《二つの異世界で努力無雙 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いにり上がってました~》【転章】 彩坂育

――異世界、闇の世界にて――

「さあ、いまこそすべてのいじめっ子たちに復讐するときだ!」

その大聲に、みんなの歓聲が一際高まる。

高臺に乗った古山章三と、興した顔で彼を囲っている五十人もの高校生たち。

その背後には近未來都市的なタワーがそびえている。初めてこのタワーを見たときはそれはもう驚愕したものだが、みんなすでに慣れたのか、熱狂的な顔で古山に羨の眼差しを向けている。

その古山章三の目が一瞬だけ、私に向けられたーーような気がした。ぞくりとした鳥が全を舐めていく。

「おいどうした彩坂、おまえは興しないのか」

隣にいた男子生徒が笑いながら小突いてくる。

「え……まあ、その……」

「おまえは優しいんだな。だが、いままで散々俺たちを痛めつけたいじめっ子どもだ。すこしくらい復讐してもいいと思うぜ?」

「う、うん……そうだね」

復讐。

それはつまり、いじめっ子たちに暴力を振るうーーということか。いままでやられていたことを、今度はこちらがやり返すつもりなのか。

それが正しいことなのか私にはわからない。

でも、それって本當に良いことなのだろうか? 暴力を暴力で返すということが?

古山が大きな聲を張った。

「さて、ひとつ提案しておきたい。『いじめっ子』という言葉の生ぬるさについてだ」

いわく。

いじめは立派な犯罪である。

いじめのせいで不登校になる生徒がいる。

自殺したり、果てはいじめによる殺人も相次いでいる。

そんな兇悪犯罪者を、「いじめっ子」などと呼ぶのは違和がある。いじめという言葉からして、どこか可らしい。

「ゆえに!」

と古山は聲を張り上げた。

「今後は、奴らを『犯罪者』と呼びたい。いじめはそれ自が犯罪であり、その罪を犯した者は我々が罰する! いじめについてなにもしない、のろまな警察機構は、近いうちに制圧する予定だ。これで、いじめが完全になくなる世界が現実するはずだ!」

うおおおおお、という歓聲が再び巻き起こる。

「君たちには、すでに犯罪者に対抗する力を與えたはずだ! これで思う存分に、犯罪者に対する報復を行ってほしい! だがその前に、ひとつ私からお願いがある」

そこで古山は一呼吸れ。

観衆がいったん沈黙した間をって、靜かな聲音でおそるべきことを告げた。

「吉岡勇樹。こいつは憎むべきリア充だ。こいつを見つけ次第、殺してほしい。以上!」

吉岡くんーー!

がくっと膝が震えた。

そんな。あんな優しい人を、なぜ標的にするのだ。たしかに私たちみたいな底辺には屆かない存在だけれど、どうして。

彼には、高城絵のいじめから救ってくれたお禮をしたかった。でも昨日から返事がない。既読すらつかない。今日は學校にも來なかった。

吉岡くん、いま、どこでなにをしてるのーー!

私はぎゅっと目を瞑り、想い人へ思いを寄せた。

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