《二つの異世界で努力無雙 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いにり上がってました~》【転章】 高城絵

「う、噓……」

思わず私は呟いた。

吉岡の放った線が、きらきらとしたの殘滓を殘しながら、薄れ、消えていく。

そこにはもう、さんざん私を悩ませ続けた化けはいない。あの不気味な呟き聲すらも聞こえない。

あまりにもありふれた、見慣れた路地が広がっているのみだ。

――助けてくれたというのか。あの吉岡勇樹が。

「立てるか」

そう言いながら、餅をついた私に手を差しべてくる。

ーーあれ、吉岡ってこんな奴だっけ。

暗くてなに考えてるかわからなくて、たまに話しかけてもまったく會話が通じなくて。

それなのに。

「おい、大丈夫かよ」

いま私の眼前にいる吉岡は、の殘滓をにまとい、どこかロマンス的な雰囲気を漂わせながら、私に手を差しべてくる。

その姿は、振る舞いだけで言うなら間違いなくイケメンそのもの。

そんな吉岡に対し、わずかにの高鳴りをじてしまったことは自分でも驚きだった。

なんで。

なんでこんな男に……

「あ、ありがとう。大丈夫よ」

揺を隠しつつ、私はその手を取った。ぐいと引っ張り上げられ、なんとか立ち上がることに功する。

本當にあの吉岡勇樹だよね……?

信じられず、私は改めて自分のクラスメイトに目をやる。

「すげえ。これがの魔法かぁ」

よくわからないことを呟きながら、自分の手を開いたり閉じたりする吉岡。

とか魔法とか、相変わらず意味不明であるが、間違いなく私の知っている彼に違いなかった。

「なあ」

と吉岡は話しかけてきた。

「あのバケモンが現れたのは、今日の朝からか」

「え……?」

なぜそれがわかる。彼はなにか知っているのか。

私の無言を是ととらえたのだろう。吉岡はそれ以上なにも追求してこず、代わりに私にとって重たい一言を告げた。

「あのバケモンが現れたことに……心當たりはないか」

「…………」

心當たり。

ある。沢山ある。

あの黒いモヤモヤの呟き聲。

それは私への罵倒だった。

私の友達を返して。もういじめないで。あなたはもはや人間じゃない。消えちゃえばいいのにーーなど。

だからきっと、罰が當たったのだと思った。これまでさんざん人を痛めつけ、傷つけてきたその罰を、死でもって仕返しされるのだと思った。

そのとき初めて気づいた。

私がいままでやってきたことのくだらなさに。愚かしさに。

ずっと自分の都合だけを考えてきた。

他者の痛みなどまるで見ていなかった。

人間は弱い。

誰かに暴言を吐かれたらそれだけでが揺れる。

毆られたら痛いし、泣きたくなるときもある。

それをわかっていなかった。

「お……おいおい、大丈夫か」

「……え?」

気づいたとき、目から滴が溢れてきていた。

ーーいけない。よりにもよって男の前で泣いてしまうなんて。

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