俺はしばらく呆然としていた。

目の前には佐久間祐司の死。

彼はもうぴくりともかない。

口から大量のを吐き出したあとは、噓のように固まってしまった。彼は張りつめた表のまま逝った。

死の直前、なにを思い、なにをじていたのか。いまはもう知るもない。 

だが、俺は覚えている。

佐久間が口にした最期の言葉。あれはきっと、古山章三を止めろと言いたかったのだろう。

きっと彼自も気づいていたのだ。いじめられた仕返しに、自分も暴力を振るい、自も「いじめっ子」となる空しさを。そんな悲しい循環など、誰としてんでいないというのに。

俺は最後に、亡き佐久間の片手を強く握りしめた。

おまえの志は俺が継ぐ。

もうこんな馬鹿げた爭いは終わらせてやるんだ。

決意をにめ、俺は彼の手を床にそっと置いた。

「吉岡くん」

俺に腕をまわしたままの高城絵が、そっと問いかけてくる。

「私もあなたの味方になるよ。命の恩人だし、それに佐久間くんをこんなにしてしまったのは……」

彼はそこで言葉を區切り、急に押し黙った。ぶるぶると震えているのが背中越しに伝わってくる。

「…………」

俺もなにも言えなかった。彼が佐久間に対し、顔の醜さを罵る場面を見たことがあるからだ。

この事件で彼も痛したということか。いじめのくだらなさ、愚かしさを。

人の心は簡単に傷つく。

しかしながら、人は他人の心に無頓著すぎる。いじめっ子などはまさにその典型例だろう。

だが、それに彼は気づいたというのだ。

俺は首にまわされた高城の手を握り、決然と言った。

「それがわかったんなら……佐久間も、ちょっとは報われるだろうよ」

「そう……なのかな」

ぽつりと高城が呟いた、その瞬間。

「なんだ、どうなってる！」

ふいに大聲が聞こえ、俺は振り返った。

目を覚ましたらしい警察が、署長室の慘狀を見て慌てふためいている。

それも無理はない。四人の警が倒れ、署長までもが気を失い、テーブルや本棚が倒壊しているのだから。

警は俺たちに気づくや、目を丸くして走り寄ってきたーーのだが、彼も相當の重傷で、途中で転びそうになった。

俺は苦い笑いを浮かべながら、今後の対応について考えた。

魔法で壊れた警察署を復元し、そののちに闇魔法で彼ら全員の記憶を消去する。それがベストだが、いかんせん、俺のＭＰはない。高城も殘りＭＰが５を切っている。

つまり、逃げられない。

さあて、どうするかな……

俺が適當な言い訳を考え始めた、その瞬間。

「余計な心配をする必要はないよ」

「な……！」

ふいに聞き覚えのある聲が聞こえて、俺は怖ぞ気をじた。

リベリオンの頂點にして、すべての発端。

この事件を起こした最悪のいじめられっ子。

視線を向けると、いつの間に現れたのか、古山章三が険しい表で佇んでいた。

いや、彼だけじゃない。

古山の隣にもう一人ーー

「父さん！」

無意識のうちに俺はんでいた。

そう。

白髪じりの痩で、小さいながらも男手ひとつで俺を育てあげてくれた父親。

たしか朝飯は俺が作ると言っておいたはずなのに、俺の好きなメロンパンのったコンビニ袋も手に下げている。

そんな父親が、ぐったりとうなだれて、古山に首を捕まれている。

「……人質のつもりかよ」

古山を睨みながら、俺は小さく問いかけた。