取る時に問題が生じた。
「痛っ!」
キマイラのだらけの槍をれた瞬間、皮が焼けるような痛みが襲い掛かったのだ。手を見ると、すっかり焼けただれ、痛々しいものとなっていた。
「毒か」
がべっとりついた槍を見て呟いた。
にまで『毒』の効果があると予想されるのだ。最悪、キマイラの全てが毒という意識でいかないといけない。しかもこれで槍を使うことが出來なくなってしまったのだ。ますます不利になっていく。
「厄介だ」
魔法、投擲に加え、槍、もダメとなってしまった。こうなるともうほとんどすることがない。
本當に厄介な魔を作ってくれたものだ。自然か人造かは知らないが。
キマイラの攻撃は続く。まず突進。が毒を含んでいると考えると、より脅威に思えてくる。こいつはそれを理解しての行なのか。本能なのか。はたまた誰かにそう教えられたのか。
「ファイア、サンダー、グランド、ライトニング」
持ちうる魔法を全てキマイラへ向ける。だが、見事に全ての魔法はキマイラのに當たる瞬間に弾け飛んだ。しかししは目くらましに使え、コウスケはその隙を使ってキマイラから離れていた。
それも一時的な時間の間だけだ。直ぐにキマイラはコウスケを見つけ、再び接近を開始する。
「それなら……」
コウスケは覚悟を決めた面持で自分の拳を握りしめ、それを見つめる。毆ろうというものなら『強化』を使っていようとも皮はただれる。しかも痛みも増加して襲い掛かるのだ。並大抵の人ならまずしない選択肢である。
だがコウスケはそれをしようと、接近するキマイラの前に立った。
「食らえええええ!」
『強化』の跳躍力で飛び上がり、キマイラの顔に近づく。どこかで聞いたことがある。大抵のは鼻が苦手だということを。
その鼻目がけて拳を叩き付けた。
「ギャアリラウラアアアアア!」
「あああああ!」
両者のび聲が響き渡る。
まともにダメージをけたキマイラの鼻は潰れており、その痛みのあまり暴れまわっていた。
まともに毒を食らったコウスケの拳は見るも無殘な狀態になっており、その痛みのあまりその場に座り込んでいた。
「はぁはぁ、やっぱ痛いのは慣れねえ」
右の拳はもう使いにならないくらいボロボロになっている。骨までは『強化』のおで溶けてはいなかったが、皮の方は尋常じゃないダメージを負っている。
「さあ、2ラウンドだ」
キマイラとコウスケは互いに見合う。両者ともまだとてつもない痛みが襲っているはずなのだが、その瞳には明確な戦意が未だギラギラと燈っていた。
「はあああああっ!」
「グラアアアアアア!」
コウスケは左手に短剣を握りしめて走り出す。
キマイラは口を大きく開けて走り出した。丸ごとコウスケを食おうという算段なのだろう。けて立つ。コウスケはそう思い、口の中にり込んだ。
「っぐ、うおおおお!」
キマイラの口が目の前に広がり、上と下から歯が迫る。
上の歯は短剣で抑え、コウスケは口が閉じないようにに力をれ続ける。このままではジリ貧だ。
「ふぅ」
一つ息を吐いたコウスケは、その瞬間に口の中から飛び出した。だが右手だけは間に合わずそのまま口が閉じ、食いちぎられた。コウスケの『強化』の防力より、キマイラの『剛力』の方が勝った瞬間だった。
「ああああああ!」
痛みのあまりコウスケはぶ。だが目は未だキマイラを捉えていた。
「グッ……」
そんな聲を発したのはキマイラだった。
どこか苦し気な表を浮かべている。
「はは……」
乾いた笑みを浮かべたコウスケはその場に倒れた。
「グワアアアアアアアアアアア!」
怒り狂った表のキマイラがコウスケへ跳びかかった。
「もうお終いだよ……『聖域』」
コウスケの『聖域』が彼を中心に広がっていく。
そのの帯によってキマイラは弾かれた。
その後、悔しげに何度もに當たりをするが、もうそれを壊すほどの力は殘っていなかったのだろう。その目は確実にコウスケを捉えながらも、最後にキマイラは苦し気に悶えながら息絶えていった。
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