《二つの異世界で努力無雙 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いにり上がってました~》【転章】 高城絵

「はあ……」

ぽつりと、私は重たい息を吐いた。

さきほどの自分自との會話。

異世界の「高城絵」と対話することで、自分の気持ちを整理しようと思っていた。

すなわち、吉岡くんへの想いをどうするか。このままぐいぐいアタックするか、あるいはもう辭めてしまうか。

本當は諦めたくない。彼と際したい。

だけど彼には彩坂という運命の相手がいる。そこに私が介できる余地はない。そりゃあ、一緒に警察署に侵したり、ちょっとドラマティックな出來事はあった。けれどたぶん、あの二人にはそれ以上のなにかがある。

「はあ……」

もう一度、重厚なため息。

屋上の柵に捕まり、眼下を見下ろす。こっちの世界もテスト期間中のようで、せっせと帰宅する生徒が目立つ。

あのなかに、もしかしたらカップルもいるのかな……

そう考えると、ぎゅっとが締め付けられる。

たぶん、この世界の高城絵の苦しみに耐えられなかったのだ。だからいじめという手段に出た。

それがいつの間にか「目的」と「手段」がすり替わり、彩坂への憎悪を溜めていき、ただのいじめっ子になり果ててしまった。それが手に取るようにわかる。

そこまで考えてふっと笑ってしまった。

なんて馬鹿馬鹿しい。私はまだいじめっ子の思考から抜け出せていない。こんなんじゃきっと吉岡くんも振り向いてくれない。

いじめの理由なんて単純だ。

そのターゲットが、気にるか、気にらないか。ただそれだけ。そこに特別な理由なんてないし、私も先日まではそこまで深く考えていじめをしていなかった。

でも、人の気持ちを知ってしまったいまは。

自分自げられ、殺されかけた経験もしたいまは。

三度目のため息を吐き、私は空を見上げた。

自分もさんざん人を傷つけてきたのだ。だから今度は傷つけられて當たり前。この上吉岡くんを求めるなんて、きっとただの傲慢だ。

心のなかでひとつの決斷をくだし、私はくるっとを翻した。

教室にはまだ彩坂さんがいるかもしれない。

実際にいじめをしたのは私ではないけれど、私には謝る義務があるだろう。そして彼に、吉岡くんのすべてを任せよう。

そう思って歩き出そうとしたときーー

「こんなところにいたのか」

思わず怖ぞ気が走った。聞き慣れない聲が響いたからだ。

さっと周囲を見渡すと、五人の男子生徒がニヤニヤ笑いを浮かべながら私を囲んでいた。彼ら全員の頭上にステータスが浮かんでいる。

「そ、そんな……」

思いに耽るあまりにすっかり油斷してしまっていた。いま私は奴らのターゲットになっているのだと。

「やめて……」

と私はかすれた聲を発した。

「そうやって人を傷つけても、あとでまた後悔することになる……だから……」

「っは! おいおい、なんだそのでっかいブーメランはよ!」

「おまえが言うな! この犯罪者が!」

犯罪者……

數秒遅れて理解した。

私たちのようないじめっ子を、彼らは《犯罪者》と呼んでいるのだ。

そう言われるとなにも反論できない。

私のやってきたことはたしかに重罪だ。「ごめん」と一言謝ったところで済まされる問題ではない。

まるで心に重たい雲が覆い被さっていくようだった。抵抗する気力さえも失われていく。

「さあ」

とリベリオンの一人が言った。

「復讐の時間だ。高城絵、貴様には死んでもらう」

瞬間。

私の意識は暗転した。

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