トイレでなにがあったのかはわからない。だが高城（異世界のほう）はホームルームが始まる前には帰ってきた。なにがあったか、若干目が潤んでいるように見えた。

一方で、絵は教室には戻らなかった。

そりゃまあ、同一人が同じ空間にいたらまた混を來すだろうし、それを判斷してのことだと思われる。放課後になったらまたひょっこり姿を現すだろう。

午前の授業は何事もなく過ぎた。リベリオンからの襲撃もなかった。

廊下を歩いているときなどは、頭上にステータスを映した者がぎろっと睨んでくることもあったが、なんとか戦闘にはならずに済んだ。俺のレベルを見て込みしているのだろう。

その一方で、彩坂は相変わらず落ち込んだ顔をしていた。

あのとき高城を殺そうとしてしまったのが、よほど堪えてしまったのだろうと思われる。すぐにでも話しかけたかったのだが、他のクラスメイトがいるなかで話せる容でもなく、俺は放課後まで待つことにした。一応、話したいことがあるという旨のメッセージをラインで送っておいた。

そして。

放課後、誰もいなくなった教室にて、彩坂はやっとその心中を吐した。

「私……怖いの……」

「怖い……？」

照りつける夕日が、周囲を儚げに染め上げる。オレンジの輝きをにけながら、彩坂は続けて言った。

「レベルが４になったとき、変なスキルが手にって……自分がすごい人間なんだって思うようになって……」

変なスキル。

その容について問うてみると、彩坂の口からとんでもない言葉が発せられた。

《時間・空間転位》

《神離》

俺は呆けたまま數秒間、なにも言えなかった。

空間転位なら俺もできる。だが、そこに時間の作も加わるのであれば話は別だ。彩坂はスキルの力によって、過去にも未來にも行くことができるというのか。

『それだけじゃないわ』

ふいに聲がして驚いた。

急いで振り向くと、そこにすべての事の発端ーー明がかった彩坂育がいた。明がかった彩坂は、もうひとりの自分に薄く微笑むと、改めて俺に目を向けた。

『吉岡くん。本來なら、あなたはこのあと殺される予定だった。最悪の大魔王、古山章三にね』

「こ、このあと……？」

『うん。もうなんとなく気づいてると思うけど、あなたはかなりレベルアップのスピードが早い。スキルもステータスも高い。このまま順調に長すれば、きっと古山だって追い抜くくらいに』

「…………」

『そこに目をつけた古山は危機を抱いたの。そして……あなたを抹殺したわ』

「抹殺……」

そこまでくると、頭の悪い俺でも先の展開が読めてきた。

「なるほど。そうしておまえは時を戻したわけか」

『うん。でも、それだけじゃ足りない。吉岡くんにもっと強い力を手にれてもらわないと、時間を巻き戻してもまた同じことになる』

「ああ、そういうことか……」

だから彩坂は、時を戻すだけでなく、俺を本來とは違う世界に転移させたのだ。そのおかげで、俺は佐久間との戦いを経て、格段にレベルが向上した。

『まあ、そのとき初めてそのスキル使ったから、々と至らないところがあったけどね。たとえば、顔も格もまるで変わっちゃってたとか』