《負け組だった男のチートなスキル》第四十四話 長耳族の事
「そういえば、どこに行けばいいかわからないんだった」
コウスケは天を仰ぐ。地図さえ手元にあればと思うが、そんなものはない。
若干の期待を込めてミュエルを見るが、彼はこう言った。
「すいません、私、地理が苦手で……」
一人で迷子ならまだしも二人でも迷子になるなんて、しかも地元のがいるのにだ。
「はぁ」
「ぅ」
コウスケのため息を聞いたのか、ミュエルが小さくいた。なからず申し訳なさはじているようだ。
「そういえば、今の長耳族長は他の人種にも寛容なのか?」
「あ、はい、確か」
ナリオスから吹き込まれた報が正しいかミュエルを使って整合していく。間違った報を頼りにするほど怖いものはない。
「じゃあ、南に選民思想の人が集まっているっていうのは?」
「え? いえ、むしろ南には首都があるので逆だと思います」
「そうか……」
あの時南に行くなと言った青年の話も噓だったようだ。つまりあの男も黒ということ。見事に嵌められてしまっていたわけだ。
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「南が分かればなぁ」
「ダメですよ! 南に行っちゃ」
「どうしてだ?」
ミュエルが聲を上げて否定をする。一どういうことなのか。ナリオスやあの青年が言っていたことは噓ではないということなのか。
「確かに南にはお母さまがいますけど、今は危ないから近づくなって言われていたんです」
「どっちみち拐されてるんだけどな」
「うっ」
ということはミュエルが拐される前から長耳族には々な派閥があってそれらの間に軋轢があったのだろう。何とも面倒くさい事態に巻き込まれたものだ。
今すぐにでもこのエリアから離れたくなってきた。
「どこか安全な場所に心當たりは?」
期待をあまり込めないで質問をした。
拐されたに聞くことではない。
「えっと……他の種族の領なら」
ミュエルの言葉にコウスケは呆れる。まさか自分の種族の領地ではなく、他の種族の土地を選ぶとは思わなかった。
しかも拐されたお姫様を他の種族の土地に連れていくなど、今より複雑な國家問題を起こしかねない。
「それは最後の手段だ。今は何とかしてお前のお母さまに會わないと」
冤罪が証明されない。
人なんて利己的な生きだ。他人のために行するなんてよっぽど余裕のある人か、かなりのお人よししかいない。
「それは……」
「それ以外解決方法がないだろ?」
「確かにそうですけど……」
危険な奴らがいるなら自分を使えばいい。コウスケだってミュエルを使って渉するのだから。
目標は決まった。南にある長耳族の首都だ。
だからといっても方角、方向が分からない以上どうしようもなかった。
「日も地球じゃないからあてにならないし」
「チキュウ? どこの國ですか?」
ミュエルがコウスケの呟きを聞き逃さなかった。
「國、ではないな」
「地域みたいなじですか?」
「ああ、そうだ」
「そうなんですね、チキュウ、不思議な響きですね」
またギリギリの所で出の會話を回避する。人間族の間では異世界人が広く知られていたが、長耳族では知られているかどうかはまだ分からない。もし過去に異世界人が何かをやらかしていたら、とばっちりを食らうのは當然コウスケだ。下手に明かすわけにはいかない。
「気になったんですけど、コウスケさん暑くないんですか?」
ミュエルがそう言ったのには理由がある。
ここは亜熱帯くらいの気候にある森林地域だ。そして今は恐らく夏季にあたる。それから考えると、長袖を著ているコウスケにそんな質問が飛ぶのは當然と言えば當然だった。
ちなみに服などは里からいくつか拝借したのを使っている。
「ちょっと理由があってな」
「言えない事というわけですか」
「そういうことだ」
ミュエルは納得したが、そう深い事があるわけではない。ただ気味悪がられると思っただけだ。この不自然なの右腕を。
「あとは……」
「しっ」
ミュエルの口を手で塞ぐ。近くで何者かの足音が聞こえたからだ。
念のために『強化』を施し、近くの茂みへ隠れた。
「あっ……」
茂みに隠れた直後、複數の長耳族たちが姿を現した。なりは皆同じ緑ベースの服裝を著ている。
それを見た、ミュエルが小さく聲を上げた。知り合いでもいたのだろうか。
「あの人、お母さまの側近の方です」
なら安全ではないか。と茂みの中からコウスケが出ようとすると、ミュエルに止められた。
「何をしてるんですか! あの人は悪い人ですよ」
「あ、そうなの」
「そうですよ」
ミュエルにそう言われるが、コウスケは彼のような便利なスキルは持ち合わせていない。今後持つ可能は大いにあるが、なくとも今はない。
「お母さまの座を狙ってるんです。表には出しませんけど」
「なるほど」
こいつは素直に権力がしいだけの奴か。まだナリオスなどの多人種差別者よりは斷然可い。
「おい、見つかったか?」
「見つかりません」
その野心を抱えている男と付き人が會話を始めた。
「クソッ、よりによって魔人族の野郎に奪われるとは」
「しかも殺人鬼なんですよね? もう殺されてるんじゃ……」
殺人鬼発言にミュエルが気になるコウスケ。彼にはコウスケがやったことは知らない。
「いや、あの里の奴らの悪い噂は中央まで來ていた」
「ということは、正當防衛で?」
「かもしれん、だが同族を多人種に殺されたと聞くと奴らが黙っていないだろうな」
「奴らと言いますと?」
「攘夷派の奴らだよ」
攘夷派。歴史の教科書で習った覚えがある単語だ。意味は、外國人を國から排除するという意味だったような気がする。
「それはそれで厄介ですね」
「まあな、だが彼を獲得できればやりようはある」
これが人の裏の顔というものなのか。
それにしても本當に複雑な狀況に陥ってしまっているようだ。今分かるだけでこの問題に関わっている人を分類すると、まず長耳族長派、それに対立する攘夷派と彼らのような野心家。極めつけはミュエルを攫った魔人族だ。誰が見てもかなり複雑である。
コウスケはその男たちが去るまで待った。殺すのは今ではないと判斷したからだ。ここまで々な人の思が働いている狀況で、下手にパワーバランスを崩すわけにはいかない。もう攘夷派の里を一つ潰したのだが気にしないでおこう。
そしてようやくその男たちは去っていった。見つからずに済んだのは彼らが焦っていたからだろう。結構雑に捜索して帰っていった。
「あの……コウスケさん」
その後にすぐミュエルから控えめな聲で呼ばれる。
「あぁ、殺人の話か」
話の流れ的にそれしかない。
「いえ、そうではないです」
「あれ? そこまで重要じゃない?」
思が外れたコウスケは目を丸くする。この世界では殺人はそこまで珍しくもないのだろうか。
「いえ殺人は重罪ですけど、私は分かるんです。コウスケさんが良い人・・・なのが」
「そういえばそうだったな」
『心理看破』は本當に便利なスキルのようだ。簡単に信用していい人を選別出來るなんて羨ましい。
良い人かどうかは引っかかるが。
「じゃあ、行きましょう」
「どこにだ?」
「あの人達の後をつければ首都に行きつくはずです」
「なるほどな」
ミュエルの提案はもっともだった。初めてミュエルが居て良かったと思った瞬間でもある。
「今失禮な事考えました?」
「気のせいだ気のせい」
「そうですか?」
「というか、他人の心を勝手に見るなよ」
「コウスケさんには言われたくありませんけどね」
ミュエルの切り返しに言葉を詰まらせるコウスケ。確かにその通りであるからだ。
「悪かったって」
「冗談ですよ、今のもスキルじゃなくてただの勘です」
そう二人で談笑し合って先へ進んだ。
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