《負け組だった男のチートなスキル》第四十話 裏

「――ぶだ、寢ている」

コウスケは誰かの話し聲によって珍しく夜中に目を覚ました。

普段ならこの程度の音で目を覚ますことはないコウスケなのだが、

「あぁそうか『超覚』を……」

そんなコウスケが目覚めた理由は、その言葉の通りで、昨日『超覚』を解除するのを忘れてしまっていたからだった。

もちろん森の中では作させっぱなしだったのだが、この村にってからは、心地よい眠りのために解除して寢ていた。だが昨日の眠気にはとても敵わず、解除するのを忘れていた。ただそれだけの理由だった。

「何か音がしなかったか?」

「気のせいだろ」

コソコソと扉の外で話し聲が聞こえてくる。『超覚』によって聴覚を含む五は數段に跳ね上がっている。なので誰が話しているのかぐらいは直ぐに分かった。

「ナリオスさんと……確か、昨日の」

その聲はこの家の主であるナリオスと昨日の宴に出席していた男である。

しかもどういうわけか、自分のいる部屋の前で話しているため、話している容までもが完璧に聞こえて來た。

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「例の道袋は持ってるか?」

「これの事だろ、しっかりとっておいたさ」

話の容を聞いて嫌な予を覚えたコウスケは、直ぐに腰の方へ手をばした。普段ならそこに道袋を提げているのからだ。しかも昨日はろくに著替えもせずに直ぐに眠ったので道袋はそのままのはずだ。

つまり無い方がおかしいのだ。

しかし、嫌な予は的中してしまった。

偶然だと思いたかった。今まで優しくしてくれたナリオスさんがそんなことをするわけがないと。眠るのに邪魔だからと、どこかに片付けてくれただけだと。

しかし無常にも會話は進み、ある容へ差し掛かった。

「っへへ、里の恩人さんにする仕打ちじゃねえぜ。相変わらずの鬼畜な村長さんだ」

「何を人聞きの悪い。私はただ蠻族をって利用しただけだ」

「その選民主義も相変わらずのことで」

「それはお主もだろうに」

そう言いあって二人はゲラゲラと笑いあっていた。コウスケが起きてくることなど微塵も思っていないとばかりに。

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これでもう言い訳のしようがなくなった。間違いない。黒だ。

靜かな部屋の中に歯ぎしりの音だけが響く。

今まで浮かれていた。無償の優しさに甘えてしまった。ほんのひと時の幸せをんでしまった。

ただ孤獨を癒してしかった。

だがその弱みに付け込まれてしまったようだ。

「今回はちゃんとに一から引っかけたんだろ?」

「そうだな、これほど心地よいこともない」

二人の會話の容はいまいち理解できない。

ただ分かること、それは彼らが自分を嵌めたということだけだ。

いつから仕組まれていたというのか。

もし全て仕組まれていたことなら、最初から魔討伐もこちらに任せるつもりだったのかもしれない。

「だが危なかったな。あの料理を里のガキが食おうとしたときは焦ったぜ」

「ああ、だがあいつはし変に思っただけで、それ以降も馬鹿みたいに食い続けておったがな」

その會話から分かったこと、それはあの料理に何かっていたということだ。恐らく睡眠導剤のようなものでもっていたのだろう。それはあの眠気を考えると納得できる。

では長耳族が類を好まなというのは噓だったのだろうか。それにナリオスから教えられた々な知識もどうなのか。今ではどれが噓でどれが本當か訳が分からない。

「それで? あいつはどうするんだ?」

「何を今更、殺すにきまっておろうに」

「ははっ、それでこそ村長さまだよ」

二人の會話はそこで途切れた。代わりに足音がこちらへと次第に近づいてくるのをじる。會話の流れからこの先起こることは確信していた。

もう覚悟を決める時が來たようだ。

急いで、今手元にない槍を呼び戻す。

確かあの戦いの後、回収していなかったはずで、つまりこの村の人たちには回収されていないことになる。

それから時を待たずに足音が聞こえてきた。それと同時に槍が木の窓枠をすり抜けてコウスケの元にやってくる。どうやら間に合ったようだ。

「開けるぞ?」

「ああ、今頃食べる夢でも見ている頃だろうよ」

ゆっくりとコウスケの部屋の扉が開かれていく。

恐らく彼らは、未だ眠っているコウスケを想像していたことだろう。だが彼らの視界にその景は寫らなかった。

「ああ? いねえじゃねえか」

「なに?」

そこにコウスケの姿はなかった。

それを聞いたナリオスが慌てて部屋の中にったその瞬間だった。

「うぐっ」

ナリオスの後ろにいた男の方が苦し気にいた。

「なっ……」

ナリオスはその男の方を振り返り絶句した。

「よォ、聞いてたぜ?」

コウスケは扉の影から現れて言った。手には男のから突き出ている槍が握られている。

「ぐぼっ!」

「おぉおぉ、汚ねえ」

男から槍を引き抜き蹴りとばした。部屋の隅にまで飛ばされる男。

その間ずっとナリオスは固まったままだ。狀況の変化についていけていないのかもしれない。

「どうした?」

「な、なんで」

「返せよ、それ」

ナリオスの手にあった道袋に目をやり言った。

コウスケは道袋に目印など付けてはいなかったが、それでも今までのナリオスが道袋を持っていたのを見たことがないし、極めつけはあの會話だ。それによってそれがコウスケのであるということは明らかだった。

「早くしろ」

渋っているナリオスに槍を突きつけて急かさせる。

「ま、待ってくれ」

慌てた様子でナリオスが言葉を発した。今更何を待てばいいのというのだろうか。

ただその間がナリオスの求めていた時間だったのだろう。そのわずかな時間であることが起きたのだ。

「やれ!」

ナリオスの聲を合図に、部屋の壁の至る所から細長い槍のようなものが突き出されてきた。

不意打ちであるそれに加え、その槍の數が膨大であることにより、コウスケはを捻ることでしか対応できなかった。

「くそっ」

何とかを捻ったものの、コウスケの腹部を中心に切り傷やかすり傷が生まれる。結果として致命傷は免れたものの、槍がいくつも突き出されたままなのできが取れなくなってしまった。

「大人しく殺されていればこんな手間をかけずに済んだのに」

ナリオスが穏やかな口調でそう言葉を発する。今までと同じ口調なのだが、それが全く同じ人が発している言葉とは思えないほど冷たくじた。

「今まで騙していたのか」

「ああ、それの何が悪い? 我らエルフ族こそが人なのだ。他のゴミ共をどうしようと勝手だろう?」

「そのゴミ種族に頼らないと、魔獣も倒せない奴らがよく言うよ」

「何だと?」

売り言葉に買い言葉。

ナリオスとしてみれば、屈辱に顔を歪ませるコウスケを見たかったのだろうが、逆にナリオスの顔が歪む結果となってしまっていた。

「はは、その狀況でまだ皮を言う余裕があるとはな。さすが魔人族だ。脳みそも足りないらしい」

「はは、そっちこそこの程度で俺を封じたと思っているとは、おめでたいねぇ」

「こ、殺せええ!」

ナリオスはコウスケの挑発に乗りんだ。

先ほどと同じようにその言葉に呼応してきが起こる。

部屋の中に數人の男たちがってきたのだ。

「『強化』」

コウスケはそう一言呟く。その一言で勝負が決まった。

まずコウスケを抑えつけていた槍を軽々と薙ぎ払った。驚愕するナリオスの顔が印象的だ。

次に襲い掛かってくる男たちの腕を摑み、握力のままに握りつぶした。最後に蹴り飛ばすのも忘れない。

「で?」

今この狀況で、唯一立っているナリオスに問いかける。既に襲い掛かってきた男共は使いにはならない狀態にした。

「ば、化け

「俺にとってはお前たちの方が化けなんだがな」

あの表の顔にこんな裏の顔を隠しておけるなんてかなりたちの悪い化けだ。そこら辺の魔より厄介である。

「ど、どうか、慈悲を」

「……は?」

急に土下座をし始めて許しを請うナリオス。この世界に土下座文化があることに素直に驚いたが、今はそこは気にするべきところではない。

「い、命だけは」

「今までの恩で見逃せと?」

「そ、そんなことは」

「そう言えよ、そう思ってんだろ?」

コウスケの問いにナリオスは答えなかった。心のどこかでそういう考えがあったのだろう。

「分かったよ、お前だけは見逃してやる」

バッとコウスケの言葉を聞いた瞬間顔を上げるナリオス。その変わりように思わず笑みがれる。

「ほ、本當ですか?」

「ああ、早く行け。気が変わらないうち・・・・・・・・・にな」

コウスケは槍を床に突き刺した後、手を上へ向け危害を加えないということをアピールする。

それを見たナリオスは怯えた表を浮かべたまま、すぐに走り去っていった。

「里の人の命よりも自分の命か……」

この部屋に転がる男たちを見つめながら呟く。他にも、子どももこの里にはいる。いるのだがそれらを全て見捨てて奴は逃げ出したのだ。そんな奴に従っていた里の奴らも哀れすぎる。

「きゃあ!」

部屋から出ようとしたところすぐそこからび聲が上がった。反的にその方向を見ると部屋の出口にがいた。このタイミングで出てくるということは一つしかない。

「殘念だったな。倒れているのが俺じゃなくて」

「な、何で」

その問いには特に答えず、槍で一突きして殺した。

「さあ、皆殺しだ」

黒い笑みを浮かべコウスケは呟いた。

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