いじめの理由はなんとも馬鹿馬鹿しかった。なんと俺が原因らしい。

以前、俺と彩坂が、二人で育をサボるということがあった。高城はそれに目をつけた。

あんまりこう言いたくはないが、俺はただイケメンであるというだけで、高城からかなり気にられているらしい。

そして、ながらカーストの頂點に立った高城は、彩坂のぐらを摑みながら、ドスのかかった聲で脅しをかけていた。あんた、これ以上吉岡くんに近づいたら殺すよ、と。

その現場に、俺と、そして現実世界の高城が出くわしたわけだ。

まず、教室の時が止まったかのように思えた。

なにしろ高城絵が二人もいるのだ。クラスメイトも、彩坂も、なにより二人の高城が一番驚いていた。

そして俺は見逃さなかった。苦悶の表を浮かべる彩坂の拳が、ほんのり蒼に燈っていたのを。

《彩坂育　レベル４

ＨＰ　６２/６２　ＭＰ　１３０/

１３７

ＭＡ　２４００　ＭＤ　６２０》

やはり思った通り、彩坂の頭上にはステータスが表示されている。すでに魔法は譲渡済みということだ。

凍った空気のなかで真っ先にき出したのは、絵ーーややこしいから、現実世界の高城は絵と呼ぶことにするーーだった。

絵は高城の腕を摑むなり、朝のホームルームも近いというのに、廊下へと消え去っていった。

「お、おいーー」

後ろから聲をかけるが、絵はこちらをちらっと見ただけで、ずんずん先へと進んでいってしまう。

來ないで。

その一瞬の表から、絵の無言のメッセージが読み取れた。二人だけでーー正確には同一人だがーー話したいことがあるようだ。絵は高城の腕を頑として離さないまま、子トイレのなかに消えていった。

あとには、椅子にちょこんと座った彩坂だけが殘されていた。高城に目をつけられたくないためか、誰も彼に話しかけようとしない。

ホームルームの開始までまだ數分あった。俺はやれやれと息を吐き、彩坂に近寄る。

「大丈夫か？」

「吉岡……くん」

彩坂は呆然とした表で俺を見つめ返してくる。

「良かった……無事、だったんだね……」

「ああ、まあな」

無事……というのは、俺がリベリオンの構員に殺されなかったことを指すのだろう。

だが、そんなことは正直どうでもよかった。

さっき彩坂は闇魔法を発しようとしていた。それはつまり、高城を殺そうとしていたことを意味する。

だからだろう、俺の彩坂を見る目がすこし厳しくなってしまったのかもしれない。彩坂は大きく表を崩した。

「どうしよう……私、大変なことをするところだった……」