《負け組だった男のチートなスキル》第四十六話 これから
「そうかい、々大変だったんだねぇ」
説明を一通り終えた後、エルシィクはそう言いコウスケの頭にポンと手を置いた。
「それでその警戒心の強さかい。納得できたよ」
エルシィクのその言葉にミュエルがコウスケを見た。彼の言う通りだった。コウスケは心の底からはエルシィクを信用してはいない。そしてそれはミュエルにも當てはまる。
「お見通しってわけか」
「まあね、年の功ってやつさ。でもコウスケ。これだけは覚えておきな」
「何だ?」
「ミュエルの驚いた顔を見てみなさい。あれはコウスケ、君の心の奧を知らなかったという顔だよ」
「何が言いたい?」
「ミュエルはやろうと思えば他人の心が見える。でもコウスケ、君にはしなかったってことだ。その意味が分かるかい?」
「……いや」
「分かっているんだろうけど、やっぱり男の子だね」
クスリとエルシィクが微笑む。そして次の言葉を発した。
「ミュエルは本當に君を信用していた。ただそれだけのことじゃないか」
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エルシィクの言葉にコウスケは返事をしなかった。
代わりに口を出したのはミュエルだった。
「叔母さん!」
「何だい?」
「そんなこと言ったってコウスケさんが困るよ」
「ふふ、悪かったよコウスケ。だけど信用してくれないと話は進まないんだ。そこだけは理解してくれるかい?」
「……ああ」
納得出來るしめではなかったが、話と空気を呼んで頷くコウスケだった。
次に始まったのはこれからの本格的な作戦會議だ。
まず初めにミュエルが口を開く。
「叔母さん、どうにかして町にれないかな?」
ミュエルのその質問にエルシィクは目をつぶって考え込む。
「殘念だけど、無理だろうねぇ」
「そ、そんな」
エルシィクの出した答えは不可能。つまりどう足掻いてもコウスケが町にる方法はないという結論を出した。
「ミュエル、いくら私が小細工をしても無理だ。例えコウスケが変裝のスキルを持っていても無理だろうさ」
エルシィクの言葉にミュエルは黙り込んだ。
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エルシィクの言った通りだとすると、それほど今の警備は厳重になっているのに素直に驚いた。まさか変裝スキルでさえ誤魔化せないというのは、コウスケの予想以上に警備が徹底している。
「コウスケ、君が取るべき方法は分かるかい?」
「いや、ミュエルと行を別にする以外には何も」
「え!?」
コウスケの言葉にミュエルが聲を上げた。中にる方法がない今、もうそれしか最善の選択はない。それに誰かと行することが疲れることがをもって分かったところなのだ。
そのコウスケの答えに、エルシィクは微笑みを浮かべたまま口を開いた。
「まあそれが最善の手だ。だがこのままだと君は一人で逃亡しそうな雰囲気だね。その間ほとぼりが冷めるのを待つために。だけどこの騒ぎはしばらく収まりそうにない。最悪、君はこのアルカナ連合國の敵として國に狙われ、排除されてしまうかもしれないよ?」
「それは……」
國に追われるなど絶対に経験したくない。一つの里や団程度でも骨が折れるのだ。それが國規模になるとまず無事にいられるわけがない。
「そこで君が出來ること、それは」
「國外逃亡か?」
國外に逃亡してしまえば國から追われようとも、他國に介してくることはないはずだ。地球なら國際的な繋がりがあったのでその行は不可能に近いかもしれないが、この他國同士がいがみ合っている世界ならまだ可能がある。とはいえ、そんなお尋ね者をれてくれる國なんてあるとは思えないが。
「コウスケ、君はシセイ魔王國に行きたいんだったね」
突然なんだとばかりに顔を上げるコウスケ。
エルシィクは古ぼけた羊皮紙を機の前に持ってきた。
「これは世界地図。とはいえ一つの大陸の東半分しか記されていないがね」
コウスケはその世界地図を眺めた。こうしてこの世界の全像を見るのは初めてだ。今の所測量技などが発達していないのか、記されているのはエルシィクの言った通り大きな大陸の右側のみだけだった。とはいっても今まで聞いてきた國と地域はこの地図にしっかりと記されている。ということは、今まで聞いてきた國々はこの世界において一つの大陸の東側の地域でしかなかったわけだ。
コウスケは改めて世界は広いことを実する。
「ここが現在地」
エルシィクが記されている大陸の南を指さして言った。
「そしてここがシセイ魔王國」
次に記されている大陸の北西部を指さした。
「分かったかい?」
「遠い……」
この地図で記されている距離がどの程度かは定かではないが、大陸の東に位置する大きな國がロイヒエン王國だと仮定すると、現在地からシセイ魔王國への距離はコウスケが今まで歩いて來た距離を合わせても遠く及ばない。つまり今までの歩いてきた期間をもう一度繰り返して歩く程度ではたどり著けないほど遠い國なのだ。さらに言えば、今まで歩いてきた距離をもう一度歩くことで、ようやくアルカナ連合國を北に抜けられるくらいの距離だ。
「だろう? ここまで遠いとアルカナ連合國を抜けるのだけでいっぱいだ。それだけ時間をかけてしまえば國から出る前に國中で君の報が出回る。そうなってしまえば國から出ること自困難になるだろうね」
エルシィクの言うことは最もだった。まるで國から出られる自信がない。
「そこで私から君に提案しようと思ってね」
「何だ?」
この最悪になりかけている狀況をしでも改善できる手なら、喜んで引きける。
「外堀を埋めていけばいいんだよ」
「外堀を埋める?」
言葉の意味は何となくだが分かった。だが意味が分からない。
「今君は長耳族から目をつけられている。もうこれについてはどうしようもない。その他の種族にも通達がいくだろう」
「なるほど、その通達の前に……」
「そう、それより前にその種族と、を言えば族長と友好関係を築けばいいんだ」
つまり長耳族だけでは解決不可能となった場合、きっと國中にコウスケの報を発布する。そうなってしまえば國中の包囲網によって、コウスケはきっと捕らわれてしまう。
ならその前に他の二つの種族。小人族と獣人族の族長と友好的な繋がりを持ってしまえば、その包囲網は立せず、兼ねては長耳族側とも渉の場が設けられる可能だってあると言いたいのだろう。
「そんな簡単にいくとは思えないんだが」
やるべきこととやる意味は理解できた。そしてそれが最善だと言うことも。だがそんな簡単に他人と友好関係を築くなんて並大抵のことではない。しかも族長クラスと。しかもその間、良い人のふりをし続けろと言っているようなものだ。
「分かっているさ、君は人嫌いになりかけている。だがなりかけているだけで、まだなってはいない」
エルシィクが再びコウスケの心を読んで言葉を発する。
「これからずっと人と関わることを避け続けたらどうなると思う?」
「……嫌いになる」
関わらないと言うことは、人と友好関係にならないことを表す。そして友好関係になろうと思わない相手を見る時では、嫌いな部分が目立って見えてしまう。
「分かったかい? 君のためでもあるんだ」
「……やるしかないからな」
斷ったって他に選択肢はない。それがエルシィクの口車に乗せられていることぐらい分かっていた。
「きっと君なら大丈夫。特に獣人族は強い者には敬意を払う種族だからね。安心したかい?」
「何の事だか」
意地悪気な笑みを浮かべてエルシィクは告げた。今まで良い人のふり、と難しいことを考えさせられてただけあって、何故かそれが簡単だと思えてくる。
「分かりましたよ。やるしかないんでしょ?」
「こっちもこっちで々手回しをしておくよ」
「ちょ、ちょっと」
二人の間で作戦會議が終わると、今まで蚊帳の外だったミュエルが口を挾んできた。
「コウスケさん、本気で出來ると思ってますか?」
「思ってはいない、だがそれしかできないからな」
「何か別の方法が……」
「ミュエル!」
ミュエルの態度にエルシィクが嗜めた。
「でも……」
「なら何か別の方法があるのかい?」
「……ない」
目に見えて落ち込むミュエル。そこまで他人のために落ち込むなんて出來た娘だ。
「とはいっても今日はもう遅いからね、一泊しておくといいよ」
「……助かる」
どこか素直に喜べないコウスケがいた。
そしてそれをじたのかエルシィクが口を開く。
「分かっているよ。まだ完全には信用していないのは」
「申し訳ない」
エルシィクはコウスケの気持ちを分かっていた。コウスケはあの里の一件が脳裏にチラついたのだ。
無償の恩には何か裏があるのではないかと思ってしまう。
そんな中だ。エルシィクがとんでもない発言をしたのは。
「いいさ、君は裏切られたばっかりなんだから。……そしたらどうしようかねぇ、皆、で寢るなんてどうだい?」
「ちょっと! 叔母さん!!」
ミュエルが大聲を上げる。
「何だいミュエル、叔母さんにを見られるのが嫌なのかい?」
「そっちじゃなくて!」
ミュエルは顔を真っ赤にしながらコウスケの方をチラリと見た。
「ああ、コウスケの許可を聞いてなかったね」
「違うー」
「コウスケ、君はどうしたい?」
ミュエルの反対意見をエルシィクは聞き流しコウスケに全てを委ねた。
かなり意味不明な無茶ぶりにコウスケは苦笑いを浮かべる。
「それだと俺の気が休まりませんよ」
「ふふ、そうか。殘念だったなミュエル」
「なっ! どうして私に振るの!?」
そんな微笑ましい會話がわされた。
その後『超覚』を使って食事を楽しみ。もちろんあの里でのことがあるので、ミュエルやエルシィクが口にしたのしか食べていないが。
その時ミュエルが必死に自分がつついた料理を死守していたが何とかこじ開けた。
そんなこんなあって、再びエルシィクと會話をしている。
世界地図を広げながら。
「アルカナ連合國とシセイ魔王國って隣り合っていないんですね」
地図を見て気づいたことがあった。それはアルカナ連合國とシセイ魔王國は隣接している國ではなかったということだ。
その両國の間にも大きな國がある。
「そこはモンフ帝國という國だよ」
「モンフ帝國……」
寢ぼけ眼のミュエルがその名前を呟いた。あの地理が苦手なミュエルでも知っているような國ということは、結構な影響力を持っている國なのだろうか。
「モンフ帝國は何度も何度も隣國へ戦爭を仕掛けて領土を増やしていった國でね、今でも活は盛んでね、獣人族たちはこの國からの防衛線に日々費やしているよ」
「そんな危ない國があるのか」
地図を見る限りでは、シセイ魔王國の位置は、そのモンフ帝國と、もう一つの魔人の國であるデイロスト魔帝國という國に囲まれている。
ちなみにシセイ魔王國は地図上では最も西側なので四方を囲まれている訳でない。
「デイロスト魔帝國も過激派魔人族の國だから國越えは難しい。例え魔人族の君でも」
「え、じゃあ」
「この國で騒が解決しても、シセイ魔王國に行くのは難しいね」
思ったよりも目標は高かったようだ。まるで最終ボスの魔王がいるような場所にある。
「その時に考えるしかなさそうだ」
コウスケは今の現狀を打開する方を優先させることにした。それを微笑んで見守るような表のエルシィク。
そして眠気には勝てなかったのか、眠っているミュエルがいた。
そうして次の日の朝、早めにコウスケは起きだした。
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