《負け組だった男のチートなスキル》第四十九話 落ちこぼれ

基地は見た目にそぐわずかなり機能的な空間だった。勝手なイメージでただの殺風景な空間だと思ってしまったことを謝りたいほどに、凄いとしか言いようがない。

し散らかってますけど」

ドランがもう申し訳なさそうに言うが、コウスケにとってはもはやそんなことは関係ないくらい、この部屋に置かれているものに目を惹かれていた。

この空間にあるものは、々な機械だ。もちろん地球でそういった類のものを実際目にしたことがないコウスケにはそれが何なのかなどはサッパリ分からないが、とにかく見たことのない複雑そうなそれらに興味が湧いた。

アービスはその視線に気づいたのか、鼻の下をりながら口を開いた。

「それは俺たちで作った自洗浄機なんだ」

「自洗浄機?」

洗浄機と言えば、皿なんかを洗うあれを思い浮かべるが、この仰々しい機械がそれだとは到底思えない。しかもこの空間に食なんて見當たらない。

「そうなんです、小人族は鍛冶を生業としているので、こういったの回りのも自作して用意するんです」

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「作ったを洗うための機械ってことか」

「そうです、洗ったり冷やしたりするためのものです」

コウスケのじた通りその洗浄機は食などを洗うではなく、鍛造して作り出したを冷やしたり、付著したゴミなどを洗い流すために使うものだった。

そういったでさえ自作してしまうとは、小人族という種族はかなり手先が用な種族なようだ。しかも彼らの年齢はコウスケと同じくらいだと考えるとかなり凄い。

「凄いんだな」

素直にじたことを聲に出したコウスケ。だが褒められたにも関わらず彼らの顔は浮かなかった。

「でも……俺らの作品なんてな」

アービスが暗い顔で呟く。先ほども言っていた落ちこぼれと何か関係があるのだろうか。

「どういうことなんだ?」

堪らずコウスケは質問をする。それに対応したのはドランだ。

「い、いえ気にしないでください」

平気を裝っているのが分かってしまうほどドランの表も浮かなかった。これほど凄くて便利な機械を自作した彼らのどこが落ちこぼれだというのだろうか。

「何か悩みがあるなら聞くが」

「い、いえ、自分たちのことなので」

ドランは相変わらず自分のを抑えながら述べる。流石に初めて會って間もない人に自分の事で相談するなど、コウスケだってしないので、仕方がないといえば仕方がなかった。

だがアービスの方はそうではなかったようで、

「ドラン、俺は聞いてもらうために招いたんだ」

「アービス?!」

「コウスケさん、何か魔人族に伝わる武とかを知っていたら教えてほしいんです」

「それは……どうして?」

「それは」

アービスは言葉を一度含みドランとヨハネを見る。彼ら全てに関係していることらしい。

「いいか?」

「ぼ、僕は別にいいよ」

「はぁ、分かった」

アービスの態度に心をかされたのか、二人は頷く。

「俺たちはドリウス、小人族の里の皆から落ちこぼれって言われていて」

「こんな機械が作れるのに?」

「いえ、これでは大きすぎるんです」

コウスケの質問にドランが答えた。確かに洗うだけの機械にしては大きすぎる。

「それに僕たちには、小人族には皆できるあることが出來なくて」

「あること?」

機械を作る以外に鍛冶職人がすることと言えば何だろうか。このご時世だと武や防何かが需要がある気がするが。

「はい、まず僕たち小人族にはある行事があるんです。それは人近い青年たちがする祭りのようなものなんですけど、それによってその小人族の腕を試す意味合いもありまして、そこで小人族の腕を確かめるためにある作品を提出しなければならないんです」

聞けば聞くほどある作品というのが気になってくる。鍛冶職人だからハンマーとかだったら分かりやすいが。

「そのある作品というのが」

「というのが?」

「剣なんです」

「……剣?」

剣と言われればあの剣だ。武の。

「剣ってあの剣か?」

「はい、あの振るう剣です」

「……理由は?」

「剣には作った職人の魂が宿ると小人族には古くから言われていて、いつしかそれがその小人族の腕を見る一番の指標になったみたいなんです」

いわゆる文化、慣習というやつなのだろう。

だが他の小人族は作れるのに、彼らだけ作れないというのはどういうことなのだろうか。

「どうして剣を作れないんだ?」

「それが、作れはするんですけど……」

「限りなく不良品に近いんですよ、俺らの剣は」

ドランの後にアービスが自的に言った。彼らにとって剣を作れるというステータスは相當重要な指標のようだった。

「時々生まれるみたいなんです。全く才能の無い小人族が」

「やっぱり持って生まれた奴には敵わないんだ」

「そんなこと……」

ない。と言おうとしてコウスケは口を閉じた。自分も天才たちが通う學校にいたから分かる。才能が殘酷にも全て決めてしまう世の中を。

「そもそも俺たちはあの時からおかしかったんだ」

「あの時?」

アービスの発言が気になったコウスケ。その問いにはドランが答えた。

「小人族はいころから親の鍛冶技などを見て育っていきます。そうして無意識のうちに溜め込んだ知識を吐き出したり、その子どもの才能を見るために、まだ善悪の區別もつかないある時期に鍛冶を自由にさせてあげる習慣がありまして」

「そこで作られるのが大抵」

「け、剣なんです」

三人が言葉を繋げて説明していく。

「とはいえそれは當然の事で、小人族は剣を作ることで己の技を示しているので、生涯で一番作るのが多いが剣です。なのでい頃から剣を作る親の姿を見てきた子どもは、その鍛冶を自由にしていいと言われた時には親のように剣を真似して作るんです」

「だけど俺たちは違った」

ドランの説明の後にアービスが言葉を紡ぐ。

では、彼らは剣を作らなかったということなのだろう。

「僕は槍でした」

「俺は盾」

コウスケにしてみれば、親の真似である剣を作るより、自分で考え抜いて真似ではない武を作り出す方がよっぽど才能があると思うのだが、小人族の慣習がそれを許さないのだろう。

才能があっても認められない、まさにそれだ。しかも本人たちもそれを自覚していない。

「やっぱり剣じゃないとだめなのか?」

思わず口にしてしまうコウスケ。

二人の反応は予想通りと言えるものだった。

「勿論です」

「當然です」

他の種族と関わってこなかった種族だけあり、文化もそこで停滯してしまっているのだろう。

古き良きなんていう言葉がまさにピッタリの種族だ。とはいえ長耳族も新たな一歩を踏み出そうとしているが、し前まではそうだったかもしれないので、この國自が文化の発展途上なのかもしれない。

この固定観念は他人から言われるくらいではじるわけがなく、自分たちで気づかない限りどうしようもないので、コウスケは口出しできなかった。文化批判などもってのほかだ。

「ところで、ヨハネは何を作ったんだ?」

未だあまり聲を出していないヨハネに話を振る。

ビクッとを震わせるヨハネ。この流れだと彼も剣以外のを作ったはずだ。

「ぼ、僕は……」

ヨハネはボソボソと小さな聲で呟く。

通常だと聞き逃してしまいそうなほどの聲量であるが、『超覚』を作しているコウスケには何とか聞こえる音だった。

「ヨハネの場合は聞いただけでは分からないと思いますよ」

ドランからそう告げられた。

「確かに、俺だって全く何を言っているのか分からなかった」

アービスもそれに続く。

つまり全く新しい武をヨハネは作ったということなのだろうか。

「自……です」

「ん?」

コウスケはヨハネの言った言葉を直ぐには理解できなかった。

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